密着温度
「へックション!」
「積和君、大丈夫ですか?」
「風邪か相棒?」
西垣や芦原にくしゃみをしただけで心配されるのも無理はない。 雨の日は低い気温だったり、そうかと思えば日照りで気温が高くなった日もあった。 体温が全く対応しきれていないせいで、体調が優れないのだ。
「
天気予報でも限界はある。 それに最近は雲の動きも良くない。 そうなってしまうのも無理もないだろう。」
「夏服の衣替え期間だってのに、制服を日によって何度も変えるのは本気でしんどいぜ。」
「部活終わりだと尚厳しそうですね。」
そう、俺達は部活が終わってそのままの状態で帰っている。 本当は引間も一緒の予定だったのだが「ウチは待ってるものがあるから先に帰るよん」と言っていたので、この場にはいない。 そこに1つの冷たい風が吹き、それに身震いをした。
「やべぇな。 油断してると身体が冷えてくる。」
半袖にしてきたので露出している腕を擦る。 こんなことをしても意味がないと理解はしているが、やはりやるやらないでは多少たりとも結果は変わる。
「しかし相棒にそのような弱点があったとはな。 その事を晒したという事は、我らは信頼に値しているということだ。」
「・・・別に元々身体が弱かった訳じゃない。 ただ季節の変わり目だけは体調管理してもこうなるんだ。」
芦原の言葉にそう返すが、別に体調管理が出来ないのは弱点ではないだろ。 そんなのを弱点扱いされたら人間みんなそうだろ。
そんなことを反論するような馬鹿ではないのでそれ以上は喋らない。 ただ今の肌寒さだけはどうにも出来ないでいた。
「もうこれ以上上に着るものも持ってないんだよなぁ。 とりあえずは家までの辛抱か。」
そんなことを口にしたら急に左側から衝撃が来た。 衝撃と言ってもそこまで強くはないのだが、何事かと左を見ればおれの腕と巻き込んで抱き付いている西垣の姿があった。
「に、西垣? 何をして・・・?」
「こ、こうすれば、少しは、寒さを、和らげれるかな、と・・・」
そんなことを言っている西垣の顔は既にパニック状態のようで、困惑がこちらにまで伝わってくるようだ。
「大胆な行動だと思うが、理には叶っているだろう。 よく言うだろう? 凍傷を治す為には体温が適切だと。」
「・・・俺達は遭難者じゃねえんだぞ。」
とにもかくにもこの状況は案外まずい。 動きにくいということもあるが、ここはまだ学校が近い。 こんなところを誰かに見られて誤解を生ませては学校生活に影響がでかねない。 必死の案を身を挺して行ってくれた西垣には本当に申し訳ないが現実を見て貰おう。
「西垣。 気持ちは嬉しい。 やってくれたことも感謝する。 身体も温まってきた。 だからもう大丈夫だぞ。」
そう言って西垣を離すわけではないが、少しだけ肩を叩く。 西垣も分かってくれたようで、すぐに離れてくれた。 その後距離を更に取られたが。
「どうだった? 女神からの贈り物は?」
「・・・感想なんか述べられるか。」
多分言わなければこのまま続けてくれていただろうと思いながらも、それは流石に良くないだろうと良心が働いて、ほんのり暖められた腕を感じながら帰路を歩いたのだった。