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婚約



 私に告白してからのレオナルドの動きは速かった。

その日のうちに、皇帝のところに押しかけて「エーデルとの婚約の許可」を申し出、皇帝陛下が

「エーデルにも相手を選ばせる時間を与えよ。」

と一度拒否すれば、

「他の男に渡すものか。エーデルに近づく男は全員抹殺する。」

と恐ろしい剣幕で迫ったため、皇帝陛下も頭を抱え、その時すでに深夜になっていたにもかかわらず、私は呼び出された。

「エーデル。本当に、本当に、レオナルドでいいのか?…他の若い男性とは話をしたこともないだろう?」

と、皇帝陛下が気遣ってくださる。

その優しさにうるっときながらも、

「レオナルド様がいいです。」

と答えれば、皇帝陛下は非常に複雑な表情をされたけれども、エーデルが良いなら…と渋々、レオナルドに婚約の許可を出した。


 その異常な速さに、ローザ叔母様もドリーもびっくり仰天し、レオナルドに脅迫されていないか、本当に彼で良いのかととても心配してくれたけれど、

「レオナルド様が相手だと何か問題があるのでしょうか?」

と逆に聞けば、ローザ叔母様はウンウン考えを絞り出す。

「問題…、何か無かったかしら?…身分は…、王位継承権も持つ公爵だし。…財産も…、この国でも一二を争う広い領土持ちだし。…容姿もいいし。…この国でナンバーワンの魔術師だし…あれ?何も無い?…いや、あった!12歳年上のオジサンよ!」

「…貴族なら12歳くらいの差は珍しくないのでは?」

冷静にドリーが突っ込む。

「うっ。それもそうね。…あ…何も、無い…。」

「じゃ、大丈夫ですよね?」

私が微笑むと、ローザ叔母様はそうね。と頷きながらも、少しだけ顔を曇らせた。

「わたくしから言ってもいいのかわからないけれど…。エーデルは灰燼の悪魔のことを知っていて?」

「レオナルド様のことですか?」

ぎょっとしたように、ローザ叔母様が目を瞠る。

「…し、知っていたの?」

「レオナルド様からご自分が灰燼の悪魔と呼ばれているとお伺いしました。」

「そ、そうなの?…なら、反対する理由はもう、ないかしら。」

「おば様?」

「ん…。若い娘なら、灰燼の悪魔と聞いたら、怖くて逃げるかもしれないと思ったの。」

「一国を滅ぼすほどの力を怖いとは思いますが、レオナルド様は理不尽にその力を使ったとは思えませんので。」

「…そう。」


ローザ叔母様がこっくりとうなずく。

「なら、いいわ。…確かに、皇女となるあなたの伴侶として、ヴォルト公爵は身分的にも政略的にもふさわしい相手ではあるのよ。…ただ、あなたの幸せを皇帝陛下もわたくし達もは祈っている。だから、あなたが自分で選んだのであれば……。わたくし達も祝福しましょう。」

「ありがとうございます。ローザ叔母様。」




 皇帝から婚約の許可証をもぎとって数日後、レオナルドに誘われてまた芙蓉の咲き乱れるガゼボに行った。

ガゼボに置かれたソファに私を座らせ、その隣にぴったりくっつくように座ったレジナルドが、ポケットから金色のリボンがかかった白い小さな箱を取り出して、差し出してきた。

「エーデル、これを。」

「ありがとうございます。まあ、何でしょう。ここで見てみても?」

「もちろん。」


しゅるっと金色のリボンをほどき、白い箱の蓋をあけると、中には純白のベルベットの箱が入っていた。

その箱の蓋を開くと

「まあ…。」

紫色の宝石の周りを透明な石で囲んだ美しい指輪がそこに収まっていた。

「婚約の証に。受け取ってもらえる?」

「いいのですか?」

「もちろん。」


レオナルドが指輪をつまんで私の左手をそっと取り、薬指に嵌めてくれる。

「…綺麗なアメジスト…。」

「アメジストじゃなくて、ヴァイオレットダイヤモンド。周りの透明な石もダイヤモンド。」

「…そ、そんな高価なものを?」

「俺の瞳の色に最も近い色を選んだらその石になったんだ。」


はっとして指輪のヴァイオレットダイヤモンドをもう一度見れば、光の加減で紫色に紺色が混じるような不思議な輝きを持っていた。

指輪から目を離し、レオナルドの瞳を見つめれば、彼のいう通り、彼の瞳にそっくりな色で。


「ね?俺の色でしょう?」


ぼっと頬に火が走る。真っ赤になってうつむけば、顎に彼の手がそっと触れて上を向かせられる。


「愛しているよ、エーデル。」


彼の顔が近づいてきて、気付けば、頬に柔らかいものが当たっていて…。

彼に接吻されたと気づいて意識を失いそうになり、ふらっと倒れかける。


「ちょ、エーデル!?大丈夫?」


こくこくうなずけば、


「そっか。今まで貴族の令息達とも話をしたことが無かったんだっけ…。」


レオナルドは意地悪そうに口元に笑みを浮かべ、私の耳元でささやきながら、耳たぶにも接吻した。


「何もかも…僕が教えてあげる。」


頭の芯が沸騰したような感覚になって、そこからの意識はなく、気付いたら自分の寝室のベッドで寝かされていた。

高熱が出ているらしく、

「こんな高熱の姫様に気付かず、散策に行かせて申し訳ない。」

と、ドリーが謝ってきたけれど、レオナルドと出かけるときは熱なんて出てなかった。

「…レオナルド様、は?」

「ああ!ローザ様がどこかに連れて行きました。かなりお怒りになって。」




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