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休息も大事だから

「美味いな、これ。」


「そうでしょう! まぁ、わたくしがフィンのために愛情込めて作ったので当然ですわ!」


「おまえの歓迎会なのにおまえが作ったのか。」


「オレはやっぱ焼き魚だなー! マジうめえ!」


 アドラーとアリーチェの歓迎会、という名のパーティーが始まって数十分。テーブルの上には大量の野菜と魚料理がズラッと並んでおり、みんな好き勝手お皿に取り分けながら食べていた。

 一体どこにこんな量の食材があったのか、並んでいる中には見たことがない七色に輝くキノコまで置いてある。絶対に食べたらダメなやつだろ、と思い俺は手を伸ばせずにいるが、みんなは特に気にせず食べているあたり俺の気にしすぎなのかもしれない。

 それでも怖いものは怖いので、俺は好物の刺身を中心に見知ったものだけ食べていた。刺身は特に絶品で、見た目からして新鮮なことが一目でわかるほど輝いて見える。そう、本当にまるで今朝まで生きていたかのような新鮮さだ。あの拠点の周りに川や海なんてなかったのに。

 いくら買ってきたとは言えこの新鮮さは無理だろうし、それに大きなテーブルを埋め尽くすほどの食材を買うお金なんてないはずだ。いくらアリーチェが王族とは言え、ここにお金を持ってくるなんてこともしていないだろう。


「なぁ、どれも本当に美味しいがこの食材どうしたんだ?」


 気になって仕方がないのでとりあえずアドラーに向けてそう問いかける。


「あぁ? 獲ったに決まってんだろ。ほらテメェの好きな秋刀魚の刺身もあるぞ食えよ。」


「あぁ、ありがとう……。じゃなくて獲ったって、え?奪ったってことか? 俺たちは確かに反逆者だが流石にそんな無法者みたいなことはちょっと……。」


 そう俺が言うと、アドラーはそこまで落ちぶれてねぇよと呆れた顔でこちらを見てきた。なんだか仲間になったとはいえ、少し腹が立つ。


「じゃあ獲ったってなんだよ。」


「この遺跡は海に囲まれてるだろ。それに実は地下に川魚を養殖できる小さな池もあってな。おかげで魚はすぐ獲れるし、野菜はこの遺跡出てすぐのところに畑があるから、そこでいろいろ育てて収穫してるだけだ。」


「わたくしももちろん農作業頑張りましたわ! とはいえここを見つけたのはフィンが遭難してからということもあり、他はあまり手が回っていないのですけれど……。」


「絶対いつか使う時がくると思ってたからなぁ。軍の仕事もこなしながら夜な夜な畑を耕しては魚の養殖をし、釣りもしつつよくわからねぇキノコも収穫する激務をこなしてたんだよ俺たちは。」


 まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかった、とアドラーはため息をついた。俺としてはそのうちどこかに移動はしないといけないと思っていたので、結果的にはありがたいのだが、アドラーたちはもうちょっと拠点として整備されてから使うつもりだったらしい。

 確かに今の状態では食料は問題ないとはいえ、軍事系の設備もないし攻め込まれたらもたないだろう。特にヒンメルは空からの爆撃がお家芸みたいなとこがあるし、今そんなことされたらひとたまりもない。

 まずは最低限守ることができるように、職人の確保と設備を置く場所の整備をするべきだろう。そう考えている間にも、愚痴のように止まらなくなったアドラーとアリーチェのいかにここの開拓が大変だったか話を聞きながら、ちゃっかり俺は刺身を貪り食べていた。本当に毎日でも食べたいくらいに美味しい。


「畑があるってことは、薬草を育てる区画も作れるかしら〜?お姉さんとしては買うより育てるほうがありがたいのだけれど……。」


「シンティアは鉱石が採れる場所が欲しいなー! そしたら武器だって加工できるし!」


「それでしたら畑の区画はまだまだ余っていますし、鉱石なら出てすぐのところに謎の……ちょっとヤバそうな採掘ポイントがありますわ。養蜂ができる場所もありますからハチミツもまた採れますわよ、マクシム。」


 ハチミツというアリーチェの言葉にわかりやすくマクシムがガタッと勢いよく立ち上がり、隣に座らせていたエニグマを抱き上げた。


「ホントですかアリーチェお嬢様!」


「ええ、畑のすぐ隣にありますからすぐわかると思いますわ。」


「聞きましたかエニグマさん! これは一刻も早く向かわないとですよ! アリーチェお嬢様、また美味しいハチミツをご用意いたしますからね! さぁ行きますよエニグマさん!」


 息継ぎしたかどうかも怪しいほどの早口でマクシムはそう宣言して出て行った。人間は好きなものには多かれ少なかれ興奮するものではあるが、ここまでくるとハチミツが好物の人というより変態に近い気がしてくる。


「オレどうしても気になるんだけど。」


 そんなマクシムの言動にみんなが呆気に取られている中、ルキは怪訝そうな表情でアリーチェを見ながら言う。


「どういう関係なワケ?」


「……別に、昔ちょっと知り合いだっただけですわ。あ、浮気とかじゃないですわよ! わたくしは昔からフィン一筋ですわ!」


「別に誰もそんな心配はしてないけどな。」


「でも詳細隠すなんて怪しくね?」


 前に似たようなことを尋ねたときもはぐらかされたし、確かに気になると言えば気になる。どう考えても先ほどのやりとりはお互いを完全に知っているものだ。


「隠すと言うか、その……。わたくしにとってもマクシムにとっても、ちょっと……。と、とにかく浮気とかではないのでそれだけは信じてくださる? 信じられないのなら今からわたくしがいかにフィンのことが好きかを語りますわ!」


「信じるから何も語らんでいいぞ。」


「えー、オレはちょっと興味あるのに。」


「ではまず出会編から……。あれは満月の夜にわたくしが……。」


 語らなくて良いと言ったにもかかわらず結局語り出したアリーチェを横目に、俺はそろそろお腹もいっぱいだしと席を立った。その間にもおそらくかなり脚色されているであろう語りに、ルキやソフィアたちはうんうんと真剣に聞き入っている。

 そんな中リーナだけは俺が立ち上がったことに気づいて隣に来た。リーナも相当食べていたし、お腹がいっぱいに違いない。


「リーナも外行くか? 今朝は外まで見れなかったし。」


 そう誘えば、リーナは少し嬉しそうに頷きながら歩き出した。さりげなく掴まれた腕はいつもよりも優しくて、そこからも機嫌が良いことが伺える。


「まずは畑……いやマクシムの邪魔しちゃ悪いし釣り場探しでもするか。リーナはどこか見たい場所あるか?」


「フィンと一緒ならどこでもいい。」


「あのなぁ……。」


 リーナの返答に俺は少し困りながら外へ出た。少し傾いたオレンジ色の陽射しが俺たちと海を綺麗に照らす。

 この状況でなければ、そう、たとえば普通に暮らしていてデートとかの帰り道だったりしたら、とてもロマンチックな光景だっただろうに。


(まぁ、普通に暮らしていたところで彼女がまずいないんだけどな……)


 綺麗な景色とは裏腹に俺は軽く凹みながら再び歩き出した。

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