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皇宮到着



 ダゴン王国の首都を馬車で通ってきた時、窓からたくさんの家や人を見て驚いたけれど、フェアリーリーフ帝国の皇都はダゴン王国首都が小さくみすぼらしく感じるほどの違いがあり衝撃を受けた。

さすが、世界最大かつ最強と言われる帝国。

ダゴン王国のような小国とは人口も街の発展の具合も全く違う。

寂れた田舎町と先進的な大都会。そんなイメージだった。


 帝国兵が先ぶれを出して先導してくれるため、私達の馬車は行く手をさえぎられることなくスムーズに進む。

道路の両脇で私達の馬車を見学している帝国民たちの多くが馬車に手を振ってくれる。

手を振り返したかったけれど、ハリー侯爵からは

「身動き厳禁。正面をまっすぐ見ていること。」

と厳しく言われていたので、それさえもできず、残念。



 とうとう1週間の旅路も終わりを迎えた。

馬車は皇宮の門をくぐり、皇宮の正面で静かに止まる。

ハリー侯爵がまたもや低い声で脅してくる。

何度も注意されて耳にたこができているのに。

「良いですね?絶対に口を利かないように。」


 馬車の扉が開かれ、まず、ハリー侯爵と従僕が降りて出迎えてくれた人に挨拶をしている。出迎えてくれた人が、自分は外務大臣のドブレー侯爵と自己紹介したのが耳に入る。

挨拶が終わると、侍女達がまず降り、それからハリー侯爵が私に手をさしのべて降りるように促がされた。

渋々、その手につかまって降りるとすぐその手は離され、私の周りをぐるりと10人の侍女たちが囲んだ。皆、私より背が高い人ばかりなので視界が遮られる。


「お部屋にご案内します。」

ドブレー侯爵の顔は見えないけれど声が聞こえて、侍女達が歩き始める。私も真後ろに立った侍女に背中を押され、仕方なく歩く。


…周囲がほとんど全く見えないわ…。

小さくため息をついた時、私は突然ふわっと身体が浮くのを感じた。

「え?」

天井近くに自分が居る。

…え?空中に浮いている?

思わず悲鳴を上げそうになった時、後ろから誰かが抱きすくめ口が手で塞がれて耳元でささやく声がした。

「しっ。驚くのが当然だけど、今は我慢して?」


 ダゴン王国の一行がぞろぞろと奥に吸い込まれていくその中央には私がいる。

…え?わたしが、居る?


 彼らが奥に進んで視界から見えなくなるとようやく口を塞いでいた手が離され、そして私は後ろから抱きかかえられたまま天井から床にふわりと下ろされた。


「こっちに来て。」

 プラチナブロンドの髪と紫色の瞳をもつ若い男性がニコッと笑いかけながら、私の手を引き、ダゴン王国の皆が向かったのとは違う廊下に先導する。

「あの?」

「部屋に入るまで黙ってて?」


 それほど遠くない部屋まで案内され、手を引かれて入ると同時に扉が後ろで閉まる。


「連れてきたよ。」

 私の手を握ったまま離さず、若い男性が明るい声をあげる。


「ご苦労。」


 部屋には数人の男女が座っていて全員、プラチナブロンドの髪と紫色の瞳を持っていた。

一番奥に座っている人を見た瞬間、堂々たる体躯と自信あふれる表情、何よりも強烈なオーラを感じて、彼が帝国皇帝…おじい様、だと直感した。

握られている手を彼の手から引き抜き、カーテーシーを取る。


「帝国の太陽たるマーキュリー皇帝陛下に、ダゴン王国第一王女エーデルがご挨拶を申し上げます。」

深く頭を下げれば、カツカツと足音が響き、肩に手が置かれたのを感じた。


「そんな堅苦しい挨拶は不要だ。顔を見せておくれ。」

見上げれば、生き生きとした明るい瞳で愛おしそうに自分を見てくれている皇帝がそこにいた。


「おお。ブランカにそっくりだ。会えてうれしいよ。エーデル。」

「皇帝、陛下…。」

「ああ。そんな堅苦しい呼び名をしてくれるな。おじい様、と呼んでくれんかね?」

「お、おじい様?」

「ああ!その通り!よく来た!エーデル!待ちかねたぞ!」


 皇帝陛下が大きな手で、わしゃわしゃと頭を撫でる。


「父上!そんな撫で方をしたら、髪がぐしゃぐしゃになるじゃありませんか!」

怒った声と一緒に私はぐいっと横から腕をひっぱられ、よろけたはずみに引っ張った女性の胸に飛び込んでしまう。

その女性は易々と受け止め、自分の傍に引き寄せたまま髪を丁寧な手つきで直してくれながら、ニコニコと声をかけてくれた。

「エーデル。やっと会えてうれしいわあ。わたくし、皇帝の第5皇女のローザよ。あなたのお母様ブランカの末の妹。フェンネル公爵夫人というのが今の立場。」

「ローザ様?」

「あああん。もう。おば様、と呼びなさい!お・ば・様!わかって?」

「は、はい……。」


 目を白黒させている間に、他の人からも挨拶をされる。

母の兄である皇太子ライオネルとその息子のガーランド王子。

皇帝の弟シルバーニア公爵。

そして、私を引っ張ってきたのが皇帝の遠縁にあたるレオナルド・ヴォルト公爵。


 一通り彼らの挨拶が終わった頃、扉がノックされて先ほど馬車を出迎えてくれたドブレー侯爵が入ってきた。


「ダゴン王国の者達は全員、客室に入りました。エーデル様も含めて。」

「おう、案内ご苦労。」


 …エーデル様。って。私はここにいるのに!?

私の混乱した気持ちが皆さまにも伝わったようだ。


くすりと笑いが漏れ、ローザおば様が私を手招いた。

「エーデル、こちらにいらっしゃいな。お茶を飲みながら説明してあげる。」

招かれてローザ公爵夫人の隣の椅子に座ろうとしたら、いきなり手を引っ張られ、

「ぼくの隣に。ね?」

にっこりとレオナルド・ヴォルト公爵が引いた椅子に私を強制的に座らせ、ちゃっかり隣の椅子に座ってしまう。

「ヴォルト公爵?」

「レオナルドって呼んで?ヴォルト公爵なんて呼ぶ人はこの部屋には居ないから。」

「は?はい?れ、レオナルド様?」

「様も不要だけどねえ。ま、いっか。今は。」

レオナルドがにっこりと笑いかけてきて、ドキドキする。

ローザ様達がちょっと驚いた顔をされていたけれど、誰も彼を咎めず。


ほどなく私が入ってきた扉とは違う別の扉からお茶を載せたワゴンと一緒に侍女が入ってきて、私達の前にお茶とお菓子を並べてすぐに退室していった。


「あなたの好みがわからないから今日はわたくしの好みで用意したの。今度、あなたの好みを教えてね?…で、さっきの続きだけれど。」

ローザおば様が優雅に紅茶を口にふくみながら、話し始めた。



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