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王家の儀式

「クリスタルが光らない!?」

「信じられん!王の血を引いていれば光るはずだ!王の子では無いと言う神託か!?」

「そ…そんなはずは…ございません!もう一度、もう一度、エーデルの手をクリスタルに!」

悲痛なブランカ王妃の声にゴードン王は真っ青な顔をして黙りこくりながら、再度、我が子と信じている姫、エーデルの両手の平をクリスタルに強く押し付ける。

なれど、両親の必死な祈りにもかかわらず、クリスタルが白く輝くことは無かった。




「ブランカ!これはどういうことだっ!」

ゴードン王はブランカ王妃を神殿から自室に連行し、2人きりになると同時にどなりつけた。

本来なら今頃は親子3人で貴族達が集まっているホールに入っていって「無事に王の子という神託が降りた」ことへのお祝いを皆から受けていたはず。

それを急遽中止にし、集まった貴族達には「今日の儀式はエーデル姫が発熱したので延期になった」と宰相から伝えさせた。



 生まれた子供が国王の直系であることを確認するための儀式が今日神殿で行われた。

儀式自体は簡単なもので、生後1か月の子供が王宮奥の神殿に祀られているクリスタルを触れるという、それだけ。国王の血を引く子であれば白くクリスタルが光り輝く。

それなのに、今日、光らなかった。

これが意味するのは、生まれた子供が国王の子ではないこと。

つまり……。疑われるのは王妃の不貞。

だが、王妃の不貞だとしても我が国よりもはるかに強大な帝国から来た王妃を簡単には断罪できない。下手に動けば外交問題となり、我が国は滅ぼされる。

信じていた王妃へ裏切られた恨みの籠ったまなざしを向けながらゴードン王はギリギリと歯噛みした。


「ゴードン様っ!わ、わたくしにも何がなんだかわかりません!エーデルは確かにっ!陛下のお子でございます!」

「ではなぜ、クリスタルが光らなかった!?」

「そ…それは…。」

「そなたは我が国の神託を信じぬと申すか?」

「そ、そんなことはございませんっ!なれど、本当に、本当に、エーデルは確かにゴードン様のお子でございます!わが命にかけましてもお誓いいたします!」

「……。」


 涙ながらに愛するブランカ王妃に訴えられ、ゴードン王は困惑と怒りで顔を真っ赤にしながら黙り込む。

エーデルは確かに自分の子だと信じていた。

…今でも本当は信じたい。


 我が国の北方にある帝国から来た王妃。

国王に即位した挨拶をするため帝国へ赴いた時に一目ぼれして結婚を申し込んだ。

帝国からすれば吹けば飛ぶような小国の王に帝国の第一皇女が降嫁してくれるとは思えなかったけれど、必死で口説いた。彼女も自分を好きになってくれて…、この国に嫁いできてくれて、どれだけ幸せだったことか。

近隣国にもオシドリ夫婦として知られ幸せな日々が続いて。

結婚して2年目には姫が生まれ、エーデルと名付けて1カ月。大事な大事な2人の子と信じて溺愛してきたのに。


 今日はエーデルが生まれて1カ月目。

王家のしきたりを守り、正しく王の子であることを確認する儀式に臨んだ。

我が子と信じて疑わなかったから形式的なもの、すぐ終わるもの、と呑気に儀式に臨んだのに。

 もしかして、神託のクリスタルが壊れた?…のか?

いや、だが……。



「…グレタの出産が1か月後の予定だったな。その1か月後、グレタの産んだ子供も儀式を受ける。…その日まで、ブランカ。そなたを王妃の部屋に軟禁とする。」


泣き伏すブランカ王妃を打ち捨てて、ゴードン王は荒々しく執務室に向かう。

宰相達と今後の対応を相談するために。





 ブランカ王妃が娘のエーデル姫と軟禁されてから1か月後。

王妾のグレタが姫を産んだ。

グレタの子供が確実にゴードン王の子供であることをゴードン王は良く知っている。

グレタは自分によって乙女を散らされた後、離宮に軟禁され数人の侍女しか近づける者がいなかったからだ。

グレタの姫が生後1か月になったとき、ゴードン王は宰相だけを伴い王宮の最も奥にある神殿に行き、クリスタルにグレタの産んだ姫…レダーシアの両手を押しつけた。


「……!」

「…光りましたな……。」

レダーシアの両手が押しつけられたクリスタルは淡く、うっすらとであったけれど、白く発光した。


クリスタルの不良であってくれと一縷の希望にすがっていたゴードン王が茫然と立ち尽くすのを宰相は痛ましげに見ながら、つぶやくように言う。


「これでこの国王の子かどうかを確認するための儀式は正しく神託が下される…ことが証明されました。…残念ながら…。エーデル姫は国王の血を引いていない…ことの証明…でもあります。」

「ひとりに…してくれ…。」


宰相は微かにため息をつきレダーシア姫を抱き上げて退室する。

ゴードン王を残して。

ブランカ王妃とエーデル姫をこれからどうすれば帝国の怒りを買わずに排除できるかを考えながら。

そして、自分の娘グレタを王妃につけ、孫のレダーシア姫をこの国の女王とするために何をすべきかを考えながら。



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