ひたすら待つもの
「ダメだマジでただ登ってるだけとか超ヒマ。なんか面白い話でもしてくれ、フィン。それか自分語りしてくれ。」
「どちらも俺には無理だな。」
クライノートへ今度こそ向かうべく、目の前に聳え立った山を登り始めて数時間。早くもルキは暇を持て余していた。ただ登っているだけと言っているが、リーナの分の荷物も持っている俺にとってはそれが辛くてワイワイと話している余裕がない。それにこの状況で特に面白い話がパッと浮かぶわけでもなく、相槌を適当に返すので精一杯だ。
ルキも多くの物が入ったバッグを背負っているのだから体力的に結構辛いと思うのだが、そんな様子は見せず暇だなーと呟きながら先頭を歩いている。そこまで暇ならルキが何か面白い話か自分語りでもすればいいのに、と思っているとルキが突然立ち止まってこちらを向いた。
「てかオレらまだお互いのことよく知らねぇじゃん? こういう暇なときこそお互いのこと知るチャンスだと思うんだよね。てわけでソフィア頼むわ。」
「そうね〜、お姉さんのことを話してもいいけど、何を話そうか悩むわね〜。」
絶対にただの暇つぶし目的だというのに、もっともらしいことを言われて標的にされたソフィアは何を話そうか真剣に悩み始めていた。適当にあしらうとかしないあたり性格の良さが滲み出ている。
とりあえず標的が俺でなくなったことに安堵しつつ、俺は再び歩き始めたルキについていった。こういうときは下手に何か話すより黙っていた方が安全だ。どんな飛び火がくるかわかったもんじゃない。
「じゃあまず始めにお姉さんのスリーサイズを上から〜。」
「え! ソフィアのスリーサ、あっ、いや、ごほん。すまない、続けてくれ。」
黙っていようと思っていたそばから俺の決意はソフィアのスリーサイズ告白宣言により脆く崩れ落ちた。この中でも一番の巨乳、正直何度もチラチラ見てしまうそれのサイズと言われたら反応してしまうのは仕方がない。
「オレ前から思ってたけどさー、フィンって胸フェチだよな。胸のことになると凄い勢いで反応するし。」
「そりゃあ、その、仕方ないだろ……。」
思わず反射的に反応してしまった俺にシンティアとリーナは呆れたような表情をした。それがまだ軽蔑でないだけマシだが、何かを失ったような気がする。
俺は別に胸フェチというわけではないがやはり男たるもの興味がないとは言い切れない。大きさとか形とか、一般的な範囲でいろいろと興味はある。それは決して俺が胸大好きな変態というわけではない、多分。
頭の中で必死に言い訳をあれこれ考えながら俺はソフィアが続きを話すのを待っていた。その間に崖からルキが落ちそうになったり、シンティアが人生について考えだしたりといろいろあったが気にせずただひたすら待っていた。
そう待ち続けて数時間、そろそろキャンプにしないと夜通しで歩き続けないといけないくらいに日が傾いてきている。みんなはここら辺で今日は休むか、とそれぞれ焚き火を作ったり料理の準備を始めたりと動き出した。その様子に俺は信じたくないが、もしかしてとある疑惑を感じる。そう、もしかしたら。
(ソフィアのスリーサイズの話はあれで終わりなのか……?)
そんな馬鹿な、と思うもソフィアもあれからもう違う話をし始めているし、みんなもスリーサイズのことなどなかったかのように動いている。まさか俺だけが続きを楽しみにして黙っていたのだろうか。
いやでもそんなはずはない、もしそうなら俺が変態ということになってしまう。このパーティ内で一番の常識人であると自負している俺が一番の変態だなんてそんな悲しい現実は求めていない。
突き刺さる認めたくない事実に少し泣きそうになりながら俺も椅子を組み立て始めた。今日はもう頑張れそうにない。
「ねぇ、フィン。ずっと黙ってるけど大丈夫?」
明らかにテンションが低いですという感情をダダ漏れにし過ぎたのか、リーナが不安そうな表情で俺に話しかけてきた。その顔にまさかソフィアのスリーサイズが聞けなくて凹んでいましたなどと言うわけにはいかない。
「あ、あぁ。少し疲れたのかもな。別に体調が悪いわけでもないし、大丈夫だ。」
「そう? それならいいけど……。」
「疲れてるならシンティアが癒してあげる! 特別にナデナデしてもいいよ!」
「されたいならそう言えばいいだろ、シンティア。ほら、おいで。」
キャンプの準備も一通り終わって時間ができたからか、珍しくシンティアが甘えてこちらに頭を差し出す。その様子に可愛いなと頭を撫でればシンティアは嬉しそうな顔をして抱きついてきた。
「ふふふー、フィンに撫でてもらうの久しぶりー!」
「そうだったか? わりと撫でてる気がするが。」
「そうだよー! リーナばかりだもん最近! シンティアだって構ってくれないと拗ねちゃうよー! 拗ねたシンティアはめんどくさいからもっと構ってね!」
そうよくわからない脅しをしてきたシンティアに思わず笑みがこぼれる。普段は年齢のわりにしっかりしているように見えるが、こういうところはまだまだ子供だ。
こういう感情を出してくるだけ信頼を築けたということだし、素直に喜ばしいことでもある。だが同時に先ほどまでのスリーサイズに執着していた自分がどうしようもない大人に思えて複雑な気持ちになった。




