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正義も悪も立場次第

「俺と、アリーチェと、フィン・クラウザー。」


 躊躇うことなく言われたそれに、俺は思わず頭を抱えた。

 一気にいろんな事実が押し寄せてきて、正直頭にうまく入ってこない。アリーチェもアドラーも、敵だと思っていたのはこっちだけで、最初から味方でもあったというのか。


(いやそれにしては最初会ったとき本気で殺しにきたような戦いをしかけられたぞ……)


 それに3人の真の目的が皇帝暗殺。アリーチェにとっては自分の父親であり、アドラーにとっては守るべき対象の人物。そして俺にとっては。


「なんで、俺が……? 俺は別に皇帝に殺意なんて、持って……。第一、アクセサリー屋の俺がなんでおまえらとそんな目的を……。」


「ヒンメルには暗殺をする組織、わたくしやアドラーの所属していた暗殺部隊と、スパイ活動が主な部隊がありますわ。そしてフィン、あなたは後者に所属していました。大まかな括りでは一緒だったので、気が合ったわたくしたちはよく3人で遊んだりしたものです。」


「今回こうなっちまったのも、元はと言えば皇帝暗殺計画がどこかからか漏れたのが原因でな。しかも何故かテメェの単独犯かのような状態で。それでなんとか助けようとあれこれした結果がこれってわけだ。まぁ立場上ちょっとばかしテメェらを痛めつけることにはなったが。」


 俺がヒンメルのスパイであり、暗殺をして生活をしていた。そんな事実を簡単に受け入れられるわけがなかったが、ふと腰にある双剣の存在を思い出す。そうだ、この双剣は汚れていた。それもたくさんの血と、人の脂で。

 シンティアに綺麗にしてもらったとき、人を殺してなんかいないと俺は俺を信じたが、実際は本当に大量に殺していたようだ。それどころか、皇帝の暗殺までも企んでいた。そりゃあヒンメル軍に追われるのも納得だ。


(俺が、人殺し。仕事とはいえ、おそらく大量に)


 記憶なんてない。だが否定しようにも、もう受け入れるしかないだけの情報が出てきてしまった。そうなのだと思えば、今までの疑問もスルスルと解けていく。

 あれだけ知りたかった過去が、重たい事実となって覆い被さってくる。これでは犯罪者は、悪は俺の方だ。


「俺は、俺は……。」


「フィンは! 過去がどうであれ、私と出会ってからのフィンは優しくて、強くて、かっこよくて、みんなのことを一番に考えてくれる、そんな人だから! 私は、今のフィンを、信じてる。」


「リーナ……。」


「過去も仕事だったと割り切るしかありませんわ。それに、犯罪者だともしお考えなら、暗殺部隊にいたわたくしやアドラーだってそうですわ。仕事とはいえ、たくさんの人を葬ってきましたから。でも受け入れて、先に進むしかないんですの。もうこんな思いをする人を増やさないためにも、進むしかないんですわ。」


 アリーチェの言葉に、そういえばそうだったと少しだけ思い出す。暗殺も、スパイも嫌いだった。だが生きていくためにはアクセサリー屋だけではやっていけなくて、武器の腕を買われて軍に入った。

 俺はそんな自分が嫌いで、同じく本当は人を殺したくなかったアリーチェとアドラーと仲良くなった。暗殺対象も悪人ならまだしも、どれも皇帝が個人的に気に食わないというだけ。中には仲良くしてくれていた人もいて、任務は毎回心が死んでいた。

 俺たちはもう、こんな思いをする人を増やさないように計画を立てた。そうだ、俺たちは腐敗した軍を、国を、ひっくり返す。俺を信じてくれたリーナたちのためにも、ここで立ち止まるわけにはいかない。


「ま、うだうだ考えてたって仕方ないっしょ! アドラーとアリーチェが加わったのはデケェし、今夜はパーッと歓迎会でもやろうぜ!」


 ルキの声にソフィアやシンティアが早速準備だと部屋を出て行く。その様子にキッチンの案内をしないと、とアリーチェも慌てて出て行った。


「フィン、あのね。」


「なんだ、リーナ。やっぱり俺が怖くなったか?」


 静かに話しかけてきたリーナに、思わずそう問いかける。


「違う! 私はもうフィンについてくって決めたの! 今更離れろって言われても絶対ついてくから! それに、私はフィンが……!」


 そう力説するリーナに思わず笑みが溢れた。受け入れられるというのはこうも嬉しいものなのか。


「わかったわかった。で、どうしたんだ。」


「あ、その、ほら、歓迎会するなら飾り付けとかしたいし、道具屋とか行ってみない……? 別にその、1人で行けないわけじゃないけど……。」


「ほらほら、デートのお誘い受けてんだからボケーっとしない! キミってホント女心がわかってないなぁその顔で。」


「アリーチェも苦労してきたからなぁ。ま、リーナちゃんも頑張れや。」


「う、うるさいわよルキとアドラー! もう! 行くわよフィン!」


 どこにそんな力が、という強さでリーナに腕を引っ張られる。それが初めてリーナとリンドブルムの街中に行ったときを彷彿とさせて、少し気持ちが楽になった。

 それはそれとしてルキとアドラーには文句の一つでも言ってやりたい気持ちだ。俺が女心をわかっていないというより、おまえらがイケメンすぎて経験豊富なだけだと。

 心の中で毒づきながら俺はリーナについていった。

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