息を吐く
追手もいないしそろそろ休憩するか、と綺麗な川の側で腰を下ろした。横になって寝るには痛そうだが、料理や休憩をするにはちょうど良さそうだ。
焚き火のための木の枝はそのあたりにたくさん落ちているし、飲み水は川の水を沸騰させれば問題なく飲めるだろう。
問題は俺が火をつける方法を知らないのと、食べ物がないということだ。
ここまでくるのに狩って食べられるモンスターにも出会わず、食べても問題なさそうな木の実なども見つけることができなかった。流石に大通りを行くのはまずいと獣道を歩いてきたというのに。
なんなら食べることができないモンスターにも出会わず、まさに平和なピクニック気分でここまで来ている。
「じゃ、オレはなんか食いモンでも探してくるぜ。」
「お姉さんは薬草とか探そうかしら〜。急だったから手持ちなくって。」
じゃああとでな、と2人揃って散策に出かけるルキとソフィア。慌てて俺も行くよと叫ぶも、キミはそこを見張ってろよと振り返らずに言われてしまった。
気を遣わせてしまったかな、と思いつつ、素直にここで休むことにした。
しかし身体というのは本当に正直なもので、ぐぅ、と先ほどから鳴っているお腹の音に余計空腹を感じてしまい気は休まらない。
ふと辺りを見渡すと、すぐ側ではシンティアとリーナが一緒になって川で遊んでいた。どうもこの川はそこまで深いわけではないらしく、魚も泳いでいるようだ。
必死に手で捕まえようと魚を追いかけるシンティアと、司令官のつもりなのかあっちだのこっちだのシンティアに指示するリーナ。元気だなぁと思いながらその様子を見つめる。
(魚かぁ、最近川魚なんて食ってなかっ……!食い物!)
釣りをする道具もないし、石を積み立てて追い込むスペースを作って捕まえるか。本当は網とかあればいいのだが、ここにあるのは枝と石くらいだ。
「シンティア、石を積み上げて囲いを作ろう。そこに魚を追い込めば獲れるかもしれない。」
「わかった! よーし積むぞー!」
シンティアと一緒に手ごろな石を積み上げて囲いを作っていく。広すぎず狭すぎず、ちょうど良いサイズの囲いを作ればあとは魚を追い込んで出口を塞ぐだけだ。
「こんなもんだな、枝で上手いこと誘導できるといいんだが。」
思ったよりたくさんいる魚にテンションがあがるも、ここではしゃいだらあちこちに逃げられて台無しになりかねない。
自分では冷静にやっていると思うのだが、なかなかうまいこと誘導できず、先ほどからあまり成果は良いと言えなかった。
シンティアは、と目線をやると意外と器用にやるようで、あちこちに作った囲いに人数分はあるだろう魚がいた。
「すごいなシンティア、これだけいれば明日の朝も食べられそうだ。」
そう言うとシンティアは自慢げにこちらを見て笑った。釣竿を手に入れるまではシンティアに魚を獲ってもらうことにしよう。
あとは木の枝でも集めて焚き火の準備を、と思っているといつのまにか川からいなくなっていたリーナが薪を持ってこちらに歩いてきた。
薪なんてこの辺にあったのか? とかその量を一回で持てるとはどういうことだ、とかいろいろな言葉が浮かんできて忙しい。
そんな俺に気づいたのかはわからないが、近くに薪を置いてリーナが話し出した。
「いい感じの木があったから割ってきたわよ。魚焼くなら必要でしょ?」
「ああ、ありがとう、リーナ……。あのさ、どうやって薪を? 斧なんて持ってたのか?」
「ないわよそんなの。スピアしか持ってきてないんだからスピアで割ったに決まってるでしょう。」
「スピアで……割る!?」
そんな驚くこと? と言ってるがスピアで薪を割るなんて聞いたことがない。というか、聞いても全然想像できない。スピアだぞ、どうやって割るんだよ。
リーナの言葉に同じく驚いたらしいシンティアも絶句している。子供も唖然とするようなことをした自覚は持ってもらいたい。
「スピアって、薪、割れるんだな。」
「割れたんだからそうなんでしょうね。ほら、組み立てるの手伝って。」
火事にならないように場所に気をつけながら組み立てていく。と言っても適当に並べるだけだが。
「シンティアこういうの初めてだから楽しいな〜。」
「私も初めてかも。ずっとあの街にいたし。」
「ま、これで追われてるわけじゃなかったら最高だったかもな。」
よし、とわりと綺麗に並べられた薪を見ながら雑談を始める。今朝まではこんなことになるなんて思ってもいなくて、適当にアクセサリー作って売って、ダラダラと日々を過ごしていくんだろうと思っていた。
(まさか指名手配されるなんて誰も考えねえよな普通は)
これからどうするとか、どこに向かえばいいとか、そんなことも行き当たりばったりで考えるしかなくて。次の街に向かうのだって、ただ一番近いからというだけで絶対そこに行きたいわけでもない。
(どうしたらいいんだろうなぁ、俺たち)
気を抜くと暗くなってしまう思考回路。なってしまったものは仕方がない、と割り切れたらどれだけ楽だろうか。
仲間がいる以上、塞ぎ込んで心配をかけるわけにはいかない。俺は頭を軽く振って、必死に気を紛らわそうと空を見上げる。陽が傾いてきた空は綺麗な夕焼けを描いていた。




