王宮奥の神殿潜入
深夜。
王宮奥の神殿の中にするりと潜り込む影。
「…意外だな。神殿周囲には警備する者が置かれていないとは。」
レオナルドはつぶやいた。
今ここにいるのは、悪友たちも知らない。
王宮の奥に入るまではあちこちに警備をする者や夜勤の侍女達が廊下を見張っていて普通なら通してもらえなかっただろうけれど、幻惑の魔術を使って自分の姿が他の者…たとえば警ら中の騎士の姿…などに見えるように仕向ければすんなり奥に入りこめた。
王の私室などであればもう少し警備も厳重だっただろうけれど、神殿に向かう渡り廊下まで来れば渡り廊下から先は誰もいなかった。
神殿の扉も鍵がかかっていない。
「神殿には王宮の者なら誰でも入れそうだ。」
昼間は王宮書庫に行き、そこに勤める司書や学者達に彼らの警戒を解くために彼らが気楽に答えられれそうな話題を質問しながら、さりげなく自白の魔術も使い、神殿のことも聞き出したけれど、彼らは驚くほど知識を持っていなかった。
誰に聞いても
「ああ、神殿は王の子が生まれると生後1カ月経った日に正しく王の子であるかを神託で聞く場所です。」
としか言わない。
「一番最後に神殿が開かれたのは、第二王女レダーシア様が神託を受けた時です。」
とも。
神殿を清めるために神官が毎日入っているのではないか?という質問に対しても、そのような者はいないと言う。
「…誰も入らない割には埃っぽくないな。…むしろ空気が澄んでいる。」
正面には高さ1メートルほどの八角錐の透明なクリスタルが高さ50センチほどの白い大理石台座の上に置かれている。
「ふむ。これが、ダゴン王国建国時、偉大な魔術師でもあった初代王が創ったというクリスタルか。…どうやらこの神殿内を清浄に保つ役目もしているようだな。…ん?」
レオナルドはこの神殿と不釣り合いな違和感を持つ微かな魔力の残滓を感じ、床にかがみこんでクリスタルの台座の下を注意深く手で触れた。
指に細かな白い砂がつく。
「…魔石が役目を終えて砕けた残滓だ…。なぜこんなものがここにある?何の目的で作られた魔石だ?…この砂は持ち帰って調べた方が良いな。」
指先についた白い砂をていねいにハンカチで包んでポケットにしまうと、この神殿の中をくまなく歩いて気になるところを調べていく。
最後にクリスタルに触れて魔力を流してみたけれど、クリスタルは何も変化しなかった。
「本当に王家の血を確認するだけの神殿のようだな……。ここにはもう見るべきものはなさそうだ。さて。後はゴードン王の両親について知っている貴族達に話を聞いたら帝国に戻るか。」