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聞かされる身にもなってほしいやつ

「それでな、ルキ。その時のリーナがほんと可愛くてな、もう俺のこと可愛さで殺そうとしてるんじゃないかってくらいで。聞いてるか?」


「いや、うん、聞いてるしよかったね? よかったけどフィンはオレをなんだと思ってるの? 最近リーナとの惚気全部聞かされるオレの身にもなってくれる? オレだって女の子とイチャイチャしたいのを我慢してんだぜまったく!」


 あーオレも彼女作ろうかなーでも女の子みんな愛してるしなー、という叫びをあげながらルキは机に突っ伏した。その振動で少し紅茶がこぼれてしまったが、アドラーが持っていたやけに可愛らしいハンカチで拭いて机の上へこれみよがしに置く。これは間違いない、そのハンカチはなんだと聞いて欲しいやつだ。

 いつもだったら気持ちが悪い趣味だなと見て見ぬふりをするが、今の俺はすこぶる機嫌が良い。機嫌が良いので絶対にスミラから貰ったとわかっているが素直にアドラーに話しかけることにした。

 まさかこうして恋バナをすることになるとは最初の頃は全く思いもしなかったが、男同士のこういう話もいいものかもしれない。


「どうしたんだ、そのハンカチ。アドラーにしてはやけに可愛らしい花柄じゃないか。」


 その言葉にルキも気になったのか顔を上げてハンカチを見る。


「うわ何そのピンク色。絶対キミのじゃないじゃん。」


 ルキはあからさまにゲンナリした様子でハンカチからアドラーに視線をやった。


「おっと。やれやれ、バレちまったか。」


「ウザ。シンプルにウザ。なんでオレここにいんだろ。」


 心底嫌そうな顔をしながらも席を立たないルキは本当に良いやつだと思う。なんだかんだ仲間のことが気になるのか、大切に思ってくれているということなのかわからないが。


「で、わかりきってるけどなんなの、ソレ。」


「スーミがくれてなぁ。俺に女が寄り付かねえようにとわざとこんな可愛らしいもの寄越したんだ。アイツの独占欲は凄まじいからな。」


「コワ。シンプルにコワ。」


 どこか嬉しそうに話すアドラーに顔を引き攣らせながら相槌を打つルキ。確かにルキの言う通り少しスミラの気持ちは怖いが、それも愛情ゆえの行動だろうしアドラーには可愛く見えているのかもしれない。現にアドラーは嬉しそうにハンカチを見ている。


「可愛いだろ、スーミ。言っとくがやらねぇからな。あいつは俺のだ。」


 ふふん、と自慢げにアドラーはふんぞり返った。少しイラッとするがまぁ気にしないでおこう。


「はぁ……。そこまでハッキリとオレたちには言うクセに、なんでスミラちゃんにははぐらかし続けてるワケ?」


 少し嫌そうな声色をしながらもルキはアドラーに質問した。嫌気はさしつつもやはり気になりはするのだろう。正直俺もそのあたりは気になる。俺たちに釘をさすなら、さっさと彼女にしてしまえばいいのに。


「……その前にいろいろとやらなきゃいけねぇことがあんだよ。まぁ全部片付いたら、そん時スーミに別の男がいたって俺が掻っ攫ってやるさ。」


「アドラーなら本当にやりそうだから凄いな。」


「ていうか近づいてくる男片っ端から消してくでしょキミ。掻っ攫うんじゃなくて皆殺しって言うんだよソレ。」


 その言葉にアドラーは少しだけ悪い笑みをして黙った。肯定なのかそれとも前科があるのか、どちらにしろ怖いのでこれ以上は聞かない方が良さそうだ。

 代わりに何か違う話でも、と俺はもう一つ気になっていることをアドラーに聞くことにした。みんなスルーしているが、俺は最初から気になっていたことがある。


「なぁ、スーミってのはあだ名なのか?」


「そうだが。俺のとこに初めて来た時に気紛れでつけたら気に入ったらしくてな。それ以来ずっと使ってんだよあいつ。」


 だからか、と俺は納得した。ただのあだ名にしては何故か他者から呼ばれたくなさそうで、でもアドラーに呼ばれるのはとても嬉しそうだった。別にはっきりとそうスミラが示していたわけではないが、特別な呼び方なのだとなんとなく感じさせる何かがあったから気になっていた。

 この感じからするとその勘の通りスーミと呼ばなくて正解だったようだ。もしどこかでスーミとアドラーのマネして言おうものなら、アドラーの大剣が首スレスレに現れていたに違いない。

 俺はホッとしながら、絶対にスミラと呼ぼうと決心した。何があってもスーミと呼んではいけないと。

 そんなことを考えていると、ガチャリと扉が開いてマクシムが入ってきた。その手に乗せられたおぼんには紅茶とスコーンのようなものが見える。

 ここでしたか、と言いながらおぼんを置きマクシムはルキの隣に座った。ルキがやっと来てくれたと少し涙ぐんでいるから、どうやらルキが呼んでいたらしい。何故そんな涙ぐんで喜んでいるのかはわからないが。


「もうマジで待ってたぜ、マクシム! コイツらどうにかしてくれ! オレ1人じゃもうムリ! ずっと惚気聞かされてんの! オレかわいそうだろ!?」


 そんなに惚気たつもりはないが、ルキのメンタルはかなりきていたようでマクシムに思いっきり泣きついている。確かにこのメンバーならハチミツさえ関わらないのであれば一番まともな思考回路の持ち主、いざという時は頼りになる男ナンバーワンのマクシムに頼りたくなるのもわからなくはない。

 そんなマクシムならきっと俺とアドラーの惚気を止めてくれるとルキは信じていたようだが、非情にもマクシムはその期待に応えることはしなかった。


「そんなことより、私の話も聞いていただけますか。あのお転婆姫、いえアリーチェお嬢様がまたしてもハチミツは1日1瓶までなどと言いやがりくさりまして。どう考えても1日1瓶では足りないと説明しているのですが、あの脳筋姫、いえアリーチェお嬢様はわかっていただけないようなのです!」


 ダンッと拳を机に叩きつけ、マシンガントークかと思うほどの勢いでアリーチェの愚痴を言い出すマクシム。所々口が悪くなっているのはそれだけ許せないということの表れなのか、それとも実はそっちが素なのか。それも気になるところだが、とりあえずマクシムを落ち着かせなければ。


「きっとアリーチェもマクシムの体を心配して言ってるんだろ。」


「そうかもしれませんが、アリーチェお嬢様は私に対して厳しすぎると思うんです! 頭使うんですからもっとハチミツ食べたっていいじゃないですか! 昨日はこっそり隠しておいたマイハチミツも没収されて代わりに何渡されたと思います? お野菜も食べるべきですわってサラダですよ!? 確かにサラダも大事ですがそれとマイハチミツは関係ないでしょう! 顔が良いのを自覚してるせいで断ろうとすれば可愛い顔をしてくるのもタチが悪いんです!」


「やべぇ、マクシムとまんねぇじゃんコレ。人選ミスった……。」


「とりあえず落ち着くまで話を聞いてあげよう。ストレス凄いんだろうし……。」


 その後もマクシムの愚痴は止まらず、1時間以上に渡って大の男3人で慰めるという謎の光景を作り出した。ストレスが相当ヤバそうなのでアリーチェにもう少しハチミツに関して譲歩してもらおうと思う。

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