親友の死を見て
海斗君が死んだかもしれないという恐怖はある。それ以上に助かっていないのではないかと思ってしまう自分自身が一番嫌いだ。頭をガシガシと手で掻きむしり、蒼花に声をかけた。
「蒼花...今ってスマホ持ってたりする...?」
「ご...め...スマ...持って...い」
途切れ途切れで上手く声も言葉も繋げる事が出来ておらず、私は悟った。
――蒼花は海斗君の事が好きなんだ...と。
悟りながらも私は海斗君の事を助けたいという一心で、近くを通りかかった人に声をかけた。
「お願いします! 救急車を呼んで下さい...!! 私の親友がっ! 私の親友がトラックにはねられてしまって...! トラックはそのまま逃げてしまって...!!」
と私が言うと、彼女はポケットの中を手で探り、鞄の中を探り始めた。――見つけた! という声と共にスマホで電話を掛け始めた。
それを見た私は体の向きを変え、学校のある方向へと走り出した。
「真奈(まな)ちゃんっ!!」
と蒼花が声を張り上げた。
「学校までAED取りに行くから...! 海斗君の事...! 頼んだよ...!」
と私が蒼花に声をかけると泣き顔を一層泣き顔へと変えて大きく頷いた。
――学校まで何十kmもないし...頑張れる...! なんとしてでも海斗君を救うんだ...!
一心不乱に学校まで走った。この間の時間にも海斗君の命の灯が少しずつ暗くなっていっているのだと思うと、心が暗くなってきた。
悪い想像...現実を振り切り、私は走った。
「水木さん!? どうしたの!? 鞄は!?」
と声をかけてくれる先生方やクラスメイト、そして他クラスの友達もいたが、
「ごめん、急いでるので」「ごめん、急いでるんだ!」
というどちらかだけで会話を終わらしてしまった。本当に申し訳ないとは思うが、人命には代えられない。
「はっ...はっ...はぁっ...」
息を切らしながら学校に着いた私は、もう一度足に力を込め直し、学校へと駆け込んだ。
玄関ホールにあるAEDをむしり取るように手に取り、踵を返して学校から駆け出した。
「こらっ!! 何してるんだ!!」
という体育教師の声も聞こえたような気がするが、そんなのは知らない。
――海斗君を助けるためだ。
もう自分自身の体は限界を迎えているのだと自分でも分かる。関節の一つ一つは軋み、脚や腕は鉛のように重くなっている。腕に抱えているAEDも2kg程度の重さのはずだが、何十kgもあるように感じられる。そして、先程走って来た道のりが永遠に終わらない物のように感じる。
――嫌だ、失いたくない。絶対に救う!!
そう思う私の気持ちとは裏腹に、体は思うように動かない。
運動しておけばよかったと今更思っても意味がない。
もしも部活に入っていれば、
海斗君と一緒に帰る時の楽しい思い出などなかった。
もしも部活に入っていれば、
海斗君と蒼花の事を歩道に押したときに自分も歩道に入れたのではないか
もしも部活にはいっていれば、
海斗君がはねられることはなかったのではないか
もしもぶかつにはいっていれば――海斗君は――
「――うわぁぁぁぁぁっっ!!」
全て自分のせいだ。
全て選択を間違えた自分自身のせいだ。
部活に入らなくとも、
勉強をしていても、
小説家として、小説を書いていても、
運動ぐらいは出来ていたはずだ。
"人の命を助けるため"
そう思うから出来ないと思っていたんだ。
運動ぐらい誰だってしている。
私だけが、私だけが...!
自分自身の逃げ道ばかり作って...!
気が付くと、私の両目から熱い液体が流れてきた。
「なに...これ...?」
そう私自身声に出したが、
腕が、思うように動かない。
顔の向きも表情も動かない。
脚も思うように動いてくれない。
海斗君を助けたいのに...!
自分の無力さに反吐が出る。
そう感じる自分自身が本当にどれだけ無力だったか、海斗君にどれだけ助けられたかを今更実感した。
あぁ...こんな感情、抱いてはいけないのに...
私は...私は...
――海斗君の事が好きすぎるんだ...




