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嵐のように君はかき乱すけれど

「あれ、おかえりなさい。早かったっすね。」


「ちょっと、ハァ、いろいろ、ハァハァ、あって、ハァ……。とりあえずこれを置かせてくれ……。」


 あれから俺の腕以外無事に入り口まで戻ってきた俺たち。流石に一日中持っていたせいで腕が限界だった俺は机の上に鉱石をドンッと置いた。腕は当分使えそうにない。

 そう少し雑に置いた鉱石を眺めつつ近くにあった椅子に座り込む。ここまで腕も体力も使ったのだからこれがブルーダイヤであってほしいものだが、同じく鉱石を眺めている鍛冶屋の様子からしてそうでもなさそうだ。


「また随分と大きなものを掘り出したっすねー。反射加減も良いし、かなり上物ではあるんすけど……。」


「ブルーダイヤではない、か。」


「ですねー。随分と似てるし、これがブルーダイヤの噂の元かもっすねぇ。」


 その言葉にわかりやすく項垂れる。似ていても本物でなければ意味がない。

 それでもせっかくここまで運んできたことだし、何かに使いたい気持ちはある。だがこれだけ大きな鉱石、加工しようにもさすがにこの双剣で削っていくのは難しい。

 加工もできないとなるともうこのまま売るくらいしかできないのだが、それも少しもったいない気がしてくる。そう思ってしまうほど他とは比べ物にならないくらいにその鉱石は魅力的だった。


(何か、何かないか使い道……)


 座ったままもう一度鉱石を見る。しかし何度見てもその大きさが変わるわけでもなく、ただ綺麗だなぁという現実逃避にも近い感想しか出てこない。

 いっそ半分くらい、いやできれば4分の1、いや6分の1くらいに割ることができればいろいろと使い道が出てくるというのに。

 綺麗に割ることさえできれば、そう思ったとき壁にもたれかかって休んでいるアドラーの姿が目に入った。


「鉱石だけ取り出せるなら鉱石を綺麗に割ることもできるだろ、アドラー。」


「はあ?」


 あの手をかざしただけで岩を砕き鉱石だけを綺麗に取り出すよくわからない技。あれの応用で鉱石を綺麗に割れたりしないものか、と考えてアドラーに話しかける。

 しかしアドラーからは期待した答えとは違う、困惑の声が返ってきた。おまけに表情が完全に呆れたときのそれで少し腹が立つ。


「できたとしてもやらねぇわ。なんで俺がテメェのためにそこまでやら、げぇっ!!!」


「どうした、アドラー?」


 話している途中で変な声を出して固まったアドラーの視線を追う。すると店、坑道の入り口にいつのまにか立っている1人の少女がいた。


「ようやく見つけましたわよ、アドラー!」


 そう言いながら紫色の長いツインテールを靡かせアドラーに近づいていく少女。少女といっても俺と同じくらいだろうが、どことなく佇まいというか雰囲気が上品で気品がある。もしかしてどこかのお嬢様とかなのだろうか。

 アドラーにもこんな知り合いがいたんだな、と謎の感心をしながら2人の様子を見ていると、少女はアドラーのすぐ隣に立って話し始めた。


「GPSには偽情報を送りやがってましたわね!? 全く、やることが小賢しいんですわ! そのせいでわたくしがどれだけ探し回ったと思っているんですの!?」


 そうアドラーに怒りながら少女は壁をゴンッと殴った。いつのまにつけていたのか、手にはナックルのようなものをはめている。

 その一撃により壁が一部ボロボロと崩れ落ちているのは見なかったことにしたい。こんな可憐な少女がそれだけ怪力などと信じたくないからだ。


「あ、あー、なんでここがわかったんだよ、アリーチェ……。」


「ふんっ、そんなこと今はどうでもいいでしょう。それより仕事をサボって一体何しているんですの? というかこの方達は、って……!」


 アリーチェと呼ばれたその少女が周りを見渡す。それにより俺ともバッチリ目があったアリーチェは急に目を見開いたかと思うと、こちらに向かって勢いよく走ってきた。


「フィンじゃないの!」


「うわああ!?」


 急な出来事に、俺はなすすべもなく情けない声を出して頭を抱きしめられた。座っていたおかげでちょうどアリーチェの胸元に顔がきたのでご褒美と言っても過言ではない状況だ。


(ソフィアほど大きくはないがこれはこれで……! ありがとう神……!)


 謎の感謝をしつつ、俺はアリーチェからの抱擁を顔には出さないが嬉々として受け入れていた。しかし痛いほど、いや本当に痛いほど抱きしめてくるこのアリーチェという少女は一体何者なのだろうか。

 そう疑問に思っているこちらのことなど考えてもいないのか、アリーチェはさらに力を強くしながら一方的に話し出す。


「怪我とかしてません? きちんとご飯は食べていますの? わたくしずっとずっと会いたくて、あら?」


 言いたいことを早口で言いながら、アリーチェは俺の双剣を見た。マジマジと見ながらも抱き締める手はゆるまず、俺のいろんなものが限界を迎えそうになっている。


「綺麗に、なって……? まさかついにわたくしと結婚する気になったんですわね!? でもわたくしはまだ17歳、もう少し大人の女性としての振る舞いを学んでから、ってちょっとなにするんですのアドラー!」


「悪りぃな、フィン・クラウザー。コイツがこうなるだろうから連れて来なかったんだが、どうやって嗅ぎつけたんだか……。ま、暴走しだしたし連れて帰るわ。クライノートに行きたかったんだがなぁ。」


 そう言ってアドラーは俺から無理矢理アリーチェを引き剥がした。それによりようやく楽になった体から力が抜ける。

 急に見知らぬ少女に抱きつかれ、顔が幸せを感じつつ、何やら一方的に語られ。正直何だったのだろう今の数分間はという気持ちでいっぱいだ。

 ふぅ、と息をついて少女とアドラーの様子を見る。帰るぞ、と言っているアドラーに嫌ですわと拒否するアリーチェ。何回かの同じやり取りの後、よほど帰りたくないのか、アリーチェは近くにいたルキに抱きついた。


「オレは今幸せを感じている。」


「だろうな。よかったな。」


「おいルキ離れろや。今度は心臓を狙うぜ。」


「オレは今絶望を感じている。」


「だろうな。死ぬかもな。」


 大剣を器用にもルキの顔スレスレで振ったアドラーにルキは真っ青になっていた。だが離れろと言われてもくっついているのはアリーチェの方なのでルキにはどうすることもできない。助けてくれ、と目線だけで訴えかけてくるが俺にもどうすることもできないのでただ祈るのみだ。

 そんなやりとりの中アリーチェはというと未だに離す気配を見せないでいる。その様子に早くも痺れを切らしたらしいアドラーが大げさにため息をつきながらアリーチェに話しかけた。


「大人しく帰ればこの数日で隠し撮りしたフィン・クラウザーの写真をやろう。」


「何をモタモタしていますの? 帰りますわよ!」


 恐ろしいほどの速さでルキから離れてアドラーの側に行くアリーチェ。その姿にホッとしつつもルキは少し寂しそうにしている。

 とりあえずルキの心臓が切り裂かれる心配はなくなったし良かった。良かったのだが、俺としては聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。

 この数日で隠し撮りしたフィン・クラウザーの写真、と。

 一体いつ撮ったんだ、と俺は立ち上がってアドラーの近くに行った。そんなものは消してもらいたいものだ。


「待て、なんだ俺の隠し撮り写真て。消せ。」


「あぁ? いいじゃねぇか500枚くらい。なぁ、アリーチェ。」


「そうですわよ。わたくしとフィンの仲じゃないの。何を今更恥ずかしがることがありまして?」


 恥ずかしいとかそういう問題ではないのだが、2人とも何を言っているのかと首を傾げてこちらを見ている。普通に考えておかしいということが何故わからないのか、俺の方が首を傾げたい。


「いや、犯罪だしな? あとすまないが、アリーチェ、でいいのか、その、記憶になくて。」


 そう少し申し訳なく思いながら言うと、アリーチェはショックを受けたような顔を一瞬した。しかしその表情は見間違いだったかと疑うほど瞬時に先ほどまでと同じに戻っている。


「わたくしとの思い出が0だなんて……。でもこれはチャンスですわ。いいかしら、フィン。わたくしとあなたは将来を誓い合った仲で、それはそれは毎日ラブラブに過ごし……。わたくしのことも部屋ではアリーチェではなく、特別にアーチェと呼んで……。」


「最後以外嘘だから安心しろや、フィン・クラウザー。じゃ、そろそろ止まらなくなるだろうし帰るわ。またな、俺が捕まえに来るまで生きてろよ。」


「ちょっとわたくしまだフィンと……!」


 そう言いながらアドラーとアリーチェは消えていった。それにより急に静かになった空間に謎の疲れがドッと押し寄せてくる。嵐のように現れて嵐のように去っていくとは彼女のようなことを言うのだろう。

 それにより一体アリーチェが来るまで何の話をしていたのかもわからなくなった俺は、ここまで一言も喋っていないリーナたちを見た。ソフィアとシンティアはまさに呆気に取られているといった表現が似合うように口を開けてボーッとしている。そりゃあ目の前であんなことが起きたらこうもなるだろう。

 リーナもそうだろうな、と顔を見ると隠す気が微塵も感じられないほど不機嫌ですを表情に出していた。あからさまに頬を膨らませながらこちらを睨んでいるリーナは、ドシドシと可愛くない音をさせながらこちらに歩いてくる。

 その様子にそんなに放置されていたのが寂しかったのかと少し笑うと、リーナはさらに目を釣り上げながら抱きついてきた。


「誰よ、あれ。結婚とか言ってたし随分と仲良かったみたいだけど。」


「そう言われても俺も知らないからな。よしよし。」


 リーナの頭を撫でながらアリーチェのことを考える。あんな少女と仲が良かったと言われても記憶がないが、アドラーとのやりとりからすると友人ではあったのだろう。

 それにアリーチェの仕事をサボってという言葉やアドラーの帰るという言葉、彼女もヒンメルの軍所属だったりするのだろうか。ナックルをつけていたしわからなくもないが、軍人にしては違和感を感じるほど気高さがあった。もちろん今の世の中、貴族の軍人がいたところでおかしくはないのだが。


「あああああああ! 思い出したわ〜!」


「うおっ! オレ今心臓止まりかけた……。」


 急に大声で叫び出したソフィアに思わず撫でていた手を止めてそちらを見る。一体何を思い出したのか知らないが、ソフィアはかなり興奮しているようだ。


「彼女、どこかで見たことあると思ったわ! アリーチェ・フォスキーア! ヒンメルの皇女様じゃない〜!」


 その言葉にソフィア以外の全員が絶句した。


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