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ダゴン王国へ帰国の日


 ハリー侯爵は神経を尖らせながら、皇帝の前でエーデル姫の帰国の挨拶を聞いていた。ここで余計なことを言わなければ帝国に気付かれないまま帰国できる。

帝国滞在の2日間、帝国の誰かに余計なことを言わないかずっとエーデル姫を見張っていたため疲れは溜まっていたが、今の今まで姫はこちらが指示した通りに行動してくれた。

よほど、ドリーが大事なのだろう。

帝国側もこちらを怪しんでいるそぶりは見せていない。


「せっかく会えたのだから、もう少しこちらに滞在できないかね?」

 皇帝が姫の挨拶の後、残念そうに声をかけてきた。

その呼びかけは想定済み。

エーデル姫には、乳母のドリーが付いてこれないほど体調が悪かったので心配だからもう帰る。と言うように指示している。

その通りにエーデル姫が答え、皇帝もそれ以上引き留めなかったことに安堵のため息をそっと吐く。


 謁見室からエーデル姫が退出するとまたもや10人の侍女が彼女を取り囲み、馬車まで一言も話をすることを許さない。


 馬車に乗り込み帝国宮殿を出発し王都を出るまで、エーデル姫はもちろん、ハリー侯爵も黙りこくっていた。

帰国するダゴン王国の一行には帝国の騎士達の護衛も付いてきていない。

ハリー侯爵が皇帝に、

「帰り道はエーデル姫が国境までは時々気に入った場所に立ち寄りつつ向かいたいと希望されている。姫の我儘で帝国の騎士団を振り回すのは心苦しい。幸い、国境までの道は整備され安全だと来るときに確信したし、王国から姫を守るため連れてきたダゴン王国の騎士達は厳選して強い者が配されているから問題ない。」

と説明して、皇帝が付けてくれようとした帝国騎士の護衛を断ったからだ。


…帝国騎士の護衛など付いてきたら、姫の暗殺ができなくなるからな……。



 王都と国境の中間あたりまで来た時、突然、エーデル姫の隊列にならず者たちが突っ込んできた。

「ひゃっほー!貴族の馬車だな!?金になるものを置いていけえ!!」

「きゃあー!山賊ですわあ!」

「エーデル姫!山賊です。私は奴らを迎え撃つ。あなたは馬車から出ないように!」

ハリー侯爵がエーデル姫に怒鳴るように言えば、彼女はこっくりうなずいた。

ハリー侯爵が馬車の扉を開け外に飛び出す際、目が合った侍女に軽くうなずく。


 ハリー侯爵が飛び降りると同時に馬車の扉が閉じられる。

「姫様、こちらへ。」

いきなり、エーデル姫の右隣に座っていた侍女がエーデル姫を庇うかのようにがばっと強く抱きしめ自らの胸の中に彼女の頭を抱え込み、左隣に座っている侍女に背中を向けさせる。

ニヤリと笑った左隣に座っていた侍女が隠し持っていた短剣でエーデル姫の背中から心臓に向けて刺し貫いた。

 そして、馬車の扉をお互いに左右両側とも開け、侍女はそれぞれの扉から飛び降りる。

それを合図に御者は馬の急所であるお腹を激しく鞭の柄で引っ叩き、馬が痛みで仁王立ちになって暴走する直前、彼も転がり落ちた。

暴走した馬車はならず者たちの中に突っ込み、しばらく走った後、馬車本体が街道脇の樹木に激突して横倒しになり、その馬車にひきずられるように馬が横倒しになって、ようやく止まった。


「エーデル姫様!」

心配そうな表情を浮かべつつ、ハリー侯爵が馬車に駆け寄る。

「姫!姫、お怪我は…?」

横倒しになった馬車に飛び乗り、半壊した状態の馬車の中を覗き込んだハリー侯爵の顔が青白くなる。

…誰もいない?

……姫は!?馬車から振り落とされたか?


「エーデル姫が居ない!振り落とされたかもしれん。探せっ!…あ、お前、確かに刺したんだろうな?」

 急ぎ足で近づいてきた侍女の一人に声をかける。

「はい、間違いなく。背中から心臓を一突きしたので即死だったかと。」

「では、暴走中に振り落とされたんだろう。お前たちも探せ。」


「ふん。その必要は無い。」

「何!?」


 ハリー侯爵は自分達の周りをぐるりと帝国騎士が囲んでいることに気付いて驚愕した。


「帝国騎士団が…なぜ、こんなところに?……うっ。」


帝国騎士の一人が、抜いた剣をハリー侯爵の喉元に突き付ける。


「…わたしを誰だと思っている?ダゴン王国の全権大使かつダゴン王国第一王女の付き添いたるハリー・バンダース侯爵だぞ!?」

「それがどうした。その第一王女暗殺の主犯のくせに。」

「なんだと!?」

「この耳で確かに聞いたぞ。『お前、確かに刺したんだろうな?』と侍女に確認していたよなあ?」

「なっ…!ち、違う!」

「『暴走中に振り落とされたんだろう』とまで言っていたよなあ?」

「そ、それはっ…!」

「第一王女暗殺についての申し開きは皇宮で聞く。…こいつら全員捕縛しろ。」

「や、やめろ!全権大使をこのような目に合わせるとはっ。ダゴン国王が知ったら…。」

「知ったら?」

「え?」

「知ったらどうするのかね?帝国に歯向かうか?別に構わねえよ。帝国にダゴンのような極小王国が敵うのかね?」

帝国騎士にあざ笑われて、ハリー侯爵は黙り込む。


…彼らの言う通りだ。

仮に自分たちがエーデル姫暗殺の犯人と断定されたとしても、ダゴン王国国王は自分達を助けてはくれない。必ず見捨てるだろう。むしろ、王女の死を嘆きつつ暗殺犯に厳罰をと言ってくるだろう。

…そんなことはわかっていた。だから絶対に失敗できなかったのに。

どうして帝国騎士がこんなところに居たんだ?

村でもなんでもないただの街道の途中に。

…まさか。暗殺の話が帝国には知られていた?

ハリー侯爵は冷や汗がだらだらと流れ身体が冷えていくのを感じた。



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