近くにいると信じたい
シスイを新たに仲間に入れた俺たちは、その後他の人に見つかる前にワープで脱出することに成功した。俺は正直ここがどこかわからないが、シスイ曰くゲハイムニスに行くにはここが一番近い場所なのだそうだ。土地勘がない俺としてはそう言われたら信じるしかないが、本当だろうかと疑ってしまうのもわかってほしい。
何故なら今目の前に広がっている光景は、どう見ても小さな漁村であり、ここから近いと言われても信じられないくらい向こう側には何もない。遠くまで見渡したところで、あるのは海と整備されていない砂利道だけだ。
「本当にここから近いのか?」
思わず疑いを隠さずにシスイに尋ねる。
「そうだ。確実にゲハイムニスに行けるとは限らんがな。」
一番近いと言い張ったくらいなのだから場所がわからないわけはないはずなのに、シスイは堂々とそう言って歩き出した。
「確実には行けないってどういうことなんだよ?」
「進めばわかると思いますよ。私たちの運が良くて勘が良ければ行けますから。」
「ちなみに俺とマクシム殿は以前行こうとして辿り着けなかった。ゆえに期待はできない。」
ということは今回も辿り着けないのでは、と思うがそれは言わないでおく。それよりも今気になるのは先ほどから急に出てきた濃い霧だ。漁村にいた時は霧なんてどこ見てもなかったし、遠くまで見通すことだってできた。しかし漁村から少し離れただけであたりはもう真っ白と言ってもいいくらいに霧がたちこめている。
こんなところでもし敵に出会ったら最悪だろう。視界は効かないし敵か味方かの判断もつきにくくなる。できればこんな場所では出会いたくないものだ。
それに何より怖いのは、ここで今はぐれたら確実に帰り道がわからないということだ。後ろを見てももうどのような道を通ってきたのかわからない。方向感覚なんてとっくに失っているし、これが前に進んでいるという自信もない。
こうも不安要素ばかりの空間にいると思考も段々と塞ぎ込んでくるもので、もはや歩くことさえも嫌になってきていた。
「暗くなってきましたわね。」
どれくらい歩いて、どれくらいゲハイムニスに近づいたかわからないが、もう陽が沈んだのか暗闇が広がってきていた。夜でただでさえ視界が悪いのに霧まであるとなると、これ以上進むのも危険な気がしてくる。
だからといってキャンプをしようにも、ここが安全かどうかさえわからないのだが。
「む、やはり辿り着けないか。仕方あるまい、漁村に戻るとしよう。」
「戻るのか? せっかくたくさん歩いたのに。」
近づいているのであれば進むべきで、ここでまた漁村に戻ればほぼふりだしに戻ったも同義だ。何より一日中かけて歩いたことが無駄になってしまうのも精神的にくるものがある。
「フィンの言いたいこともわかりますが、ここは漁村に戻るのが一番なんですよ。ここまで歩いて辿り着けないとなると、歩いてきた道を一旦リセットした方がいいです。」
「いまいちよくわからないが……。2人がそう言うなら任せる。」
「すまぬな、フィン殿。では漁村ツァオバーへ。」
そんな名前だったのかあそこ、と思っている間に俺たちの体は再び漁村へとワープした。暗くなってから見ると明かり一つない漁村は少し怖いものがある。
そう、明かり一つない。それどころか人影も見えない。昼間来た時はそんなことに気を回す余裕なんてなかったが、ここはもう使われていない廃村みたいにも見える。桟橋は苔がびっしりと生えているし、あちこちに破損した樽や箱が散乱している。
その所々に赤黒い血がついているのは見なかったことにしたい。きっと暗くて見間違えたんだと言い聞かせたいが、そうも言えないくらい家の前には大量にこびりついていた。
「ではあいてる家を借りて今日は寝ましょうか。」
マジか、と俺は思わずマクシムを見た。明らかに惨劇がありましたと物語っている場所で寝泊まり。何故この人は平気なのかと神経を疑いたくなってくる。
それとも俺の勘違いで血に見えるこの赤黒いシミは別の何かなのだろうか。それなら怖くないし何も問題はないなと、やめておけばいいのに俺はマクシムに聞いてみた。
「人いないんだな、ここ。」
「3年前の戦争で犠牲になったんですよ。村人は全員殺され、それから誰もここに移り住まなくなりました。なのでどの家を借りても問題ないです。」
「たった今精神的に問題でたけどな。平然としていられるマクシムたちメンタル強すぎるだろ。」
やっぱり惨劇が起きていたんじゃないか、と俺は顔を強張らせた。別に幽霊とかを信じているわけではないが、そういった場所で寝るのは気が引ける。正直言うならば少し怖い。
「慣れたくなかったですが、慣れちゃったんですよね。さて、あそこの家でも借りて寝ましょうか。明日は朝から彷徨う予定ですし。」
「できればここに泊まるのは今日限りがいいですわね。別に幽霊とか怖くないですけれど!」
「アリーチェお嬢様の馬鹿力の方がお強いと思いますので、幽霊がいたところで大丈夫でしょう。」
「ちょっとマクシム! またわたくしのことバカにしましたわね!」
「気のせいじゃないですかね。」
アリーチェをあしらいながらマクシムはツカツカと空き家に向かって歩き出した。置いていかれないようにと俺も急いで後を追うも、あちこちに見える血の跡に気分は下がっていった。




