口下手は禍の門
理科の授業が終わり授業の内容について少し話していた。
「道管と師管がどっちがどっちか覚えられる自信が無いんだよね...」
「うーん..."う"が付く方が道管って覚え方でいいんじゃないかな?」
「真奈、どういうこと?」
と海斗が訊く。
「双子葉類も単子葉類も茎の断面図の道管は"内側"でしょ?後、葉の断面図だったら"上側"だから、"う"が付く方が道管でいいんじゃないかな?...と」
私がそう言うと成程...と二人が頷いてくれた。
「因みにどっちが水分でどっちが養分を運ぶとかの覚え方とかある?」
「道管は"水"道管と覚えればよい...!!と思う」
「なるほどね~真奈ちゃんがテストでいつも良い成績の理由が分かったよ」
と蒼花が笑う。そこまで良い成績ではないと思うんだけど...新入生テストで英語以外をほとんど満点だったからだと思う。
...英語だけ80点台だと言えるはずがない...
そのお陰で合計点が475という微妙な点数を叩きだしたとか言えない...
この前も英語担当の先生に「水木さん...他の教科の点数がいいのは良い事ですが、英語の点数ももう少し上げてください...」と言われてしまった。英語の順位が3桁で泣きそうになった事は忘れられない。
少し悲しい出来事を思い出しながら教室へと戻ると、大野先生が席を全て入れ替えて下さっていた。黒板に貼ってある席順を見ると、私は後ろから二番目で教卓から見た際に左かだ二番目だった。私から見て右に蒼花、左に海斗だった。席が近くなったことで、何かと便利になる事だろう。
変わりない一日が終わり、放課後になった。蒼花は陸上部に入っているので、「また明日」と別れた。海斗と私は部活に入っていないので、一緒に下校することになった。
「そういえば、海斗は自己紹介の時にサッカー部に入りたいって言ってたのにどうして入らなかったの?」
と前から気になっていたので訊いた。幼稚園の頃から運動神経が良く、地元のサッカーチームに入っていたほどだ。家にサッカーボールが飾ってあったので、サッカーファン兼サッカー選手になるのだと勝手に思っていた。
「幼稚園を卒業してから真奈と一緒に帰ってなかったから真奈と帰りたいというのと、最近そこまで成績が良くないから家で勉強する時間を増やしたいなと思ってさ」
と海斗は言う。言葉が少し足りない部分があるが、普通以上の成績では物足りないというのと、一緒に帰る時間が少なかったから久しぶりに帰りたいという事だろう。言う事が意外と可愛いじゃないかと、ふふっと笑った。すると、海斗が急に「真奈って昔と同じ家に住んでるの?前、真奈の家から知らない男の人が出てきたんだが...」と言った。"知らない男の人"...か。母はもう引っ越したのかもしれない。前から家計に余裕は無かったので、家は売り払って他のマンションなどに引っ越したのだろうと自分自身に言い聞かせた。
「いや...今はアパートで一人暮らししてるんだよねー」
と言うと、海斗が額にしわを寄せた。
「お金に困って家を売り払う事になってしまって真奈の母さんが住み込みで働いているとかじゃないよな?それか...家出...?」
「違う、違う、お金に困って家を出てきたわけじゃないから安心して?私が好きで住んでるだけなんだから」
と言ったが海斗には完全に信じてもらえなかったようで、海斗は少し考えるような仕草をしている。どうしたら私の口下手は治るんだろうかと自己嫌悪に陥りかけた。
※口下手は禍の門なんていう言葉はありません。