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後で謝るから今だけは

 整備されて歩きやすい坑道内を歩き始めて数時間、狭く変わり映えのしない道が続いていた。

 刺激といえば、たまに何処からか湧き出てくる小型モンスターとの戦闘のみ。それもアドラーが一瞬で大剣のサビにして終わるため特にピンチとかにもならず、誰も怪我することなく進んでいる。

 もちろんみんなが無事に歩いていることは喜ばしいことだ。特に今までのこういう場所でのピンチどころではない出来事を考えると、ここまで全員、主に俺がかすり傷一つないのは奇跡とも言えるだろう。

 だがだからなのか、逆に何か起きてくれないと不気味に感じてしまって思わず何かないかと探してしまう。坑道といえば完全に偏見だが、落下する罠とか上から何か降ってくるとか飛んでくる弓矢とか。

 整備されている時点でそんなものは取り除かれて安全になっているのが普通だが、あまりに何か起きることに慣れてしまった俺には少し退屈でもあった。

 そんな退屈さを埋めるべく誰かに話しかけようか、と仲間の様子を見る。

 シンティアは相変わらずアドラーに肩車をされてご機嫌なのか、聴いたことのない独特な鼻歌を歌っていた。そしてそれに謎の合いの手をいれるアドラーとルキ。3人でコンサート気分なのか手を突き上げたりマイクを持つフリをしたりと忙しそうにしている。

 そんな盛り上がっている3人は迷いもなくどんどん前へ進んでいく。時折合いの手を入れながらモンスターを一太刀で斬り捨てて血を振り払うアドラーには少し恐怖も感じる。

 そんな騒がしすぎる3人とは対称的に、やけに静かにしているリーナとソフィア。特に何か話すわけでもなく黙々と後をついてくる2人はそれはそれで不気味だ。

 何かあったのか、とリーナの顔を見るとやけに真剣な表情でこちらを見返してきた。


「ど、どうしたんだ、リーナ。腹でも痛いのか?」


 思わずそう聞けば首を横に振って否定するリーナ。それなら一体何が、と視線をやるが答えるつもりがないのかフイッと顔を背けられてしまった。

 知らないうちに何か嫌な気にさせるようなことを俺はしてしまったのだろうか。

 何かしてしまったなら謝ろう、ともう一度声をかけようとすると、ソフィアが苦笑しながらリーナの頭を撫で始めた。


「お腹が痛いんじゃなくて、空いたのよね〜? ここのモンスターってキノコみたいな形してるし〜。」


 ソフィアのその言葉に今まで出てきたモンスターの姿を思い浮かべる。ここに来るまでは鳥や蜂、そして蜘蛛などと動物や虫系ばかりだったが、この坑道内で現れたモンスターは確かにキノコのような生物だ。

 色合いこそ紫色でとても食べたいと思えない感じだが、形だけ見ればエリンギそのものである。俺は絶対に嫌だが、もしかしたら食べることもできるのかもしれない。

 しかしお腹が空いたなら空いたと言えばいいのに。


「そろそろ疲れてきたし、少し開けた場所があったらそこで飯にするか。俺も腹減ってきたしな。」


 そう言うとリーナはわかりやすく顔を明るくさせてこちらを見た。


「フィンも空いたなら仕方ないわね。さぁ、さっさと休憩場所探して進むわよ!」


 先ほどまでの不機嫌さはどこへいったのか、リーナは少し離れて前を歩く3人組に追いつこうと駆け出した。急に元気になって現金な奴だとその様子を見ながら俺もリーナに続く。

 すると目の前にいたリーナの足下が突然音を立てて崩れ始めた。


「ちょ、急になによっ! きゃあ!」


「リーナッ!」


 ヒビ割れて崩れ始めた範囲が広く、とても避難できそうにもない。落ちるのは避けられないが、せめて怪我はさせるものかと必死にリーナを抱き寄せて落下の衝撃に備えた。

 できれば奈落じゃありませんように、と目を閉じてリーナをしっかりと抱きしめたまま祈る。しかし地面が崩れた感覚はあれどいつまで経っても落下の衝撃はこなかった。

 どういうことだ、と目を開けて下を見ると、先ほどまで歩いていた地面は2mほど下に瓦礫となって崩れ落ちている。俺たちの身体はというと信じ難いが落ちる前のまま、まるで透明なガラスの上に立っているようだ。

 試しにつま先でコンコンと下を叩いてみるが、すり抜けるどころかわりとしっかりと衝撃が跳ね返された。どうやら本当に何か透明なものの上に乗っているらしい。

 どうなってるんだろう、とそのままコンコンし続けていると、少し前を歩いていたアドラーたちがこちらへ駆け寄ってきた。


「おいおい、フィン・クラウザー。俺が必死になって壁を作ってやったってのに、テメェはなーに青春楽しんでやがんだぁ?」


 そう言われてようやくこの透明な何かがアドラーの作り出した壁だと理解した。俺たちと初めて会ったときにアドラーを守っていた透明な壁。てっきり自分を守る魔法だと思っていたが、こういう使い方もできるものだったのか。


「そうか、アドラーの例の壁かこの透明の床は。すまない、助かった。」


「この貸しは処刑台で返してもらうぜ。それよりリーナちゃんが死にそうだから離してやれや。」


「リーナ……?」


 そういえば守ろうとして抱き寄せたような、と腕の中を見ると、耳まで真っ赤にしてこちらを睨んでいるリーナと目が合った。間違いない、この表情は怒っているときの表情だ。


「いつまで抱きしめてるのよこのバカ! 離してよ!」


「バカって、俺はただおまえを守ろうと思っただけで!」


「それはありがとう、でも危なくないんだから離してよ……!」


 一瞬その言葉に納得して離そうか悩んだが、もう少しくらい堪能させてもらっても良い気がする。というより、床が崩れ始めたくらいから不思議と思考がふわふわとしてきて、あまり難しいことは考えたくなかった。


「なんだよ。せっかくだ、もうちょっとくらい良いだろ。」


「良くないから言ってるの!」


 必死に俺の胸を叩いて逃げ出そうとするリーナ。しかしいくら力が強い方とはいえ男の力に敵うわけもなく、全く逃げられずにバタバタしている。

 その様子が可愛くて、ついもっと虐めたくなりさらに腕に力を入れた。俺の胸元に押しつけられた真っ赤な顔も、何度も叩いてくる手も、ふわりと香るシャンプーの香りも。そのすべてがどうしようもなく今の俺には魅力的に感じる。


「おいルキ、アイツら付き合ってんのかぁ?」


「付き合ってねぇんだよ、アレで。オレたち何を見せられてるんだろうな?」


「最近リーナばっかずるい! シンティアだってフィンに抱きしめられたいのに!」


「お姉さんは見てるだけで十分ね〜。」


 聞こえていないと思っているのか、あれこれ好き勝手言うルキたち。いつもならここでリーナを解放するところだが、まだバタバタともがいている姿が可愛くて離してやれそうになかった。

 なんで急にこんなにリーナを可愛く思っているのか自分でもわからないが、そんな疑問は今はどうだっていい。大事なのはこの腕の中にある温もりをもう少し感じることだ。


「あー……。可愛い……。」


 顔を見ようとほんの少しだけ力を弱めて覗き込む。すると本人は睨んでいるつもりなのか、キッと目をつり上げて俺の顔を見上げた。少し涙目になり潤んだそれは、赤い顔と相まってなかなかくるものがある。

 もういっそこのまま美味しくいただいてしまおうか、とリーナの頬に手を添えて顔を近づける。すると次の瞬間、リーナの大声とともに俺の頬にかつてない衝撃が走った。


「良い加減にしなさいバカ!」


「痛っ……!」


 パシン、どころかゴンッと明らかにヤバい音を立てた俺の頬。あまりの衝撃に思わずリーナを離してそこに手を当てた。それとともにリーナは腕の中から逃げ出してしまっている。

 だがズキズキと痛み始めたそこのおかげで、先ほどまでの妙にふわふわした思考回路は消え去っていった。代わりにきたのは一体俺は何をしていたんだという戸惑いと、罪悪感。


「あー、リーナ、さん……? その、悪かった。なんか俺が俺じゃないみたいな感じになって、止まらなくて……。」


 まずは謝らなければ、とリーナに話しかけるも、聞きませんとばかりにアドラーたちの後ろへ逃げられた。確かにリーナからしてみれば、付き合ってもいない男に急に抱きしめられて、挙句キスまでされそうになってと酷いどころではない。

 正気じゃなかった、どうかしてた、と言ったところでやったことに変わりはないし、俺は最低だろう。自分でもそう思う。

 さてどう許してもらおうかと必死に考えていると、すぐ近くでゴゴゴゴと何かが振動する音が聞こえてきた。今度は地面というより、空間自体が揺れているような不思議な振動だ。


「地震にしては長いし、変な揺れね〜。」


「あまり気持ちの良いものじゃないね。シンティアちょっと酔いそうだもん……。」


 一体何が起きているのか。周りをライトで照らしてあちこち見るが、あるのは壁とあちこちに生えている小さいキノコのみ。特に何も目新しい物はない。


「もしかして地上で何かあったとかじゃね? ヒンメルの秘密兵器が通ってるとか!」


「んなもんがここを通ったらすぐ撃退されるだろうがよ。今アゲートにいるヒンメル人は俺と……っ! 後ろか!」


 アドラーの言葉に慌てて後ろを照らす。すると少しだけ離れたところに、先ほどまではいなかったはずの巨大なキノコのモンスターが現れていた。


「うっわー、こういうとこって絶対デケェのがいるもんなの? オレたちの運が悪いだけ?」


「いつの間にか振動も止まっているし、アイツがさっきの変な揺れの原因だったのかしら。」


 狭い坑道を通せんぼするように立ちはだかる紫色の巨大キノコ。倒したら焼きキノコにしようと仲間たちは謎の盛り上がりを見せつつある。

 まったく気を緩めるのは倒してからにしてほしいものだが、そう言おうにも俺の頭は再び何かモヤがかかったような感じがしてうまく話せなくなっていた。それどころか少し体も怠く、何かにもたれていたいくらいだ。

 他のみんなは大丈夫なのか、と様子を見てみるが全員いつも通り武器を構えている。このキノコのせいかと思ったが、症状が俺だけということはただの風邪か何かなのかもしれない。

 とりあえず俺も武器を構えて巨大キノコを、と視線を上げると、不思議そうな顔でこちらを見ているリーナがいた。


「ちょっと、ボーッとしてどうしたのよ。戦うわよ、ってきゃああああああああ!」


「あー、無理、やっぱ可愛い、無理、可愛い……。」


 顔を見たが最後、俺の意識は再びリーナにいってしまった。近かったのをいいことに先ほどの温もりをもう一度と抱きしめる。相変わらずの良い匂いと柔らかさに、今度こそ離さないとしっかりと押さえ込んだ。


「フィンのヤツどうしたんだよさっきから! キミそんなキャラじゃなかったじゃん!」


「あのキノコの胞子にやられたのかしら〜? さっきから凄い勢いで放出されてるし〜。」


「人によってはやっかいな何かでも入ってやがんのかぁ? ま、リーナちゃんには悪いが、倒すまでフィン・クラウザーの相手しててもらおうや。」


 その言葉に俺はここぞとばかりに腰を撫でたり軽く、本当に軽くお尻を触ったりしだした。たまにビクッと大げさなほどに跳ねては固まる反応も可愛らしい。

 巨大キノコと戦い始めたアドラーたちを尻目に、俺はひたすら手を動かしていた。


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