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帝国への旅



 帝国との国境までは馬車で片道5日かかる。

国境から帝国皇宮までは片道2日だ。


 今まで着せてもらえなかった豪華なドレスと立派な宝飾品で飾りたてられ、ダゴン王家の紋章が入った大型馬車で移動する。

本来は楽な旅程なのかもしれないけれど、初めて着るずっしり重いドレスとアクセサリーは肩が凝りそう。

その上、両脇を初対面の侍女2人に固められ、正面には宰相の息子のハリー侯爵とその従僕が座っていて窮屈な思いで身を縮こませているので身体中が痛くなりそうだ。


「…父が渡した書類は暗記しましたか?」

「はい。」

「本当に覚えているか、テストします。」

そして、ハリー侯爵が次々と質問を投げてくる。

私は暗記したとおりに回答し、確かに覚えていることにハリー侯爵は満足したようだ。

ハリー侯爵は私にはまったく興味が無いようで、そのテストの後は話しかけてこず、何やら書類を読んでいるか眠っているかどちらかだった。


 夜になると街にあるホテルに泊まるけれど、ホテル1棟丸ごと借り上げ、私は一番階上の一番奥の部屋に侍女2人と閉じ込められた。

ドリーが心配したとおり、24時間私は見張られ、紙やペンに触れることは許されず。

ドレスも宝飾品も何もかも自分から触れることはできなかった。

夜脱いだドレスはそのまま回収され、朝、着替えるとき、必要なものを持ち込んでくる徹底ぶり。

マント以外は、1度身に着けたものは2度と身に着けることが無く。

そこまで帝国と連絡を取ることを警戒しているのは異常なくらいだった。


 食事も朝と夜は部屋で取り、昼は馬車の中で食べた。

じっと見張られながらの食事は全然美味しくなくて、機械的に流し込み何を食べたか覚えていない。






「…帝国に知られることはないだろうな?」

「ええ。陛下。24時間ずっと配下の者が見張っておりますし、紙もペンも触れさせません。塔から物を持ち出すことは禁じましたし、念のため、塔から出るとき着ていたドレスは夜、回収し燃やさせました。帝国滞在中は我が息子ハリーが張り付き、極力、彼女にはしゃべらせないように命じてあります。侍女も10人付けましたから、帝国から侍女を寄こしても断る口実になる。」

「…帰国時の手配は万全か?」

「もちろんでございます。帝国から帰国時、国境の近くで、雇ったならず者どもに馬車を襲撃させる予定です。襲撃と同時に姫の隣に座っている者が姫を殺します。ならず者に殺されたように見せかけて、ね。それにあっさり捕縛されるように言ってある連中には雇い主としてある帝国貴族の名前を吐くように命じてあります。帝国の領土内で、帝国の貴族の刺客に我が国の第一王女が暗殺されるのです。これは帝国の完全なる落ち度。我が国は帝国に、大事な第一王女を帝国貴族によって殺されたことを抗議するだけです。」

「…うむ。帝国から賠償金をせしめられれば国庫は潤う。我が子レダーシアが女王に就けば帝国が我が国の政治にでしゃばることはできぬ。…エーデルには死して我が国に役立つことで、母親の罪を償ってもらおう。」

「はい。陛下。」


 宰相が退室して扉を閉める音を聞きながら、ゴードン王は固く目を瞑り嘆息する。

14年ぶりに再会したエーデルはなんと母のブランカに似ていたことか!

一瞬、ブランカが生き返って目の前に現れたと錯覚したくらいだ。

最愛の、そして、もっとも憎き王妃。

…ああ、なぜ、君は自分だけを愛してくれなかったのか……。







 ダゴン王国の騎士団に厳重に護られ(見張られ)、旅程は遅れることなく予定通り進んだ。

ダゴン王国を出て5日目、フェアリーリーフ帝国との国境門に到着。

ここではダゴン王国騎士団の半数が国境をくぐることを許され、残りの半数は国境門の外で待機する。その騎士のための宿舎も用意されていた。


 帝国の国境兵が馬車に声をかけてくる。

「絶対に口を利くな。」

 冷たい目を向け釘をさしてから、ハリー侯爵が馬車の扉を開ける。


「おお。あなた様がブランカ様の姫君、エーデル様でございますね。はるばるお疲れ様でございました。皇帝陛下が皇宮にてお待ちでございます。この国境門から皇宮まで2日ほどかかります。お疲れでしょうが、もうしばらくご辛抱をいただけますか?それとも、この砦で少しお休みになられてから出発されますか?」

 私が口を利く前に、ハリー侯爵があっさりと断った。

「お気遣いに感謝します。なれど、姫は早く母君が育った皇宮を見たいと、ここ数日、我らを急かされておりまして。姫のお気持ちを汲んでいただければ…。」

「おお。それは配慮が足りず、申し訳ございません。…姫君、皇宮まで我らが先導いたします。もうしばらくご辛抱を!」


 馬車の扉が閉じられ、外がにぎやかになる。

先導する帝国兵とダゴン王国騎士が打ち合わせしているようだ。

やがてその打ち合わせも終わったのだろう、ゆっくりと馬車が皇宮に向かって帝国領土の中を進み始めた。



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