表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

友人

 マイアはドレスを着こみ、王国のとある屋敷に訪れた。

 隣を見上げると、よい姿勢で歩くジョシュアの姿がある。


「ぎこちないな、マイア。もう少し堂々と歩くといい」

「は、はい!」


 未だにマイアと呼ばれることに慣れていない。

 耳の端まで真っ赤になってしまう。


「あの、ジョシュア様。この屋敷で茶会をするのですよね?」

「そうだ。まあ、今回は社交というよりも個人的な付き合いだな。古くからの友人に招かれた」


 古くからの友人。

 ジョシュアはそう語った。

 貴族の界隈には詳しくないので、家紋で血筋を判別することはできない。

 この屋敷の家紋を見ても、マイアはどの家系のものかわからなかった。


 屋敷の入り口で、使用人と思わしき者が出迎える。


「お待ちしておりました、ジョシュア様。

 ……そちらの方は?」

「俺の婚約者だ」


 直球に婚約者と言われ、マイアの鼓動が高鳴った。

 しかしここは婚約者然とした態度を。

 彼女は澄ました顔をして佇む。


「……! それはおめでとうございます!

 なんとお美しい……ささ、どうぞ中へ」


 使用人は満面の笑みを浮かべて、二人を中へ招き入れた。

 ジョシュアが頑なに結婚しようとしないことを、彼を知る人々は憂いていたのだ。


 中は予想通り、かなりの豪邸だった。

 ジョシュアの城と遜色ない豪華さだ。


 お茶会……と聞いていたものの。

 マイアとジョシュア以外、通された居間には誰もいなかった。

 ジョシュアの隣でおとなしく待っていると、なにやらドタドタと階段を駆け下りる音が聞こえてきて……


「うおおおおーっ! 聞いたぞジョシュア!

 ついに婚約者を見つけたんだな!?」


 背が高く、いかにも高貴な気配に満ちた男性。

 艶のある黒髪が特徴的だ。


「……ジャック。忙しないな」

「!?」


 ジャック。

 その名を聞いた瞬間、マイアの思考がフリーズした。


 そうだ、自分はこの人を知っている。

 ジャック・ハドルストン。

 この国の第二王子である。


「そちらの方が婚約者かい? 初めまして、ジャック・ハドルストンだ。一応第二王子だよ。よろしく!」

「よ、よ、よよよろしくお願いします! マイア・ハベリアと申します!」


 マイアの様子を見てジョシュアは愉快そうに笑みを漏らした。

 まあ、こうなるだろうと。


「マイアは緊張しやすいんだ。あまり脅かすようなことを言うなよ」

「わかってるさ。せっかくジョシュアのお眼鏡にかなう人が現れたんだからな。自分の悪評を流してまで頑なに結婚しなかった君が、婚約者を見つけるとはね!」

「ジャックも毎日のように結婚しろとうるさかった。これでようやく静かになってくれるな?」


 二人は愉快そうに笑い合っている。

 どうやら相当仲がいいらしい。

 王族とも交友関係があるとは、さすが公爵だ。


 ジョシュアはやさしくマイアの背を押す。


「今度の夜会にマイアを連れて行きたい。一応、主催者の君にも事前に紹介しておこうと思ってな」

「へえ、いいんじゃないか? これで君に言い寄る女性も減るだろうさ。

 しかし……ハベリア家の姉か。妹のコルディアさんの顔はよく見るが、マイアさんは見たことなかったな。噂じゃかなりの悪女で、見苦しいとか言われてたけど……」

「──ジャック。俺の前で妻への暴言は許さんぞ。

 あくまで妹を立てるために流された、くだらん噂だ」


 ジョシュアが怒気を発し、ジャックは口をつぐむ。


「いや失敬。デリカシーがなかったね、すまない。となると、ジョシュアと似た感じで……あえて悪い噂を流していた。いや、流されていたのか。あのコルディアとかいう令嬢、やけにマナーが悪いと思ったら……そういうことか」


 どうやらジャックにも思うところがあるようだ。

 妹のコルディアはよく夜会に参加しており、ジャックが見かける機会も多い。男を露骨に誘うような真似をしたり、マナーのない行いで噂されたり……目に余る行為が多かったのだ。


 そんなコルディアをマシに見せるため、マイアは利用されていたのだろう。

 ジョシュアはマイアの本質を見抜き、厚く信頼しているようだ。ならば親友であるジャックも疑う余地はない。


 そう考えたところで、二階からもう一人降りてきた。

 紫紺の髪と瞳を持つ美しい女性だ。


「マイアさん。私の婚約者のエイミーだ」

「ごきげんよう。あなたがジョシュア様の婚約者ですのね。ジョシュア様がお選びになっただけあって、とても美しい」


 エイミーは優雅に一礼した。

 言葉では言い表せない気品が漂っている。

 マイアも礼をして名乗り返した。


「エイミー、マイアさんも今度の夜会に出るらしい。よかったら貴族の勢力とか、振る舞い方とか、世間話とか。いろいろ教えてあげてほしい。私はジョシュアと話したいことがあるからさ」

「わかりましたわ。さ、マイアさん。こちらへどうぞ」

「は、はい!」


 エイミーに誘われるがまま、マイアは二階に上がっていく。階下では愉快そうなジャックの声が響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ