弓道部の大会 2
弓道場につくと、そこには先輩達と同じ様に道着を着ている生徒がいくつかスペースを作っていた。 壁には弓が何本もかけられていて、何人かは弓の引き具合を確かめあっていた。
「なんか芦原の時の大会前の風景とはまた違って見えるな。」
「ね。 集中の仕方が別だよね。」
引間(文学モード)と会話をしているなかで、他の新入部員も合流した。
「そう言えば俺達って何してればいいんだ?」
「大会の見学でいいって言われてたけど、ただ見てるだけならつまらなくない?」
この場所に来た意味を理解しているのかいないのかと言った会話の内容に、毎年大変なんだろうと感じてしまう。 強制参加とまでは言われていないものの、ただ呼ばれるだけでは意味がない。
「これから我々は開会式に参加する。 新入部員諸君は参加は出来ないが、見学場からならば見えるだろう。 そこに移動するように。」
島崎部長に言われて俺達と他の学校から来た数名はその場所に移動する。
開会式が始まりその様子を、矢が飛んでこないようにするための防護網越しで見ている。 とはいえ普通に見ればただの開会式。 退屈なのには変わらず、実際に他の学校の生徒もだが、何人かは既に話を聞いていない。 俺も話していることは分かるが、内容までは頭に入っていない状態だ。 これも忍耐の訓練なのだろうか。
「それでは開会式を師範の手合いをもって終わりと致します。」
そう言うと盛られている土壁の所に的が1つ用意され、弓道場では1人の初老の人物が弓を持ちながら前へ出た。
そしてその人物が何をするかと思えば、左腕を道着から脱いだのだ。 歌舞伎役者のような格好になりながらも矢を弓の弦につける。
ここからは作法通りの動きをしながら弓を構えて、弦から弓かけの付いた右手を外すすと、矢は風切り音と共に飛んでいき、数メートル先の的に命中する。
「「よし!」」
道場側で見ていた生徒を含めた全員が一斉に声を出した。 俺達防護網側の生徒はそれを知らないので、いきなり声を上げたことに道場側を見てしまった。
そして開会式も終わり退場する先輩達を見て、俺達も移動する。
「半分くらい何言ってるか分かんなかったわ。」
「ジジイの半裸の背中見せられただけじゃね? 女性だったら良かったのにな。 ババアでも嫌だけど。」
「退屈~。」
同じ様に戻っていく生徒の中にはそんな言葉を口にする人達もいた。 島崎部長風に言うならば「あれは続かないな」と言った具合だ。 3ヶ月後には見なくなってるかもな。
「積和君はどう見ます? 今の開会式。」
引間からそんな感想を聞かれる。 とりあえず率直に言うならば
「多分あの場でああやって射てるまでに相当の集中と根性がいるんだろうな。」
弓を射った事への感想ではない。 立った人物はこの場で誰よりも練習をしてきた人物。 生半可な気持ちで入れる程弓道の道は広くはないということを目で実感した。 いよいよ大会と言う名の御前試合が始まろうとしていた。