梅雨入り
弓道大会が終わった週明けの朝の天気は太陽が覆い被さるほどの曇天だった。
『本日のお天気。 全国的に曇りのところが多いですが、東から徐々に雨雲に変わっていき、所によっては本日の夕方から雨が降るところもあるでしょう。 最高気温は・・・』
テレビから流れてくる天気予報を見ながら朝食を食べ終えて、登校する準備をして、家を出る。 外は曇天のままだが、何時降られるか分かったものでもない。
そんな天気と相まってか教室の空気もどんよりとしているように感じた。 なにか悪い空気が流れているようだ。
「おはようございます。 積和君。」
鞄の中の荷物を整理していると、隣から西垣の挨拶がとんでくる。
「おう、おは・・・って、どうしたんだ? その髪。」
挨拶を返そうと顔を上げれば、何時もの西垣の銀髪が綺麗なストレートではなく、所々うねっていたりはねていたりしていた。
「大丈夫です。 湿度が高いとこうなってしまうんですよ。」
「整えてこなかったのか?」
「今日の朝はちょっと立て込んでて・・・寝坊はしてないので問題は無いですよ?」
それはそうかもしれないが、何時もと違う西垣の姿を見せられると、心配というか不安になる。 本人が大丈夫だと言っているのなら大丈夫なのだろうが、不安は無くなったわけではない。
「そんな予感は嫌な方向に当たるのかもな。」
「どうした相棒。 昼食時間の相手が我では不満か?」
机の向かいに座る芦原が俺に聞いてくる。 その質問に俺は首を横に振る。
「そんなことを思ってる訳じゃない。 ただこの豪雨じゃ帰りが面倒だなと思っただけだ。」
今外は曇天から更に暗くなり大粒の雨が降っていた。 勿論天気予報からしてみれば予報通りではあるものの、ここまでの大粒は流石に想定外だった。 帰るだけでも足元は濡れてしまうだろう。
「それでは女神と一緒にいないことの方か?」
「別に西垣だって必ずしも俺と一緒に昼食を食べる訳じゃない。 女子には女子なりの友人はいるものだって。」
「先程よりも回答が速かったぞ。 図星までとはいかずとも心にはあるようだな。」
芦原はたまに変な勘が冴えてる。 そろそろこいつに嘘や隠し事をし続けるのは厳しくなってきそうだ。
「これもレイニーデイのせいか。 気分がダウナー気味になっているではないか。」
「・・・雨音自体は嫌いじゃないんだがな。」
「明鏡止水の心は開けそうか?」
「雑念だらけじゃ無理だろ。」
芦原とそんな軽口を叩きつつ、帰る頃には止んでいることを願いながらその日の昼休みを終えた。