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悪妻になる時〜元サーファーの夫は隠れてあの人に会いにいく〜

作者: Y.ひまわり
掲載日:2021/12/03

 寒い朝、隣で寝ていた筈の夫は居ない。

 布団はもう冷たかった。


 ――今日もまた、行ってしまったのね。


 出張という名目で、周りには伝えてあるのだろう。


 ゆっくりベッドから起き上がると、リビングへ向かい暖房をつける。静かな部屋は無機質な音だけが響く。

 

 考えまいとするが、視線は自然と壁にいく。

 夫の趣味で壁に飾られているロングボードとショートボード。その横には、それを抱える夫の写真。


 まあ、正直イケメンの部類だ。


 腰さえ痛めなければ、きっとまだサーフィンに夢中だっただろう。未だに、日焼けし筋トレが趣味な夫はとても50代には見えない。職場の女性や、近所からの評判も良い。


 早朝から、一人で波乗りに行っていた頃を思い出す。


「サーファーだった頃の方がましだったわ」と本心がこぼれ落ちた。


 スマホを取り出すと、会ったこともない()()()のSNSをチェックする。

 だが、まだ今日はアップされていない。

 いつも、夫が載るのは夕方くらいだ。私が、このSNSを知っているとは夢にも思っていないはず。


 湯気の揺れる紅茶を一口のむと、サーフボードを見て溜め息を吐いた。


「海の女神に気に入られたのね」


 その女神はきっと美しいのだろう。



 ◇



『これから帰る』


 夕方、夫から帰宅時間のメッセージが届いた。

 こういう所はマメだと感心する。私の夕飯の支度を気遣ってのことだ。


 私は、スマホを取り出すと()()()のSNSをチェックした。

 案の定、最近では私に見せなくなった、嬉しそうな笑顔の夫の写真。


 その傍らには――。


 まるで私が見ているのに気付いているかのような目が、勝ち誇ったみたいにこちらを見据えている。


 ゾクッと背筋が凍るようだった。


 思わずスマホを落とし、私はペタリと力なく座る。



「……悔しいけど」


 

 薄暗い部屋の中、スマホの画面は煌々と光っている。

 

『本日の竿頭(さおがしら)!!』


 赤文字が貼られ、巨大な魚を片手にピースする夫。


「私に巨大魚(あなた)は捌けないっ!」



 夫のお気に入り……海釣り漁船の船長さんのサイトをそっと閉じる。


 出刃包丁を研ぎに、重い足でキッチンへ向かおうとするが、足を止めて振り返った。

 

 海の女神様、次こそは魚を上手く逃がして下さいね!


 私は、夫の背後で輝く海の写真に、次回のボウズを切に願った。

 




 

竿頭……釣り船でその日一番魚を釣れた人。

ボウズ……魚が一匹もつれないこと。


お読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 海に惚れてるんだからしょうがない。 ( *´艸`)
[良い点] なんとなく最初からおかしいな? とは思ってたのですが、やはり^^ 巨大魚は、基本男が捌くものです……
[一言] おっ、おさかなぁ! さばくのに技術がいりますからねぇ。 なかなか上手くいかないのです。
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