表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お気に入り小説2

-恋 心- 巻き戻りの物語

作者: ユミヨシ

ローデシア・ハルティリス公爵令嬢はまさに今、処刑されようとしていた。

罪はレイド王太子に魅了を使って、婚約者の座に収まった罪。


12歳の頃に開かれた婚約者選びの茶会で強力な魅了を発動し、レイド王太子を虜にした。

5年間、レイド王太子の婚約者として、過ごし…17歳で今回、魅了がばれなければ、いずれは結婚して王妃になることを企み、王国を乗っ取ろうとした。

ハルティリス公爵家は犯罪者を出した家として取り潰されるであろう。


ローデシアはボロボロの姿で、処刑人達に両脇を抱えられ、広場の中央に設置されているギロチンの前に連れていかれる。


自分の前に処刑された男爵令嬢リーナ・マルトスの首が、地に転がっていて。


わたくしは…ただ、愛されたかったの…

いえ、王妃になりたかった…それは事実だけれども。


魅了を使ったとはいえ、レイド王太子殿下に愛されてとても幸せだったわ。


だから後悔なんてない。



ふと、背後から声をかけられる。


「助けてやってもいいわよ。」


「え?」


驚いた。周りの動きが皆、止まっている。

そして今、まさに断頭台のギロチンの下へ首を差し込まれようとしている自分の横から覗き込んだ女性は、にこやかに、もう一度声をかけてきた。


「助けてやってもいいと言っているの。」


「貴方は誰?わたくしは大罪人。魅了を使ってレイド王太子殿下の心を操り、王妃になってこの王国を乗っ取ろうとしたわ。」


「解っているわよ。だから首を斬られようとしているんでしょう。」


「ええ。そうよ。」


「助ける代わりに、わたくしの頼みを聞いて貰うわ。いいわね…」


その女性はにぃと笑って姿を消した。



巻き戻り…


そう、12歳の時の茶会の時までローデシアは巻き戻っていたのだ。

レイド王太子殿下の婚約者を選ぶあの茶会。


この茶会で、初めて大罪に当たる魅了の力を使った。


ローデシアは小さい時から、一人娘で両親に蝶よ花よと甘やかされて育てられた。

我がハルティリス公爵家から王妃を出すんだと、この日も人一倍、オシャレをしてお茶会に送り出されたのを思い出す。


清楚な白いドレスに、銀の髪を巻いて…

他の公爵令嬢達も負けじとオシャレをしていた。


あの中で、自分は勝ち残らなければならない。


家柄は似たり寄ったり。どの公爵家も名門だ。

だから、巻き戻る前は魅了を使った。


レイド王太子殿下の魂に魅了の花びらをまとわりつかせて、自分に恋心を持たせることにしたのだ。


レイド王太子に魅了を使わなければ、処刑されることは無いだろう。


しかし、選ばれるだろうか。前回はただ、魅了を使って、レイド王太子を見つめただけで、気に入って貰い、婚約者に選ばれた。今回はどうだろう?魅了を使うか使わないか…

ローデシアは悩んだ。


「君がハルティリス公爵家の令嬢かい?」


レイド王太子殿下から声をかけられる。

巻き戻る前には、とても愛してくれた。

一緒に庭を散策して、色々な話をした。大人の真似をして夜会に忍び込んだのも楽しかったし。王立学園に入ってからも、彼はとても紳士で大切にしてくれた。


綺麗な金色の髪に、金の瞳…

この人を他の令嬢に渡したくない。わたくしの物にしたい。


でも、首を斬られる前にレイド王太子は言ったのだ。


「例え魅了を使われたとしても、君と過ごした日々は本物だ。私は君の事を愛している。」


と…


自分が処刑される時は、彼はどうしていたのだろう…

聞かされていないから解らない…


思いを巡らせていたら答えるのが遅れてしまった。


「あ、そうです。わたくしがハルティリス公爵家の娘、ローデシアですわ。」


カーテシーを慌ててする。


「まずは君から話をしてみたい。共に庭を散策しよう。」


「ええ。よろしくお願い致します。」


王宮の庭は薔薇が咲き乱れて、春の日差しが暖かい。


そんな中、二人で薔薇を見ながら話をする。

レイド王太子に選ばれるにはどうしたらいい?

彼は何が好きだった?


懸命に頭をフル回転させる。


「メルニフェフ冒険記はわたくしも好きですわ。」


「え?その本、君も読んでいるの?」


メルニフェフ冒険記。それは勇者と聖女が魔王を倒す苦難を書いた作品で。もう、100年以上も前の書物だが、レイド王太子はその本が好きで、よくその本の話をしてくれた。


「ええ。わたくしもメルニフェフ冒険記が大好きで。勇者様と聖女様が苦難の末、魔王を倒して結ばれた結末には、本当に感動致しましたわ。」


「そうなんだよ。私もとても感動してね。実話だろう。勇者様と聖女様のお陰で今の平和があるんだ。気が合うね。私は勇者様達が下さった平和を守っていきたいと思っているよ。王国は周辺諸国との関係も良好で、今の所、大きな災害も起きてはいない。この平和に甘んじることなく、貧乏な者には、生活の向上を。国を発展させる為に私は頑張っていきたいと思っている。」


「変わりませんのね。いえ…なんでも。わたくしも同じ思いですわ。恵まれない子供たちが教会で育てられております。その子達が人並みの教育を受けられるように、先々考えたいと思っております。」


前回ではこんな話はしなかった。

魅了で一方的にレイド王太子が惚れてくれたのだから。

しかし、前回の知識を生かして、他にもいろいろな話をすることが出来た。


レイド王太子はローデシアを気に入ってくれたらしく。


「他の令嬢とも話をしなくてはならないが、君との事を前向きに考えていきたい。」


「まぁ…期待してお待ちしております。」


神様に願った。

どうか、自分が選ばれますように。




そして自分が選ばれたと聞いた時、飛び上がる位、嬉しかった。


今回は魅了を使っていない。

これならば処刑されることもなく、王妃になれるのだ。


しかし、気になったのが、処刑されそうになった時に現れたあの女性。

彼女の求めるものは何だったのだろう?


「私が求める物?」


部屋で考えていたら、あの時の女性が現れた。

金の長い髪に赤い目。真っ白なドレスを着て窓の傍に立っていた。


少女のようなあどけない笑顔で、その女性は言い放つ。


「沢山の人の魂かしら。貴方に王妃様になって貰って、生贄を沢山、私に頂戴。そうしたら、私はとても幸せになれるから。」


悪魔だったのか?ローデシアは叫ぶ。


「それならば、わたくしは首を飛ばされた方がマシですわ。罪のない人の魂が欲しいのなら、わたくしは自分が死んだ方が幾倍もマシです。」


「うふふ。冗談よ。実は私の力のせいで貴方は何度か巻き戻っているの。貴方が魅了を使わなかったのは今回が初めてだわ。ああ…でも…私の力がもうないから巻き戻りは無理。今度こそ王妃になって…私の願いをかなえてもらうわ。」


「願いって何?生贄が欲しいのなら断るわ。」


「それはね…あなたが王妃になったらその時に言うわ。だから頑張って頂戴。」


フっと姿を消す女性。



ともかく、もう巻き戻りは出来ない。

王妃になるためにローデシアは頑張るしかない。

そう思った。


愛しいレイド王太子殿下。

彼は前回と同じでとても優しくて紳士的だ。


魅了を使っても使わなくても、彼の態度は変わらない。

自分は本当に愛されていたんだ。


彼と会う毎に実感して嬉しくなるローデシア。

このまま、順調にいけば自分は何事も無く王妃になれる。

罪に問われることもなく、ハルティリス公爵家も存続するだろう。


「王太子殿下。レイド様はわたくしの事を愛していますの?」


「ああ、もちろん。愛しているよ。頑張りやな所も、何もかも…」


「嬉しいですわ。わたくしも愛しております。貴方様のすべてを。」


愛し気にレイド王太子殿下に抱きしめられた。

とても嬉しい…とても幸せだ。


彼の為に何が出来るだろう。

彼の為に、オシャレをし、彼の為に、一生懸命、話題を探し、

それと同時に未来の王妃としての努力もした。

それは前回以上に努力をして。


全てはレイド王太子殿下の為。彼を愛しているから…

レイド王太子もとろけるほどに、ローデシアに対して優しい。


学園に入ってもレイド王太子殿下の優しさは変わらず…

しかし、ふと思い出したことがあった。


ピンク頭の男爵令嬢リーナ・マルトスの事である。


騎士団長子息と、宰相子息に魅了を使ったという事で、自分の前にギロチンで首を斬られてしまったリーナ。


前回の記憶はあるが、それ以前の巻き戻りの記憶がないローデシア。

しかし、彼女は前回同様に、レイド王太子と、騎士団長子息、宰相子息に魅了を使ってくるだろう。レイド王太子は自分が魅了を先にかけていたから、かからなかった。

しかし、今回は違う。自分が魅了をかけていないのだ。


あの女との約束で王妃にならなければならない。

その為にも…リーナをレイド王太子に近づけてはならないのだ。


リーナはことある毎に、レイド王太子の前に現れるようになった。

偶然を装って廊下で、こちらに向かって走ってきて、レイド王太子の前で転びそうになる。


共に歩いていたローデシアは思わず注意する。


「不用意に王家の人間に近づいてはなりません。貴方が不審な者として、罰せられても言い訳はできないのですよ。」


注意すると、リーナは泣きながら、


「私はただ。廊下を走っていただけです。王太子殿下には以前から憧れていて。」


うるうるした目でレイド王太子の顔を見上げるリーナ。


リーナの魅了の花びらが王太子殿下の魂に向かって絡みつこうとしているのだろう。

このままではリーナの罠にかかってしまう。


リーナの前に行って思いっきりのその頬をひっぱたいた。


レイド王太子に注意される。


「暴力はいけない。それもか弱き女性に。」


魅了の事を言ってもいいが、まだ、魅了の花びらは魂に届いていない。

だから、言っても信じてもらえないだろう。


ローデシアは、レイド王太子の前に行って真剣に訴える。


「わたくしは王太子殿下の事を心配しているのです。」


「ありがとう。でも、大丈夫だよ。君の気にしすぎだ。」


リーナの毒牙にかかって、リーナに愛を呟くなんて許せない。

例え、リーナが魅了によって捕まったとしても…


リーナを殺す?

いえ、それは出来ないわ。


リーナと話をしましょう。真正面から話を…


ローデシアはリーナを放課後呼び出した。


リーナは震えながら、


「ローデシア様が男爵令嬢だからって私を虐めるっ…」


「虐めているわけではないわ。貴方、魅了を使ったでしょう。」


「え?使ってなんて…」


「ええ、まだ王太子殿下に魅了は届いていないと思うわ。私が貴方を叩いたから。でも、もし、あなたが魅了を使って王太子殿下の行動がおかしくなった途端、魔術研究所の所長の元へ連れていかれて、貴方が魅了を使ったことがばれるでしょうね。そうしたら貴方は死刑になるわ。」


「私が死刑っ?????」


「驚く事はないわ。魅了は大罪だから。」


「そんなの嫌っ。私はただ、王妃様になって贅沢をしたかったの。」


「それは国を乗っ取るという事よ。」


そして、彼女の耳に囁く。


「貴方、わたくしの侍女にしてあげるわ。わたくしの侍女になれば、色々と貴族のマナーを教えてあげる。そしていずれは良縁を紹介してあげましょう。」


「ローデシア様の?」


「魅了を使って破滅するか、わたくしの侍女になって、将来、幸せを掴むかどちらがよいかしら?」


「ローデシア様の侍女にしてくださいっ。」


「いい子ね。」




何とか、リーナを説得して、学園卒業後は自分の侍女になって貰い、いずれは良縁を紹介するという約束をした。


これで、レイド王太子への懸念の一つは無くなった。

後、心配なのは巻き戻りの助けをしてくれた、あの女が何を要求してくるかという事だ。


しかし、気にしていても仕方がない。

ローデシアは、レイド王太子に変わらぬ愛情を注いだ。

ともあれ一日一日を大事に過ごして、未来へ突き進むしかない。



そして、学園卒業式の後の卒業パーティの当日にあの女が再び現れた。


「隣国から帰国したエリーゼですわ。お久しぶりね。お兄様。それから初めまして。貴方がローデシアね。」


あああ…エリーゼ。彼女が自分を助けた女。巻き戻しの力を使った女。初めましてではないだろうに。


エリーゼは扇を手に、ローデシアに囁く。


「卒業パーティで結婚を発表するのでしょう。貴方は王妃への道を約束されたわね。」


「貴方様のお陰ですわ。それで、わたくしに願いというのは…」


エリーゼはレイド王太子と、ローデシアに向かって、


「鎮魂祭を開催してほしいのです。今も、呪いに苦しむ勇者様の為に。」


レイド王太子が驚いたように、


「100年前魔王を倒したあの勇者様が…」


「魔王の呪いで苦しんで、魂はいまだこの世にとどまっておいでです。勇者様の物語をお好きなお二人ならきっと、呪いを打ち破って、勇者様の魂を天に返すことが出来るはず。王国をあげての鎮魂祭。どうか開催して下さいませ。もちろん。生贄を要求することはないわ。なるべく大勢の人に祈って欲しいの。勇者様の魂が安らかに帰天するようにと。」


ローデシアがエリーゼに向かって、


「貴方様は本当にレイド王太子殿下の妹君なのですか?」


「わたくしは生まれ変わりました。わたくしの前世は聖女。勇者様と魔王を倒した聖女ですわ。何度も巻き戻してしまってごめんなさい。貴方達が国王と王妃にならないと、大規模な鎮魂祭は開催できないから。」


レイド王太子は首を傾げて、


「巻き戻りって一体全体?」


ローデシアはレイド王太子の手を握り締めて、


「覚えていらっしゃらないでしょうね。わたくしは貴方と何度も愛し合った…わたくしはいついかなる時も貴方の事を愛しておりますわ。レイド王太子殿下。」


「よくわからないが…私も愛しているよ。君の真面目な所も、王国の事をいつも考えていてくれるところも。」


「いえ、考えているのはいつでも王太子殿下の事だけですわ。」


「それは…その…嬉しいな。」


エリーゼも嬉しそうに。


「お願い致しますね。わたくしは卒業パーティが終わったら隣国へまた、参ります。わたくしは今世では、隣国の王太子殿下の婚約者ですから。」


レイド王太子が力強く、


「解った。まだ私が国王へなるのは先の話だが、必ず、鎮魂祭は開催しよう。」


ローデシアも同じく頷いて、


「約束しますわ。必ず開催致します。」


エリーゼは微笑んで、満足げに。


「ありがとう。お願いするわ。」





そして、卒業パーティで、レイド王太子はローデシアとの結婚を発表した。


「私はこの卒業をもって、婚約関係にあったローデシア・ハルティリス公爵令嬢と結婚することとする。」


卒業生皆が、拍手で祝ってくれる。


リーナも、騎士団長子息も、宰相子息も、嬉しそうだ。



レイド王太子と、ローデシアは結婚し、のちに国王と王妃に即位した後に、大々的に鎮魂祭を開催した。

勇者の魂は呪いから解き放たれ、天に帰ったと、帰国していたエリーゼから礼を言われた。


レイド国王とローデシア王妃の仲は周りがうらやむ程で、二人の間には可愛い子供たちに恵まれて、それはもう、幸せに暮らしたと言われている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 巻き戻し〜っ! 魅了を使わなくてもちゃんと愛してもらえたローデシアさん! よかったですね! ちゃんと王妃にもなれたし。 こっそりピンクちゃんも戒めてるし(笑) あちらの作品を読んでいるから…
[一言] こちらの物語では、二人が国王と王妃になれてヨカッタ!  どちらの物語もキーパーソンはエリーゼですね。エリーゼの登場大事。 今回みたいな(もしも~だったら) みたいなお話もたのしかったです。…
[良い点] ひゃー!(≧▽≦)面白かったです! いくつか繰り返したうちの二つのお話を読めた、という感じでしょうか! ヒャー!(=゜ω゜)ノすごいすごいっ! [気になる点] >勇者様の魂が安らかに成仏す…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ