表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

エーデル到着前の皇宮



「エーデルの載った馬車が国境門を越えた。」

「やれやれ。やっとか。監視魔法をこれで使える。…お。あれがエーデルか?」

「ねえ。何、あの座り方。まるで囚人を護送してるように見えるんだけど?」


 皇帝の私室に皇帝の末娘ローザ公爵夫人と皇帝弟シルバーニア公爵、そして皇帝の遠縁にあたるレオナルド・ヴォルト公爵が集まって、直径2メートルはある透明な水晶玉を覗き込んでいる。


 今、シルバーニア公爵が「エーデルを水晶玉に投影するよう」魔力を注いだばかり。

この水晶玉は帝国の領土の中であれば、指定した場所、あるいは人を見ることができる。この帝国では反乱も謀反も事前に全てその芽が出るが早いか摘み取られている。

それは、この水晶玉が皇帝の手元にあるから。

…皇帝一家…紫の瞳を持つ一族だけが知るトップシークレット。

そして、今、皇帝たちは初めて亡きブランカ第一王女の娘エーデルをその目で見、彼女の周りの者達の威圧的な態度に眉をひそめていた。


「エーデルはダゴン国王に溺愛されていたのでは、ないのか?」


 マーキュリー皇帝が首をかしげる。

自分が知っているダゴン国王は我が娘ブランカを溺愛していた。

ブランカは紫色の瞳を持っていなかったので、他国に嫁に行かせることは元から決まっていたけれど、あんな小国に…と皇帝だけでなく皆が反対したのを押し切ったほど。

それに、ブランカが亡くなってからもう14年になるというのに、ダゴン国王は新しい王妃を娶らない。

だから、ダゴン国王はブランカを今でも大事に思っていて、その忘れ形見のエーデル姫を溺愛し王宮の奥深くに隠しているのだろう、とマーキュリー皇帝は思っていた。

また、彼の国から伝わる噂もそれと似たようなものだった。


 水晶玉を食い入るように見ていれば、エーデルの正面に座った男が聞き捨てならない言葉を吐く。


「良いですね。皇宮に入ったら可能な限りしゃべらないように。お前への質問は私が代わりに答えますから。余計なこともしないように。お前の態度次第で、ドリーの命が消えることを自覚しなさい。何かあったら伝書鳩を飛ばします。お前が帰国する前にドリーの命が無くなっていると言うことにならないように。」

 エーデルが青い顔をしてコクリと頷くのが見える。膝の上に置かれた両手はぎゅっと握られ、かすかに震えているようだ。


「陛下。エーデルは明らかに脅迫されていますね。」

「ドリーってブランカ姉様の乳姉妹のドリー・アガタ伯爵令嬢のこと?ブランカ姉様が亡くなった後も、エーデルの世話をしたいって言ってダゴン国に残ってくれた侍女でしょう?なんで、エーデルと一緒に乗っていないの?」


 マーキュリー皇帝の周りで皆が騒ぎ出す。


「シルバーニア。ダゴン国に急ぎ暗部を向かわせろ。ドリーの様子を調べ、もし危害を加えられていたら帝国に連れ戻せ。」

「承知しました。兄上。」


 シルバーニア公爵が急いで部屋を出て行き、それと入れ替わりに皇太子ライオネルが入ってくる。

「やれやれ、やっと公務に区切りができたから来られたよ。今、叔父上が出て行ったけどどうかしたの?…あれ、あの子がエーデル?」


 ライオネル皇太子も水晶球を覗き込み、それほど時間が経たないうちに額に青筋が浮かぶ。


「こいつら不敬罪で全員死罪にして良いですね?父上?」

「そうだな。だが、すぐではない。…エーデルの立ち位置がはっきりせん。あの者共がドリーを盾にエーデルを脅迫しているのかもしれん。その場合、ダゴン国の反国王派ということも考えられる。であれば生かしたままダゴン国王に引き渡すべきだろう。内紛には我が帝国は関知せぬ故。」

「…わたくしの勘だけど…。あの者共は反国王派では無いと思うわ。でも、エーデルを敵視している一派なのは間違いないわね。」

「ローザ?」

「エーデルの正面に座っている男、会ったことあるもの。昨年、表敬訪問してきたハリー侯爵。ダゴン国宰相バンダース公爵の嫡男。彼の妹が第二王女レダーシアの母。エーデルが居なくなれば、彼の姪のレダーシア第二王女が王位を継ぐ。」

「…ふむ。ハリー侯爵の独断か。はたまた宰相が命じたか。それとも…。」


 マーキュリー皇帝はあご髭を撫でながら考え込む。


「レオナルド。」


 水晶玉を食い入るように見つめているレオナルド・ヴォルト公爵に呼びかけたが返事がない。


「うん?レオナルド?」


 レオナルドはじっと水晶球を食い入るように見つめて微動だにしない。

と、ローザがカツカツと速足でレオナルドに近づき、肩を強くたたいた。

「レオナルド。皇帝陛下がお呼びよ?」

 肩を叩かれて、反射的にレオナルドは水晶玉から目を離し振り返るが、その顔は赤くなっている。


「レオナルド?」

「あ、ああ。何て美しい…。」

「…何?…顔が赤いが大丈夫か?熱でもあるのか?」

「え!?いや、いや!」

はっとしてレオナルドは両手で自分の頬をパン!とたたく。

「ごほん。失礼しました。何か?」

「…大丈夫か?…エーデルが皇宮に入ったら碧玉の間につれてきてくれ。その時、エーデルの“写し身”を置いてくるように。エーデルが居なくなったことをダゴン王国の者に気取られぬよう。…できるな?」

「ご命令、確かに承りました。喜んで。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ