遊んで帰って
「なんだかエムゼが迷惑をかけたようで申し訳無いです。」
パンチングマシンから離れた俺と西垣だったが、俺のあの発言に謝罪をしてきた。
「迷惑を被ってるのは今更だし、西垣がエムゼのことを認識し始めてるだけでも進歩だから、俺の事は気にするな。」
今のところあの夢のような西垣が1人になる世界線には遠くなっているような気がするが、その均衡がいつ崩れるか分からない。 むしろ今は良くてもという頭が過る。 ならば1人で抱え込ませるよりも、誰かに発散させればいい。 その役割が俺だと言うならば引き受けるのは容易い。
「それよりどうする? もう部活に戻るには遠すぎる。 もういっそのことこんなことになったのをエムゼのせいにして楽しんでみるか?」
引っ込んだあいつのことを悪く言うつもりはないが、こんなことになった元凶のことを言わなければ俺の気持ちが収まらない。 そんな思いで話し掛けて見れば、西垣はゲームセンターの内装を確認した後にこちらに向き直る。
「そうですね。 折角ここまでされたのですから、楽しんでしまいましょうか。」
そうにこやかに宣言したのだった。
その後は協力型のシューティングゲームをしたりアーケード格闘ゲームでCPUに苦戦を強いられながらも攻略したりと、自分でもびっくりする程にゲームセンターに馴染んでいた。
そして時間と言うものは過ぎていき、空は明るくても年齢的に居座るのが難しい所まで迫っていた。
「そろそろここを出ようぜ。」
「あ、それなら・・・」
そう言って西垣はとある場所を指差す。 その先にあったのは大きな箱のようなものにカーテンが掛けられているもの、いわゆるプリクラの筐体だった。
「おー・・・あれってどういうものなんだ?」
「そこは私も詳しくは・・・」
色々と不安になりつつもとりあえず入ってお金を入れる。
『カメラに向かってポーズをしてね。』
そのアナウンスを聞いて俺と西垣は顔を合わせる。 まずは無難にピースを作る。 不慣れなことをするためか笑顔がちゃんと出来ていないと思うのは許して貰いたい。
そして最後の撮影になり、こんなのでいいのかと思いながらシャッター音を待っていたら
「・・・えいっ。」
「えっ?」
パシャッ。
俺は西垣に抱き付かれたままの状態で撮影が終わった。
「それではまた明日です。」
「ああ。 また明日。」
プリクラも取り終わりそのまま解散の流れになった俺と西垣。 帰り道すがら、俺はプリクラを出て加工されたプリクラの現像写真を手に取った。
「西垣がこんなことをするなんてなぁ。」
最後に撮られた写真を見ながらそう呟く。 その表情はあまりにも唐突なことですっとんきょうな顔をしている俺と、西垣自身もかなり勇気を出したかのように口元をぐっと紡いていた。
西垣と出逢ってからというもの、その距離感は中学生時代で言うならば友人関係。 だが普段の西垣のクラスメイト達との距離感は、例え女子であっても一歩退いている。 むしろエムゼの件が出てきた後は距離を取っているのはクラスメイトの方とも言えなくない。
この距離感でまずいと思うのは、西垣が親しくなろうとしている人物を選定しているからかそれとも・・・
俺が西垣の事を友人として見れなくなることを恐れているからか。 沈みかける夕焼けを見ながら俺は家に向かって歩いていった。