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レダーシア姫のお茶会



 レオナルドはレダーシア姫のお茶会の誘いを元々受けるつもりは無かった。

一度断ったものの、「謝罪を受けてほしい」と宰相のバンダース公爵からも頭を下げられ、友人達も一緒なら。と仕方なく承諾した。


「俺らを巻き込むなよ…。」

文句を言いつつも、悪友たちはちゃんとついてきてくれる。

「第二王女はどうでもいいが、彼女の取り巻きの貴族令嬢に可愛い子がいるといいなあ。」

と言い合いながら。


 レオナルドが茶会が開かれる庭園のガゼボに向かうと、すでにレダーシア姫が待っていた。後ろには宰相と何人かの貴族令嬢も控えている。


「ご招待をありがとう。第二王女殿下。」

「レオナルド様。レダーシアとお呼びくださいとお願いしたのに?」


その時、レダーシア姫の隣に控えていたバンダース公爵が、レダーシアの腕を叩く。


「いたっ。おじい様、何?」

「…忘れてはいないでしょうね?姫?」

「ああ!そうでした、そうでした。」


くるりとレオナルドの方を向いて、にっこりとレダーシア姫は微笑む。


「昨日はわたくし、レオナルド様に大変失礼なことを申し上げてしまったようです。お詫び申し上げますわ。」


レオナルドの額に浮かぶ青筋を見て、バンダース公爵の顔色がドンドン悪くなる。

レダーシア姫のお詫びは、「ごきげんよう」という挨拶と全く同じトーンで言われている上に、その顔と態度からは反省の色が全く見えないのだから。


「…第二王女殿下。わたしは名前を呼ぶ許可を出していない、と言ったはずです。ヴォルト公爵と呼んでもらいたい。」

「ええ?そんな…。」


レジナルドがジロリと冷たい目で人睨みすればその迫力で、レダーシア姫が一瞬怯えた表情を見せて黙り込む。

取りなすように、バンダース公爵が席につくようにと勧めてくるのに従って、全員、用意されたテーブルに着席した。

テーブルの上には色とりどりのお菓子と果物が並び、メイドが提供してきたお茶は正しく帝国のもの。

帝国皇宮のメイドが淹れるお茶よりも味が落ちるが飲みなれた茶葉に、レオナルドの表情がやや柔らかくなった。


第二王女主催のお茶会と言っても、レダーシア姫が何か話そうとするたび、バンダース公爵かレダーシア姫の学友だという侯爵令嬢がさえぎって、レジナルド達に気を使った話題を振ってくるので、それなりに我慢ができる時間が過ぎていく。


「それにしてもこの庭園のバラは見事ですね。」

レオナルドも別にダゴン王国をずっと怒らせていたいわけではないので、周囲の花々を褒めれば

「あの!レオ……、ヴォルト公爵様、庭園の奥にめったに咲かない珍しいバラが咲いているのですよ?」

と、レダーシア姫が割り込んできた。

「…そうなのですか。」

レダーシア姫に話を続けさせるつもりがないのだろう。すぐにバンダース公爵が話を引き取った。

「はい。公爵閣下。今は亡きブランカ王妃様がとても愛された真っ白いバラが庭園奥の温室でちょうど満開のようです。」

「ほお…。ブランカ様が。…そのバラを見せていただいても?」

「は、それは…。」

「わたくしがご案内しますわ。」


 いきなりレダーシア姫がさっと立ち上がって、レオナルドに微笑みかける。

「あの温室には王家の者しか入れませんの。ご案内するのはわたくしが適任ですわ。」


レオナルドはレダーシア姫と一緒に行きたくはなかったが、王家の者しか入れないのであれば、仕方がない。

自分が見たいと言い出したこともあり立ち上がって、レダーシア姫に慌てて付き従ったドリーとバンダース公爵の後ろから付いて歩き始めた。

その途中いきなり、先頭を歩いていたレダーシア姫が立ち止まったかと思うと、小走りでレオナルドに近づいてきて左腕に彼女の両腕を絡ませ、ぎゅっと身体を密着させてきた。


「ご一緒に行きましょ?」


ぞわりと背中に冷水が掛けられた心持がして、レオナルドは、レダーシア姫の腕を振り払い、彼女から数歩離れる。


「レオナ…ちがった、ヴォルト公爵様?」


またもやレダーシア姫の手が伸びてきたその嫌悪感が理性を上回り、ぶわりとレオナルドの身体から空気が膨れ上がり彼を中心に風の渦が巻き起こる。

途端にレダーシア姫とその後ろにいたバンダース公爵達に突風が襲い掛かり、彼らは吹き飛び大地にその身体を打ち付けた。


「レオナルド。抑えろ!」

レオナルドの隣に立っていた友人が、慌ててレオナルドの肩を叩く。

「やりすぎだ。」

ちらりと友人を見やって、レオナルドは微かにため息をつく。と同時にふっと彼の周りを取り巻いていた風の渦が霧散した。


地面に倒れ伏し茫然としていたバンダース公爵がいち早く我を取り戻し起き上がると、レオナルドの前にあたふたと駆け寄って膝をつき、第二王女の不敬を詫びだす。


「バンダース公爵。そなたに謝ってもらう必要は無い。むしろそなたを巻き込んで申し訳なかった。しかし、第二王女殿下がこれ以上、わたしに不敬を働かないように伝えよ。それができぬなら、2度とわたしの前に王女を出すな。」

「…は、はい…。」

「もはや、お茶会どころではあるまい。これで失礼する。ああ、汚れた衣装代は請求してくれれば弁償する。」


 レオナルドは吐き捨てて、友人達を引き連れて引き上げていった。





「レダーシア様!あれほど不敬を働かないようにと言ったでしょうに!」

 レオナルドの姿が見えなくなるが早いか、バンダース公爵は無理やりレダーシア姫を部屋に連れ帰り、乳母のドリーと3人になるが早いか、怒鳴りつけた。

「ふ、不敬なんて働いてないわ?ちゃんと謝ったじゃないの!」

「謝っている態度では無かったし!それに何ですか!公爵にしがみつくなど、みっともない真似をして!」

「だって、好きなんだもの。」


バンダース公爵はぶちっと血管が切れそうになるのを感じた。

「ドリー!いったい、レダーシア様にはどのような教育をしてきたのだ!」

ドリーも真っ青になって首を振る。

授業をよくすっぽかす王女ではあったけれど、これほど常識知らずとは思ってもいなかった。


「…とにかく!ヴォルト公爵とは会わないように!いや。ドリー。絶対に会わせるな。わかったな?」

「はい。公爵様。」

「酷い!おじい様、待って!」



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