ロボットを困らせるやつら
「どうぞ、お納めください。こちらはヒラソルで採れた逸品のハチミツですよ。」
「いや嘘だろロボットに何渡してるんだよ。」
ロボットの目の前に走って行ったマクシムは、どこに隠し持っていたのかハチミツを取り出してロボットに献上していた。その言動に困惑したのは俺たちだけではなかったようで、ロボットも動きを止めてジッとハチミツを見ている。あらゆる状況に対応するためにいろんなプログラムをされているだろうが、さすがにハチミツを渡されたときのプログラムは組まれていなかったようだ。
危険物と判断されて敵対されなければいいが、と俺は少しの不安を持ちながらロボットの次の動きを待つ。しかしロボットはハチミツを見てジッと止まったまま、一向に動こうとしなかった。
「マクシム殿、ハチミツはロボット殿の好物ではないのかもしれぬ。ここはやはり饅頭の方が良いのではないか?」
どうぞ、とこちらもどこに隠し持っていたのかシスイは饅頭を取り出してロボットに献上した。ロボットは一応ハチミツも饅頭も受け取ってはくれたが、やはりどうしていいかわからないようだ。
「そもそもロボットなんだから食べ物あげても困るだけなんじゃないか?」
「何を言うか、フィン殿! この饅頭は東方で有名な店の饅頭! これを渡されて嫌な者などいないはずだ!」
「このハチミツだってヒラソルのですよ! どのハチミツよりも甘く、誰もが虜になること間違いなしです!」
そうは言っても相手はロボット。人間相手ならまだしも、ロボット相手に渡すものではないだろう。もちろん中に人が乗っているならまた話は変わってくるだろうが。
「で、どうするんだよここから。動かなくなったぞ、ロボット。」
「マクシムたちが変なことするからですわ! ここは普通に話しかけるのが一番でしょう。ロボットさん、わたくしたちは怪しい者ではありませんわ!」
アリーチェがそうロボットに話しかけると、ロボットはアリーチェの方を見たあとに献上されたハチミツと饅頭を見た。これはなんだと言いたいのだろうか。
「確かにマクシムとシスイの言動は意味がわからない不審なものですが、わたくしたちはただ、ゲハイムニスというところに行こうとしたらあなたに出会っただけですの。」
ゲハイムニス、その名前をロボットは知っているのか、アリーチェの方を再び向いてハチミツたちが乗っていない方の手を差し出した。それはまるで乗れと言っているかのように、アリーチェをジッと見つめている。
「乗れと言ってますわよね。わたくし重くないかしら。」
失礼しますわ、と言ってアリーチェは躊躇いなくロボットの手に乗った。どこに連れて行かれるのかとか、何かされるんじゃないかとかは考えないタイプらしい。それだけ肝が据わっていないと皇女や暗殺者なんてできないか、と妙に納得もできるが。
アリーチェを乗せた途端立ち上がって歩き出したロボットに俺たちは慌ててついていった。歩くにつれさらに霧は濃く、視界はどんどん見えなくなっていく。しかしここでロボットを見失うわけにはいかないので、ちょっと足が疲れたから休憩ということもできず必死について行くしかない。
「てか何故俺たちは乗せてくれないんだよ!」
「ロボット殿はオスなのかもしれぬな。」
「女好きですか。ルキを連れてこなくて正解だったかもしれませんね。女好き同士喧嘩になりかねませんし。」
そんなわけあるか、と言いたいところだが実際そんな気がしなくもないこの状況。一応俺たちがついてきているか気にはしてくれているようで、時折こちらを振り返って確認をしている素振りを見せる。
しかしそのあと俺の勘違いかもしれないが、どこか勝ち誇ったようなちょっと腹が立つ笑みを見せている気もする。ロボットなので表情は変わらないはずなのに。
「なんでしょうね、この敗北感。やはりバズーカで粉々にしてやりましょうか。」
「落ち着け、マクシム殿。姫殿が心配で頭がうまく回っていないのはわかるが。昔から姫殿のこととなると一層おかしくなっていたが、今もそれは変わらずか。」
「別に心配なんてしてませんしおかしくなんてなってませんよ。仮に何かあったとしても、あのじゃじゃ馬姫がただでやられるわけないでしょう。心配する時間がとても無駄です。」
「聞こえてますわよ、マクシム!!!」
お嬢様の聞き間違えじゃないですかね、と言い捨ててマクシムは足を速めた。口では心配していないと言いつつも、やはりアリーチェのことが心配でたまらないのだろう。
「なんというか、マクシムも意外とわかりやすいな。」
「そうだろう。なんせあいつは軍師になるよりも昔からずっと……。」
「勝手な想像で物を言わないでください。ほら、そうこう言ってるうちに着いたみたいですよ。」
その言葉に前を見ると、苔むした石があちこちに散乱している広場にそびえ立つ城のようなものが確認できた。先ほどまでの霧もなくなり、あたりは綺麗に遠くまで見ることができる。
だが綺麗に見えるだけで、ツァオバーはおろか他の街や建物はどの方角を見てもみつからない。ヒンメルの土地ならば高い建物はあちこちに建っているし、こんなに何も見つからないなんてことはありえないはずだ。しかしどの方角にもあるのは空と地平線だけであり、それがこの場所の異質さをより一層感じさせた。
「こんな場所があれば確実にヒンメルの地図に載っているはずですわ。でもないということはやはりここは……。」
ロボットの手から降りてきたアリーチェがキョロキョロと辺りを見渡しながら言う。忘れられた土地、そして後世に受け継がれなかった土地、ゲハイムニス。何故そうなったかはわからないが、ここにこうして今存在することだけは確かだ。
「ロボットのことも気になるが、あの城も気になるな。」
「何かありますと言っているようなものですしね。行ってみるべきかと。」
何が出てくるかまったくわからないが、ここまで来た以上怖気付いて帰るわけにはいかない。
行くか、と俺たちは城に向かって歩き出した。できれば役に立つものがありますようにと願いながら。




