エーデル・ヴォルト
私が帝国皇女となって2年が過ぎ、16歳になった。
この2年の間に皇女として恥ずかしくない教養を身に着け、魔術の腕も磨いた。
今ではこの国のトップクラスの魔術師として、皇帝陛下の命があればその力を帝国国民のために使わせてもらっている。
さて、早くも今日は16歳の誕生日の翌日で、レオナルド・ヴォルト公爵との結婚式。
「お綺麗ですよ。ああ、御髪が少し…」
ドリーが大きくなったお腹をかばうようにしながらも、真っ白い婚礼衣装を着た私の世話を焼こうとする。
「ドリー!産休に入っているのだから、私の世話は侍女に任せればいいのよ。あなたは座っていて!」
「そんなあ。エーデル様あ。」
「絶対にダメ。ミーア、ドリー・マクロン伯爵夫人をソファに連れて行って、あたたかい飲み物をお渡しして?」
「はい。エーデル皇女様。」
そう、ドリーは私が皇女になってからほどなく、彼女を地下牢から助け出した暗部…ジョナサン・マクロン伯爵と結婚した。
マクロン伯爵は地下牢の中でも毅然とした態度を崩さなかったドリーに好意を持ったのだそうだ。
暗部に属する者は生命が危険にさらされる機会が多いことと予定外の行動が多いため婚姻しない者が多いと聞くけれど、皇帝が暗部から騎士団に異動を命じてくれたおかげで、婚姻にこぎつけられたみたい。
彼の所属する第8騎士団は第六皇女エーデルを護衛するために作られた。
だから、マクロン伯爵とその夫人となったドリーは夫婦で私を助けてくれている。
今日、ヴォルト公爵夫人に皇家から降嫁するとしても、夫婦ともども皇位継承権を持つことに変わりはないため、第8騎士団はそのまま継続して護衛の任についてくれるそうだ。
「エーデル、準備はできて?」
「おじい様。ローザ叔母様。はい。できました。」
「おお、美しいな。エーデル。」
「本当に綺麗だこと。きっと、レオナルドが惚れ直すでしょうね。…さ、神殿に行きましょう。」
元ダゴン王の父ゴードンは、今日の結婚式への列席を断ってきた。
2度と公の場にでるつもりはない、と。
ただ母が一番好きだったという白いバラの花束と自筆の手紙が欠席の通知に添えられており、
「永遠の幸せをブランカとともに祈る。」
と一言だけ書かれていた。
私は祖父の皇帝と叔母のローザ公爵夫人に先導されて、レオナルドが祭壇の下で待つ神殿の礼拝堂に歩を運ぶ。
礼拝堂には真紅の絨毯が祭壇までまっすぐに敷かれ、皇帝と公爵夫人が祭壇の下まで私を導き、お二人は一番前の席に左右に分かれて座る。
正面の祭壇は少し高い位置にあり、大神官とレオナルドが微笑んでいる。
ドレスの裾をそっと持ち上げながら慎重に1段、2段、と階段を上がれば最後の3段目に足をかけるが早いか、レオナルドが手を差し伸べてくれて、その手にエスコートされて壇上の彼の横に立つ。
「レオナルド・ヴォルト公爵。あなたはフェアリーリーフ帝国第6皇女エーデル姫を妻に迎えることを神と精霊の御名に誓いますか?」
「誓います。」
「フェアリーリーフ帝国第6皇女エーデル姫。あなたはレオナルド・ヴォルト公爵を夫に迎えることを神と精霊の御名に誓いますか?」
「誓います。」
「では、互いの魂を結びつける指輪の交換を。」
大神官が横に控えていた少年神官から彼がささげもっていた真紅のリングピローを受け取り、2つの金の指輪を差し出してくる。
レオナルドがまず一つ取り、私の左手の薬指にそっと嵌めてくれると同時に軽く頬に接吻してきて、思わず顔が真っ赤になる。
私も残った指輪を手に取り、彼の左手の薬指に嵌めた。
「これにてこの2人の魂は結ばれ、新しい夫婦がこのフェアリーリーフ帝国に誕生した。神と精霊の御名によってこの夫婦に栄光と幸福があらんことを!」
大神官の厳かな宣言によって結婚式は無事に終わり、レオナルドに手を取られて礼拝室から退室していく。
通路の両側の席にはたくさんの貴族達が座っていて、割れんばかりの拍手で送りだしてくれた。
「…とてもきれいだよ。…愛してる。」
退室しながら耳元に囁いてくるレオナルドの言葉に胸を震わせながら。
礼拝室から出た後はすぐに王宮の最も広いホールで披露宴に参加。
ここでは、諸外国からも大勢の貴族がお祝いのためにかけつけてきてくれて、にぎやかで華やかなパーティの時間は過ぎて行った。
早めの晩餐会が終わってからやっと解放され、レオナルドの皇都の住居となっている離宮に移動できた時はくたくたになっていたけれど、疲れたと泣きごとを言う暇もなく侍女達に浴室へひっぱりこまれ、磨き立てられ、真っ白いレースで飾られた寝巻に着替えさせられる。
そのまま、「こちらへどうぞ。」と背中を押され入室すればすぐ後ろで扉が閉まる。
そこは天蓋付きの大きなベッドが中央にある寝室で、白いサテンの寝巻を着たレオナルドがすでに待っていて。
レオナルドが微笑みながら近づき、私を抱き寄せると額に接吻しながらささやいてくる。
「やっと、君と一緒になれた。」
「レオナルド様…。」
「レオと呼んで?俺たちは今日から夫婦なんだから。エル。」
「レオ?」
「愛しているよ、エル。」
彼は私の唇に口づけながら、私を抱き上げた。
「もう絶対に離さない。俺のものだ。」
最後まで読んでくださってありがとうございました。
これでいったん完結です。
次回は、おまけ。
ゴードン王はブランカ王妃を熱愛していたのに、どうしてレダーシアが生まれたのかのお話です。




