登る
俺にとって長い長い1日が終わり、いつもと同じように朝日が世界を照らし出した。川に反射してキラキラと輝くそれは少し眩しくて。あー、このまま何事もなく過ごせたらいいのに、と叶わない願いを持ってしまう。
とりあえずそろそろみんなを起こすか、と結局ずっと頭を腕にくっつけて寝ていたリーナを軽く揺する。あまりぐっすり寝られなかったのか、それとも寝起きがいい方なのか、スッと目覚めたリーナはこちらを確認すると瞬時に俺から離れた。
「リーナおはよう。顔でも洗ってきたらどうだ? 川の水が気持ちくてサッパリすると思うぞ。」
「おはよう、フィン……。じゃなくて! なんでくっついて寝てるのよ馬鹿!」
「はあ!? 寝るときにくっついてきたのはそっちだろ! 俺は何もしてない!」
起きて早々混乱したリーナに罵倒された。まさかあれはすでに寝ぼけていたのか? だとしても俺がセクハラしたみたいに思われるのは心外だ。こっちだって鉱石を磨いたりするのを我慢しながら腕を貸したというのに。
まぁ、良い思いをしたと少しだけ思ってもいるが。
俺の返答にリーナはそうだったかしらと少し考え込み出した。それにそうだったんですと返せば段々と自分の昨夜の行動を思い出してきたようで、急に顔を赤くしたかと思うと必死になって謝ってきた。
「ごごごごめんなさい! その、なんていうか、ちょっとセンチメンタルになってたっていうか! とにかくこのことは忘れて! あと誰にも言わないで!」
「それは無理ね〜。」
「なんなら夜もバッチリ見てたしなぁ?」
「今夜はシンティアがフィンにくっついて寝る!」
いつの間に起きていたのか、のんきにおはよーと挨拶をしながら集まる。まさか見られていたなんて思わなかったリーナはさらに顔を赤くして川へ走って行った。
他のみんなもそれに続いて顔を洗いにいく。俺は朝食と保存食でも作るか、と焼き魚と干物の準備を始めた。
「今日はどこまで行こうか。」
朝食を食べ、リュックに必要なものを入れて立ち上がる。焚き火の火も消したし、できるだけ来た時と同じ状態に戻した。
保存食用に作った干物はソフィアの風魔法をそれはそれはもうフル活用し、バッグに入れても問題ない出来になっている。人使いが荒いと文句を言われたが食べ物のためには仕方ない。
「できれば街に入りたいわね。キャンプも楽しいけど、お風呂とか入りたいし。」
「女の子は気になるわよね〜。でも一番近い街までまだあるんでしょう?」
「シンティアが知ってる道だとまだ着かないと思うよ。」
今夜も適当なところでキャンプだなぁ、とリュックを背負って歩き出した。鉱石が入っているだけあってわりと重たい。
(足腰鍛えられそう……)
大通りではないだけで、険しい獣道を行くわけでもないからこれくらいの重さはトレーニングにちょうど良いかもしれない。
別に強がってない、強がってないぞ。と自分に言い訳をしているとルキが思い出したかのように口を開いた。
「そういやオレ近道知ってるわ。その道なら多分今日の夕方には着くぜ。」
その言葉にわかりやすくテンションがあがる女性陣。俺としても今日中に着くならそちらの方がありがたい。
「ただ結構険しいっつーか、危険じゃないがわりと登山っぽいっつーか……。」
このリュックの重さを知っているルキが不安そうな顔でこちらを見ながら言う。この重さで登山? 俺が耐えられると思うか?
しかしリーナとソフィアはもうその道を行く気満々だし、シンティアは登山したいと飛び跳ねている。
ここで俺がやっぱり普通の道で行こう、なんて言おうものならどんな空気になるかなんて想像もしたくなくて。俺は俺の足腰を案じつつも苦笑いで登山を選んだ。
「じゃあ行くか、こっちだ。」
「じゃあ行くか、で行けるものなのかこの山。」
「ガチれば行ける。」
ちょっとカフェでも行こうぜ、のノリで提示された道はもはや道ではなかった。どう見ても山、森であり、整備された形跡さえない。これが道だと言うならこの地上全てが道だろう。
決断早まっただろこれ、と少し絶望しながらルキに着いていく。あちこちにスパイダーの巣があるし、もう服に何が付いてるのかもわからないくらい一瞬で汚れた。
これはリーナたちも嫌じゃないのかと目線をやると、何故か楽しんでいるようで。あの葉っぱ美味しそうだの毒キノコ見つけただの、思い切り山を満喫していた。
(女ってわかんねえ……)
長い時間歩いて山を越えているとさすがにお腹が空いてきて。休憩できる場所もないし干物でも齧りながら歩くか、とみんなで干物を食べながら歩く。おそらく側から見たら異様な光景だろう。
「私干物ってあまり好きじゃなかったんだけど、これは美味しいわね。」
「お姉さんが頑張って作ったから当然でしょ〜。」
そのままソフィアがいかに大変だったかを語り始めると、突然目の前の木々が倒れると同時に上から家くらいの大きさの鳥が降りてきた。
シルバーに輝く羽根と大きな嘴。こちらを睨みつけるかのような鋭い眼光はずっと見ていると怯んでしまいそうだ。
「なによこいつ!」
「なんか敵意剥き出しね〜。」
「昨日のよりでけえな。こいつはちょっとしんどそうだ。」
「言ってる場合か! 構えろ来るぞ!」
そう言えばそれぞれ武器を構えて臨戦態勢になった。初めての全員での戦闘、どれだけ連携できるかわからないがここで死ぬわけにはいかない。
まずは敵の出方を伺って、と睨み合いをしているとついに鳥がルキに向かって走り出した。
「おいおい! オレは遠距離専門だっての! 鳥にもモテるのかよこの顔!いやー罪だわー!」
焦っているのか余裕なのかわからないことを言いながらしっかり魔法弓を射って攻撃しているルキ。当分囮役にでもなってもらおうと俺たちは鳥の後ろに回り込んで攻撃をしかけた。
「え、そういう感じ? オレがまさかのタンク?」
「ほらごちゃごちゃ言ってないで引きつけてなさいよ! くらえっ!」
「シンティアも続くよ!」
リーナのスピアが鳥の背中を掠め、間髪入れずにシンティアの魔法銃も命中した。
それにはさすがに鳥も怒ったのか金切り声で鳴いたかと思うと、勢いよく振り返り鋭いツメでリーナを攻撃する。
その素早い動きに対応できなかったリーナは腕にツメが直撃し、見ているのも痛いほどに流血した。
「リーナ! これでも食らうといいわ〜!」
リーナから注意を逸らすべくソフィアがクナイを放射線状に投げた。それは大きな身体に全て刺さり、鳥の動きが一瞬止まる。
(今だ!)
「押し流せ、水流剣!」
双剣に水魔法で水を纏わせて攻撃とともに水ダメージを与えていく。鳥相手にはあまり効果は期待できないが、胴体を深く斬りつけながら体全体を水で覆う。
小さいモンスターならこれで溺れるか押し流されるのだが、さすがにこの大きさではただ濡れただけになりそうだった。
とりあえず今のうちにリーナを安全なところへ、と走り出すと同時にルキが声を上げる。
「ついでに砕けちまいなぁ! 氷破砕!」
その言葉とともに鳥に纏わりついていた水は一瞬で凍り、次の瞬間パキーンという音とともに砕け散り、光の粒子となって消えた。
「よっし勝った勝ったっと。」
ルキの言葉に安心したのか、体の力が抜けるのを感じた。デカすぎて正直もっと長引くと思っていただけに、ホッとして今にも座り込みそうだ。
(って、リーナは!)
そうだリーナが酷い怪我をしているんだった、とリーナに駆け寄ると俺より先に動き出していたソフィアに手当てをされていた。
「ねぇ回復魔法使ってよ、地味に痛い。」
「これくらいこの薬草つけておけばすぐ治るし傷痕も残らないからダメ〜。」
「ソフィアのケチ。イタタタタタタごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
笑顔で傷口を思いっきり握るソフィアと涙目になりながら必死に謝るリーナ。それを見て今後怪我をしても絶対に変なことは口走らないようにしようと固く誓い、俺は鳥がいた場所へ戻った。
「こんなん落ちてたぜ。」
戦利品がないかと先に漁っていたらしいルキがそう言って俺に小さいカードのようなものを渡してきた。それはパソコンなどに使うマイクロSDのような、しかしそれらよりも更に小さく文字なども何も書かれていない。
「なんだこれ?」
「さぁな、何か中に入ってる情報を読み取れるモンがあればいいんだがなぁ。」
とりあえずリュックに入れておくか、となくさないように小さいジップ付きポケットに入れた。この先必要になるかはわからないが、まぁこの大きさなら邪魔になることもない。
他はというと綺麗な羽根と大きなツメくらいしか落ちていなかったが、これらは売れば多少のお金になる。この大きさならそこそこの値段いくだろうし、今夜の宿代にはなるだろう。
集められるだけ集めてリュックにしまい込み、よいしょっと背負う。すると当たり前だが先ほどより重くなったそれに軽く絶望した。
「ふぅ、みんなごめんね。もう大丈夫だから進みましょう。」
リーナの言葉に無理してないか心配になったが、血はもう止まっており、傷も浅いのか目立って見えるほどでもない。
「じゃあ行くか、あと少し登ったら降りるだけだ。痛み出したらフィンに背負ってもらえよ。」
「わー急に激しい痛みがー痛いなー動けそうにないなー。」
ルキのからかいに乗ってすごい棒読みを披露するリーナ。そんだけ余裕があれば歩けるだろ、と軽くかわしながら俺も歩みを進めて行った。
次の街まであと少しだ。




