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出会う


 紹介されたレストランの料理はどれも美味しくて、次々とくる料理はあっという間に消えていった。あまり野菜が好きだと感じたことがなかったが、ここの野菜なら好きかもしれない。

 やはり朝採れた新鮮なものというのがいいのだろう。平和に過ごせるようになったら畑でも耕して暮らすのもいいかもしれない。

 俺がボーッとそんなことを考えている間、リーナたちは次々にデザートを頼んでいた。一体どれだけ食べれば気が済むのか。女の甘いものへの情熱はこちらからすると少し怖いものがある。

 それはルキも同じだったようで、次々と現れる甘いものに食べていないにも関わらずちょっと苦しそうにしていた。


「美味しかったわ、ごちそうさま!」


 リーナのその言葉にようやく終わったかと会計に向かう。このレストランが気に入ったらしいリーナたちは、明日もまた来ようねとすでに次食べる物のことを考えているようだった。

 明日は夜に作る予定のアクセサリーも売るし、少しくらい高いものを頼んでもいいかもしれない。

 今日はあまり高いものはダメだと言って我慢させてしまったしな、と伝票をレジに置く。


「お会計37000エールになります。」


(37000エール!? 俺が食べたのは1000もしなかったし、ルキも900とかだったはず。まさか)


 俺は動揺を極力出さないようにしながら支払いを済ませた。この後怒られると察したのか、リーナたちは不自然なほど遠くで待っている。


「おい、俺はあんまり高いものはダメだと言ったよな?」


「高いのは避けたんだけど、つい何回も頼んじゃったっていうか……。」


「結果的に高くなっちゃっただけで〜……。」


「シンティアもつい食べすぎちゃった……。」


 言い訳はするものの、流石に悪かったと思ったのか三人はすぐに謝りだした。まぁ宿屋代は残っているし、買いたいものを買ったあとなので今回だけは大目に見るとしよう。

 次は気をつけろよ、とだけ言って俺はルキに案内してもらいながら今日泊まるつもりの宿屋へと歩き出した。

 少しレストランから離れた位置にあるらしく、あっちの道行ってこっちの道行ってと随分いろんな道を歩く。そこの角を曲がった先だ、というルキの声にホッとしながら曲がろうとしたとき、急にルキに腕を引っ張られた。


「なんだよ?」


「しっ! ちょっとこのまま角に隠れてやり過ごすぞ。」


 ルキの言葉にどういうことだろうとそっと角の向こうを覗くと、そこには数人の兵士が街の人と話しているのが見えた。

 距離があるため正確に何を話しているか聞き取ることはできないが、兵士が持っているビラがどう見てもフィンの手配書だった。


「あれは……。」


「まずいな、数日はいけると思ったが。急いで街から出るぞ。」


 その言葉とともに来た道を走りながら引き返す。疲れが溜まっている足が痛いとかそんなこと言っている場合ではない。

 巡回兵がいるとは思わなかった。いや、考えてみれば逃したときのために周辺の街に配置するのが普通なのだが、少し気が緩んでいたようだ。

 

「お風呂入れると思ったのに〜。」


「ごはん食べれたのと買い物できただけでもマシね。」


 街の出入り口まで後ろを気にしながらも必死に走る。こちらに気づいた様子はなかったし、誰かが追ってきている気配も感じられないのだが。

 兵士もあの数人以外見当たらないし、たとえ本隊が来ても出入り口にさえ辿り着いてしまえばあとは一旦森に隠れてやり過ごせる。

 あと少し、と出入り口が見えてきたと同時に見えてはいけないものまで見えてしまった。


「そのまま走って処刑場にでも行ってくれたら楽でいいんだがなぁ? フィン・クラウザー。あとついでにそのお仲間ども。」


 そう言いながら瞬時に目の前まできたその男は剣の切っ先をこちらに向けながら続ける。


「あぁ? おまえそれなんで汚れてねえんだぁ?」


「それ……?」


「もっと汚かったろ。そりゃもう人も斬れねえくらい。」


 そこまで言われてようやくこの男が双剣について言っているのがわかった。だが何故この男が双剣のことを知っている? 会ったのは確実に初めてのはずだ。まさか手配書に、双剣が汚い、と書かれているとも思えない。

 一方的にこちらを知っているらしい男はそのまま雑談かのように話し続ける。


「綺麗になった剣といつの間にかできた仲間、はー、冒険って感じでいいねぇ。だからってここで簡単に見逃せねぇけど。何故かルキもいるみたいだしなぁ!?」


「くっ!」


 そう言うと同時に斬りかかってくる男の攻撃をなんとかスレスレで避ける。双剣を構えないとと思ってはいるものの、男の攻撃が素早すぎて避けるだけで精一杯だ。


(なんだよこいつは! このままじゃ押しやられる!)


 一瞬、一瞬の隙でいい、双剣さえ構えることができれば。

 なまってんじゃねぇかぁ? とこちらを挑発しながらも攻撃の手はやめない男。剣の切っ先はどれも首ギリギリを掠めていて、少しでも反応が遅れたら確実に生首ができあがるに違いない。

 まずい、と思っていると男の後ろに回り込みこちらに向かって魔法銃を構えているシンティアの姿が見えた。


「シンティアが助ける! いっけえ!」


 シンティアの銃弾が背後から男を狙い、続いてソフィアのクナイが放たれる。しかしそれらは見えない壁のようなものに阻まれ、男には傷ひとつ与えられなかった。


「それならこれはどう!」


 すかさずリーナがスピアを構えて見えない壁に突き刺し、力技で壁を壊そうとするも壊れる気配さえない。

 この男は何かに守られているのか、それともこういう魔法があるのかわからないが、このままでは一方的にやられるだけだ。


(どうする、これじゃあ双剣で斬りつけたところで勝ち目はないぞ……)


 いっそこのまま逃げ切るか、と考えていると急にルキに体を押し飛ばされた。


「少しオレが相手してやっから、今のうちに双剣出しとけよ!」


 ルキがそう言って男の前に立ちはだかると、魔法弓を片手に持ちながら何やらブツブツと唱えながら攻撃を防御している。その間も男は攻撃対象をルキに変更しただけで、先ほどと同じように剣技を繰り出していた。


(魔法ならあいつの壁を壊せるのか? でも詠唱する魔法なんて一体なんの魔法を……)


 火や水など一般的な魔法なら詠唱なしですぐに出せる。詠唱しないと出せない魔法なんてあまり聞いたことがないし、見たこともない。

 何をするつもりなんだと双剣を構えつつルキを見ていると、詠唱が終わったらしいルキが急に叫び出した。


「こいつでくたばっちまいな! 突き刺せハリヴァスッ!」


 その言葉とともに無数の金属のようなものが男の周りを取り囲み、瞬時に見えない壁へと突き刺さる。これでも壊れないのかと思っていると、あちこちから軋むような音が聞こえ、見えない壁だったものは確かに砕け散ったのを感じた。


「今だフィン!」


 この瞬間を逃すわけにはいかない。

 俺は思い切り力を込めて男に斬りかかる。しかし刃は相手を斬ることなく、キンッという音とともに流されてしまった。続けてルキが魔法弓を射つも全て弾き落とされてしまう。


「やっぱり死んでおくべき人間だよおまえは。せっかくの壁が台無しになっちまった。」


「キミよりは生きていてもいい人間だと思ってるけどな。」


「まぁそう言われると否定もできねぇなぁ……。まぁ今日はもういいや、壁もなくなっちまったし帰るとするわ。またなフィン・クラウザーと仲間ども。あとついでにルキもな。」


「待てアドラー!」


「次会う時まで死ぬんじゃねえぞ、お前らを処刑台送りにするのは俺だからなぁ。」


 そう言うと次の瞬間男の姿は消えていた。逃したか、とルキは悔しそうにしているが、俺は助かって安心している。壁を壊せても、あの只者ではない剣技を凌ぐことは容易ではないだろう。

 実際俺は一太刀も浴びせることができなかった。それどころか双剣を構えることもままならず、ルキが突破口を開いてくれなければ押し負けていただろう。


「いろいろ2人には聞きたいことがあるけど、とりあえずここから逃げましょう。」


 そうだ、このままこの街にいるわけにもいかない。

 俺を一方的に知るあの男、そしてあの男と知り合いのようなルキ。気になることしかないが、リーナの言う通り今は立ち止まって話しているときではない。

 俺たちはひとまず今夜キャンプができそうな場所を探しに再び森の中へと走り出した。


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