タイミングが最悪すぎただけなのに
あれからマクシムをなんとか落ち着けて俺たちは解散した。財政難だし拠点でウダウダしている暇は正直ないが、今はどこに安全に行けるかがまだわからない状態なので仕方ない。
そんな状態で俺ができることと言えばアクセサリーを作るくらいだ。幸い鉱石は今までの冒険で溜め込んでいたし、なかなか作る時間もなかったから良い機会かもしれない。
俺は共用のカバンから適当に目についた鉱石をいくつか手に取り自室へ向かった。こうやってのんびりしていると、自分が国総出で追われてるなんて嘘みたいに思えてくる。おそらく束の間の平和なのだろうが。
(しまった、軽食もついでに持ってくればよかったな。)
自室に入ってから思いつくも、もう部屋から出たくはない。戦闘していないとはいえ今日は疲れたし、あとは風呂入るまで極力動きたくない。お腹が空きすぎて死ぬかもしれないとなった時は頑張って食堂に行く、それ以外は引き篭もる。そう決意して俺は机の上に鉱石を置いた。
さてどれから磨いていこうか、と色とりどりの鉱石を見る。イエローもいいし、ブルーもいい。今まで作ってきたのは比較的明るい色が多かったし暗めのものもいいかもしれない。
「うーん、形も特に作りたいものが今パッと思い浮かばないんだよなぁ。」
「シンティアはイエローがいいと思うよ! お星様にしよ!」
「そうだな、じゃあそれで……って、なんで俺の部屋に普通にいるんだ、シンティア。」
返ってくるはずのない独り言に、いるはずのない人物。確かに俺は鍵をかけていなかったが、何故シンティアが普通に椅子に座って寛いでいるのか。
「開いてたもん! それよりお星様のネックレスとかにしようよー!」
「開いてたからって男の部屋に入っちゃいけません。いいか、シンティア。世の中の男はロクなこと考えてない奴も多いんだから、あまり無防備にこういうことしちゃダメだぞ。」
「……?」
しまった、14歳にはまだわからないか、とキョトンとしたシンティアを見てため息をつく。俺だからいいものの、この先もこの調子で他の男の部屋にホイホイ入ってこうものならシンティアの身が危ない。
(いや、俺でもダメか? 彼女いるのに部屋で違う少女と2人きりってこれもしかしてアウトか……?)
仲間だしセーフであると信じたい。それに俺はシンティアに対してやましい気持ちなんて一切ないし浮気にならないはずだ。あるのは今日も元気で可愛いなぁとかアホ毛出てる可愛いなぁとかそんな気持ちだけだし、セーフなはずだ。
「あー……、まぁ、じゃあ、イエローでお星様でも作るか。」
俺はそんな思考から逃げるようにイエローの鉱石を手に取って双剣の片割れで磨き始めた。ここまでこの剣でやってきて今更だが、もう少し短い短刀が欲しいと思う。今のこの双剣は慣れたからうまく削ったりできるが、かなり細かい作業をするときは少しこの長さが辛い。
だが別で鉱石専用の短刀を買おうにも、アドラー曰くこの双剣に使われているものは特別なもの。つまり道具屋や武器屋で売っていない可能性の方が高い。その特別なものも、記憶がなくなる前の俺とアドラーしか知らないと言っていたし、俺は相変わらず思い出せない。
少しは記憶も戻ってきているものの、まだまだ思い出せないことばかりだと自分の事なのに焦ったさを感じる。だが焦ってもどうにかなるものでもないし、この状況を受け入れていくしかない。きっとキッカケさえあればそれに追随した記憶が出てくるはずだと信じて。
それなら、と俺はシンティアに話しかけた。確信はないが、シンティアの過去から何かわかる気がする。以前ヒンメルという名前を聞いた時、引き攣った顔で反応したあたり何か俺とも関わりはあるはずだ。
「シンティアはリンドブルムに引っ越すまでずっとアゲートにいたのか?」
突然の質問にシンティアは一瞬戸惑った様子で目をパチクリさせている。
「そうだよ! お母さんとお父さんと一緒だったけど、戦争で死んじゃったからアゲートにいるの辛くなっちゃって。」
それでまだ子供なのにリンドブルムまで1人で引っ越してきて鍛冶屋を営むのは相当すごいと思う。戦争といえば3年前だし、11歳なんて普通だったら親戚に引き取られるような年齢だ。
こういう話題に仕向けた質問ではあったが、踏み込んだことを聞いてしまったと少し罪悪感を感じた。もしかしたらシンティアは俺よりも苦労してきたのではないか。
しかし俺の考えに反して、シンティアは過去に折り合いをつけているようだった。
「でも今はちょっと不思議な気持ち。」
「不思議?」
「うん。マクシムが軍師になったからヒンメルがアゲートに勝ったって聞いて、シンティアにとったら親の仇みたいなものなのに……。マクシムやアリーチェ、アドラーを恨もうって全くならなかった。良い人たちって知ってしまったからなのかな?」
そう言ってシンティアはどこか悲しそうに笑った。シンティアからしたら敵側の人間で中心核だったマクシム。3年という月日のおかげなのか、それともシンティアの精神が強いのか。どちらにしろこんな幼い女の子が抱えるには重すぎて、俺まで悲しくなってくる。
慰めたくて、でも迂闊に抱きしめるわけにも撫でるわけにもいかず、シンティアになんて言おうかと考えるも良い言葉は思いつかない。それどころか3年前の戦争で俺は何をしていたのかとか、もしかしてアゲートにいたのかとかそんなことが頭を掠めてさらに俺を暗い気持ちにさせる。
しかしそんな気持ちを打ち破るかのように、シンティアはいつも通りの明るい声で騒ぎ出した。
「ねぇそれよりお星様早くー! できたらシンティアにちょうだい!」
「はいはい、わかったから大人しく待ってろよ。できれば自分の部屋でな。」
そうさりげなく退出を促すが、シンティアは出ていくどころかまさかの行動をとった。
「わーフィンのベッド良い匂いするー!」
「ちょ、こらシンティア! そういうことしな……あ。」
あろうことか俺のベッドに潜り込んだシンティアを引っ張り出そうとしたとき、一番見られたくないタイミングで一番見られたくない人物が扉を開けた。何故このタイミングなのかと神を恨みたい気持ちでいっぱいだ。
「随分と楽しそうね。美味しいお菓子を持ってきたのだけれど、お楽しみみたいだからいらないかしら。」
明らかに怒っている声色と表情で俺に話しかけるリーナ。やましいことは何もないし、完全に誤解だがダラダラと冷や汗が出てくる。
「いや、違うんだ、リーナ。俺たちは別にそういうことをしていたわけじゃなくてだな、大体するんだったら俺はおまえとしたいと思っ、痛ってえ!」
何が悪かったのか、俺の頬にはかつてないほどの威力でビンタが繰り広げられた。




