久しぶりの青野家
「なぁ...僕の家来る?長期出張で一ヵ月ぐらい家に帰ってこないから両親いないから何時までいても怒られないよ。ゲームとか...本とか...結構あるんだけど...」
と突然海斗が言った。顔が少し赤いので暑さに弱いのかもしれない。それと、ハッキリとは海斗は言っていないが、アパートで私がいてエアコンなどの電気製品を使う回数と時間を減らして少しでもお金を浮かせた方がいいんじゃない?と言いたいのだろう。そこまで困っていないので「大丈夫だよ?」と言うと海斗は急にニコニコ笑顔になって歩き始めた。
...?どうして急に笑顔になったの...?
そう疑問に思いながら海斗についていった。しばらく歩くと私が今住んでいるアパートが見えてきた。手前には海斗の住んでいる家が見えた。海斗の家の方が学校に近いが数十メートルしか離れていないのでほとんど同じである。海斗の家の前で別れようとするが海斗が私の手首を掴んで帰る事が出来なかった。
「よーし!!真奈、今日は何する?ゲーム?本交換?」
とキラキラした目で話かけてきた。どうしてそうなるんだと思い、自分の返答を思い返した。
...日本語って怖いな...
自分の返答が来る事に対して"いいよ"となる大丈夫だと海斗は感じてしまったのだろう。
どうすればいいのかと沈黙していると、
「今日はゲームしよー」
と手首を掴んだまま海斗が家に入るので私は半分引きずられるようにして家に入った。
久しぶりに来たからか凄く懐かしく感じた。
テンションが可笑しくなっている海斗について歩いていくと幼稚園児の頃にはなかった本があった。タイトルは「世界唯一の聖女が...」と書いて在り、思わず手に取って内容を確認すると先日販売されたばかりの私が書いた本だった。しかも特装版で、中に短い短編小説が一緒に入っていた。
後ろから視線を感じたので後ろへ振り向くと
「真奈もその本気になるの?それは深月先生の書いた本なんだけど、貸そうか?」
と海斗が訊いてきた。申し訳ないが、私が深月なので、内容を全部知っているうえに裏話まで全て知っているので丁重に断ったのだが、「気が向いたら読んでみてね」と言われて読みたくなった際に貸してもらえることになった。
...だから、内容知ってるんだってば...
そんな事を海斗に言って嫌われたり、クラスメイトにバレてしまうのも嫌なのでぐっとこらえた。
「う、うん、気が向いたら借りるね」
因みにこの本は一巻だが、隣に二、三巻と並んでいる。一応十巻は超える予定なのでまだまだ販売されるはずだ。最終話の内容まで大体知っているので私が原稿紛失などをしない限り、借りることはないだろう。本棚から視線を外すとゲーム機があったので、思わず近寄った。今流行っているSvichというゲーム機だった。その下にあるカセットケースには"大迫力! スライムストーリー 2"と書いて在った。これは即完売になったゲームソフトの一つだ。"1"の方は最初は全然売れなかったのだが人気YouTuberがゲーム実況をしたことで瞬く間に人気になったゲームだった。私も昔はしていたのだが、アパートで電気を無駄に使えないので、泣く泣くゲーム機とゲームソフトを売った。その後すぐに"2"が出たので後悔していたのを覚えている。
「遊んでみたいなぁ...」
と言葉が口をついて出た。すると、海斗が「スライムストーリーする?」と訊いてくれたので
「やってみたい...です」
と言うと海斗は苦笑いをした。