自然体
エイミーの話は止まらなかった。
第一印象は気難しく、高貴な人なのだと思ったが……話をしてみると意外に気が合う。
「エリオット公の派閥は、ディゴ卿やブラッド公も傘下に入っていますわ。交流を広げるのであれば、彼らから仲良くなるといいと思うわ」
「なるほど……勉強になります!」
マイアはうんうんと頷き、エイミーの話に耳を傾ける。
なにせ第二王子の婚約者で、公爵令嬢だという。
言葉のひとつひとつに説得力がある。
話だけではなく、お茶もおいしい。
マイアは食べたこともないような高級菓子を堪能しつつ、お茶を飲んでいた。
「それにしても……ふふっ。マイアさんはとてもおいしそうにお茶を飲みますのね」
「……ハッ! これは失礼しました! お見苦しかったでしょうか」
「いえ、まったくそんなことありませんわ。むしろ見ていて気持ちがよいのです。それに、お話ししていても楽しいし」
ほっと安堵するマイア。
こんな調子で今度の夜会は大丈夫だろうか。
「ところで、マイアさんはジョシュア様とどこでお知り合いに?」
「えっと、縁談が来たんです。どうやらジョシュア様は仕事の邪魔をしない婚約者を探していたみたいで。それで社交界に興味がなさそうな私に結婚を申し出たと」
「なるほど。でも、マイアさんは噂のような悪女には見えませんね?」
「あはは……」
苦笑いするしかない。
妹の名誉を守るためとはいえ、下げられていたマイアはたまったものではない。しかし、この和やかな雰囲気に家庭内のドロドロとした話を持ち出すのも野暮だ。
「ねえ、マイアさん。ジョシュア様に対しての印象はどう?」
問われたマイアは考え込む。
ジョシュアに対する印象は大きく変わった。
少なくとも今は恐怖はない。
「とても優しい方だと思います。なんだかすごく怖い人だって聞いてましたけど、ぜんぜんそんなことはなくて。むしろ、今までに出会ったことがないくらい……優しい方です」
「そうでしょう? ジョシュア様は真面目すぎるあまり、怖いと噂されてしまったの。だからその噂を利用して、彼自身も人を遠ざけていたわ。
そんなあの人が認めたのだから……マイアさんは逸材なのでしょうね」
自分はジョシュアと釣り合いがとれる人間なのか。
マイアはさんざん悩んでいる。
相応の振る舞いができるように努力はしている。
しかし、どうしても至らない部分があると感じてしまうのだ。
彼女は思い切ってエイミーに聞いてみた。
「うーん……私、伯爵令嬢としての威厳とかあります?」
「いえ、まったく?」
「ですよね……」
「でも、そういうところも魅力だと思うの。なんていうか、ジョシュア様は貴族らしい女性が好みじゃないのよ。だからこそ、マイアさんを守ってあげたくなるのかも」
たしかに、守ってくれるのは素敵だ。
しかしマイアは守られるだけではなく恩返しもしたいと思う。
最初は仮初の結婚のつもりが、今はジョシュアのために何かしたいと感じているのだ。
「とにかくね、マイアさんはそのままでいいと思うわ! 自然体でいた方が癒されるもの」
エイミーの言葉を受けて、マイアは安心した。
少なくともジョシュアに失望されるようなことはなさそうだ。
「ありがとうございます、エイミー様!
今度の夜会も緊張しないようにがんばります!」
「ええ。名高きエリオット公の妻として紹介されるから、かなりの注目が集まると思うわ。とにかく笑顔で、姿勢よくね!」
「はい!」
貴族といえば嫌味なイメージしかなかったが、エイミーの存在を知った。
貴族の中にもいい人はいるのだ。
「さて、そろそろジャックとジョシュア様のもとに戻りましょうか」
エイミーに連れられ、マイアは一階に降りて行った。