発散するための
商店街の一角にあったシンプルな外装とは裏腹に、中はきらびやかに映し出されているその光景。 あまり行き慣れなかった場所なだけに目を覆いそうになるが一度見てしまえばすぐに慣れた。 周りを見渡せば俺達の制服だったりそうでない制服を着た学生がちらほらいた。
「こいつをやってみたくてなぁ。 この辺りを主人格が通る時に目星をつけてたんだよ。」
そう言ってエムゼが立ったのは、アニメとかでキャラクター達がゲームセンターに立ちよった時に必ずと言っていい程描かれているパンチングマシンだった。
「こいつでストレス発散になるのか?」
「拳に籠める一撃ってのは、案外馬鹿に出来ないんだぜ?」
やったことがないので分からないが、そういうものなのなら文句は言わない。 早速エムゼはお金を投入して、附属のボクシンググローブを付ける。
「それはちゃんと着けるんだな。」
「素手でやってるんだと思ってるなら漫画の見すぎだ。 素手でやったらこういうのは案外痛てぇんだ、よ!」
そうして放ったパンチの威力が目の前のボードに映し出される。
「ま、鍛えてる場所がちげえから、そんなに威力は出ねぇな。 んじゃ、もう一、発!」
2発目も同じようなスコアが表示される。 結構判定にシビアなのかもしれない。 そう思いながら見ていると隣から不機嫌なオーラを感じる。 見ればエムゼが今の西垣に到底似つかわしくないであろう顔になっていた。 そして拳を構える。
「・・・たかが雨でセットが乱れたことを指摘されたくらいで、気分を落ち込ませてんじゃねぇよ!」
そんな言葉と共に放たれた一撃がランキングの記録の一部を塗り替えた。 というか怒りの矛先はそこなのかよ。 そう思っていたらエムゼからグローブが差し出される。
「おめぇも一回やってみな。 理不尽な怒りをぶつけるいい機会だぜ?」
そう言われながら俺はグローブを手に取った。
「オレは満足したから戻るぜ。 じゃあな。」
「は?」
グローブを渡された後に西垣の方を見ると、状況が理解できないと言わんばかりの表情の西垣と目があった。
「理不尽な怒り・・・か・・・それなら俺もやらせてもらうか・・・」
あまりの急展開に困惑している西垣を余所に、俺はお金を投入して、グローブを着ける。
「急に現れたかと思ったら、それっぽいことを繰り返して、散々俺の事を引っ掻き回して・・・結局やることはこんなちっぽけなこと・・・」
思い返せば返す程、一番に怒りを言わなければならない相手に、俺はグローブ越しの拳に力を籠める。
「もう一つの人格として本当にそれで満足なのか! エムゼ!」
そう言いながら放ったパンチの威力は最高記録には届かなかったものの、エムゼよりは高い数値をだしたのだった。