メイドの本気を見るがいいです
やっぱり攻撃しにくいから、身を守りつつ少女が疲れるのを待とう。そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。なんなら俺の腕も吹っ飛びかけた。一体どんな訓練を積んだのかと疑問になるほどに、目の前の少女は俊敏且つ的確にこちらを攻撃してきている。
「霞。」
少女はそう静かに言うと姿を一瞬で消した。最初に出会ったときに姿が見えなかったのはこの技か、と呑気に思っている場合ではない。どこにいるかわからないのでこちらは攻撃のしようがないが、少女からしたらどこからでも好きに攻撃し放題の状況だ。
こんな状態で背後に立たれ小太刀を振り下ろされようものなら、確実に一振りであの世に逝くだろう。そう背後にだけ意識を巡らせたのがわかったのか、少女の声は背後ではなく上から聞こえてきた。
「雹。」
まずい、と思った瞬間にはすでに遅く、俺たちの上空から大量の雹が降ってきた。魔法とはまた違うこの感じ、一体どういう芸当なのだろうか。
まるで意思を持っているかのように襲いかかってくる雹たちは、器用に俺の腕を致命傷にならない程度に傷つけてくる。頭をやられないのはありがたいことだが、どうにもナメられているようで気分は悪い。
「くそっ、どこにいるんだ彼女は!」
苛立ちを露わにしながら思わずそう吐き捨てる。このままやられっぱなしはプライドが許さない、しかし姿が見えないせいで双剣を振るうこともできない。
それでも何か突破口はあるはずだ、と腕に走る痛みを堪えながら周囲を見渡す。きっと付き合いが長いであろうアドラーなら何かあるはず、そう信じてそちらに目を向けたのが悪かった。
「あ? んだよ、フィン。頑張れ頑張れ。」
そう言ったアドラーは、自分の頭上にだけ例の壁を作り守っていた。それをなぜこちらにも作ってくれないのか。そしてなぜ助けようとせずただ突っ立ってこちらを見ているのか。
「ふざけてるのか。」
アドラーを目にして一番に俺がそう言ったのも無理はないと思う。むしろ優しい方だと言い張れる。
「俺にもその壁作れよ! こう言ってる間にも腕だけ狙って痛っ、ちょ、痛っ!」
「あー、まぁ、本当にヤバくなったら助けてやるから。見てみろよルキたちを。アイツらも頑張ってっし。」
その言葉にルキたちを見ると、ルキは雹を凄まじい勢いで打ち砕き、ソフィアは風で雹を吹き飛ばしていた。
「な?」
「な? じゃないが。ルキ凄すぎるしソフィアは座って休憩タイムみたいになってるし。これはあれか、自分の身も守れない俺がおかしいのか?」
そう考えている間にも傷は次々と増えていく。もう適当に目星つけて空中を切り裂くか、と双剣を構えた瞬間、今まで確実になかった気配がすぐ後ろから殺気とともに現れた。
それに見なくてもわかる。小太刀が背中に突きつけられたことが。
「散。スーミの勝ちで、きゃあっ!」
何事か、と聞こえた少女の悲鳴に思わず急いで振り返る。するとそこにはいつのまに動いたのか、アドラーによって後ろから羽交締め、というよりは抱きつかれてジタバタしている少女がいた。
「勝ったと思って油断してんじゃねーよ、バーカ。」
「やめやがれです! 放せです!」
必死に抵抗を試みながらジタバタ足掻いている姿は、小太刀がぶんぶん振り回されていなければ大変可愛らしいものだ。
「ったく、心配させやがって悪いメイドだなぁ? ……あ? おい、ちょっと見ない間に太ったんじゃねぇか、スーミ。」
「きゃあああああああああ! 胸を揉むなです! この! セクハラです!」
前こんなでかかったか? と言いながらスーミの胸を揉む姿はどこから見てもただのセクハラオヤジだが、正直に言えばめちゃくちゃ羨ましい姿でもあった。身長は小さめなのにしっかり育っている大きめの胸、絶対に触り心地がいいに決まっている。
だが胸を揉まれながら顔を赤らめる少女は正直かなり絵面がアウトなので、見ていたい気持ちを抑えて俺はアドラーを止めに入った。後ろからソフィアの鋭い視線も感じて痛いというのもあるのだが。
「かなり可哀想なことになってるから、その辺にしておいたらどうだ。戯れている暇があったら戻った方がいいし。」
「あぁ? あー、しゃーねぇ、これ以上はテメェには刺激が強いもんなぁ? よし、帰るぞ、スーミ。」
なんだか勝ち誇った顔をされてイラッとしたが、今はそれにくってかかるよりも帰ってこの少女について知ることの方が大事だろう。
(俺だって彼女できたら……! できないしできたことないけど……!)
心の中で思う分にはいいだろ、とアドラーを睨みながら戦いで服についてしまったゴミを取っ払う。そういえば腕にたくさん怪我ができてしまったし、帰ったらソフィアに治してもらおう。
「あれ、そういえばあの男たちはどうしたの? オレたちが来た時にはすでにいなかったけど。」
ルキが思い出したかのように少女に語りかける。確かに元々ここに来たのは少女が男たちに絡まれているのを助けるためで、少女と戦いたかったわけではない。
「あんな奴らスーミの敵じゃないです。すぐ追い払ってご主人様がくるの待ってたです。」
まるでアドラーがここに来るとわかっていたかのような発言に、俺は思わず少女を見つめた。アドラーもリンドブルム西海岸というだけでここだと自信満々に当てたし、この2人は他の人にはない特別な絆でもあるのだろうか。
そんな風に考えながら見ていると、少女も真っ直ぐに俺を見てきた。そのピンク色の瞳は、こうして改めて見てもやはり何もかも見透かしてくるようで少し怖い。綺麗で透き通っているのに、それだけではないような何かがあるように感じた。
「スーミのことそんなに見つめてなんです? おにぎりならもう全部食べちゃったからないです。」
「いや別におにぎりが食べたかったわけじゃ、って、え? 10個もあったのにいつのまに?」
「戦闘中に食べるくらいわけないです。」
戦闘中に食べるのも凄いが、この小さな体のどこに10個も入るのか。そこまで考えて思わず胸に目が行った自分を殴りたい。
これ以上余計なことを考える前にもうワープするべきなのではないか。俺はそっと目を逸らしながら呟いた。
「リベラシオンにワープ。」




