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センスを疑う


 まさかの全裸の危機をなんとか乗り越え、ザ・普通のメガネを手に入れることができた俺たち。若干トラウマを抱えることになってしまった俺の気分は当然良いわけがなかった。

 しかしそんな俺を気遣うなんてできないこいつらは、先ほどから手に入れたメガネについて語り合っている。気遣うどころか、俺を貶しながら。


「私黒縁メガネはちょっと解釈違いだわ。フィンがフィンもどきってくらい残念な見た目になってるし……。」


「もどきってなんだよ。あと残念とか言うな悲しいから。」


「シンティアもちょっと……。やだな、って思っちゃう……。」


「シンプルな拒絶は辛いからやめろ。」


 まるで凄い変な物のように聞こえるが、そこまで言うほど変なメガネというわけでもなく、本当にただの黒縁のスクエアメガネである。むしろ普通すぎて、誰が付けても特に違和感がないだろう。

 そんな普通のメガネを付けてここまで残念に思われる俺は一体なんなのか。確かにメガネが似合わない人間は一定数いるものだが、俺がそれなのだろうか。


「オレは悲しいぜ、フィン。男なら全裸って昔から言うだろ? なんでメガネなんかつけちまうんだよ。」


「俺も悲しいよ、ルキ。男なら全裸と言いながら誰よりも着込んでいるだろ。」


「じゃあ女も脱ぐわ〜。お姉さんはいつでも脱げるわよ〜!」


「えっ! ソフィア本当にぬぐっ、あっ、いやっ、なんでもない。」


 全員からの視線が俺に突き刺さった。




「えー、それでは気を取り直して……。あー、そうだ、道具屋に行って石の使い方聞かないとな。」


「……そうね。」


 なんだかよそよそしく感じる空気ではあるが、着いてきてくれるあたり見放されたわけではなさそうだ。巨乳に釣られて見放される人生ほどつらいものもない。

 だが少しくらい考えて欲しい。18歳の男なら誰だって巨乳と脱衣には負けるものだ。世の中には抗えないこともある。その一つがこれだ。

 ルキならわかるだろ、と思ったがルキからも冷たい視線を感じる。先ほどまで人に全裸を強要していた変態のくせに、おまえがその視線を俺に投げるかと言いたいところだ。

 そう思いながら歩いていると、道具屋であろう店の前にたどり着いた。まだ看板も立っておらず、何屋かすぐわかるような建物でもない。

 しかし中で忙しなく商品であろう物を運んでいるのは、みんなに肩を組まれるという恐怖を味わったあの少年だった。間違いない、あの可哀想な目にあった少年がいるからここが道具屋だ。


「思ってたよりでかい建物を選んだのね〜。」


「いろんな道具売るには倉庫部分も必要だろうしな。とりあえず入るか。」


 扉を開けて中に入ると、たくさんの品物が綺麗に棚に展示されていた。まだここに着いてそんなに経っていないはずなのに、床などもピカピカになっている。

 棚に置かれている商品はそれぞれカテゴリーできちんとわかれているのか、アクセサリー系や食器系などで綺麗にまとまっているようだ。

 その見慣れない物や目を惹く物に、みんなも先ほどまでの空気を一転させて見入っていた。

 よく少年一人でやれたもんだと感心していると、こちらに気づいた少年が荷物を置きながら近くにやってきた。


「やあにいちゃんたち! いらっしゃいませ!」


「これ全部一人でやったのか? すごい品の数だが。」


「そうだよ。ちょっといろいろ使って各地に隠しておいた品物をここに運んだんだ。」


 そう言って自慢げに店内を指差す少年。ちょっといろいろが何かわからないが、これだけの物を一人でよくできたものだ。

 周りを見てみるとソフィアたちはそれぞれ気になる物を手に取ったり、何か悩むような素振りを見せたりと各々楽しんでいるようだった。これは本来の目的を完全に忘れているやつだろう。

 だが確かに気になる物があるのは自分も同じなので気持ちはよくわかる。みんなが見てるなら、と俺も近くにあった気になる商品を手に取ると、少年は嬉しそうに説明をし出した。


「それは龍の牙だね。と言ってもそういう商品名なだけで、本当に龍の牙なわけじゃないよ。見た目が牙っぽいのと、リンドブルムの鉱山ででよく採れるから龍の牙。リンドブルムには龍がいるっていう神話がずっとあるでしょ?」


 なるほど、と手に持ったその龍の牙という商品を見る。確かに牙のような形をしてはいるが、色合いは白ではなく深い緑色をしていた。

 持った感じはツルツルとしていて、とても丁寧に磨かれているのがわかる。もう少し小さければアクセサリーにできたのだが、握り拳ほどの大きさのこれは飾る以外に使い道はなさそうだ。

 ひとしきり見て満足した俺はそれを元に戻してまた周りを見渡した。みんなはまだ気になる物があるのか好き勝手に見ている。

 うるさくない今のうちに聞いておくか、と俺は少年にここに来た本題について話し出した。


「おまえワープできる石持ってただろ? コリエンテでこれ買ったんだが、同じものか?」


 石を出しながらそう言うと、少年はどれどれとジッと観察し始めた。道具を普段から扱っていると、こういうのも見ただけでわかるものなのだろうか。


「同じ物だねこれ。普通売るほど流通してないんだけどな……。いくらで買ったの?」


「10エール。」


「10! え、ラッキーというか逆に怖いそれ! でも変なところはなさそうだし……。珍しい体験したねにいちゃん。」


 普通は買えたとしても数千万の世界なんだけどなぁとぼやく言葉に思わず顔が強張った。雑にバッグに入れていたのに、そんなに高い代物だったのかこいつは。次しまう時はもっと大事に、絶対落とさないようにしまうのが良さそうだ。


「それで、これの使い方がいまいちわからなくてな。よければ教えてくれないか?」


「ああ、ワープ地点を登録したい場所に行ったら、石を持ってここをワープ地点に登録したいって思うだけで大丈夫だよ。逆にワープしたいときは手をかざしてその地点を思い浮かべれば大丈夫。ワープ地点の解除も思えばその通りになるよ。」


「思うだけでって、なんでこんな石が思考を読み取れるんだ?」


「さぁ……。でも実際にできるからなぁ……。」


 確かにコリエンテを登録したときも、偶然だがここを登録できたらと思いながら握っていた。本当に握りながら思うだけでいけるなら便利どころではない。それがどういうカラクリかはともかく、使えるものは使うべきだろう。

 どうせならせっかくだし今一度試してみるか、と俺は石を握りしめた。登録するのはこの地、リベラシオン。名前をつけたのはつい最近だが、こういう場所も登録されるのだろうか。


(リベラシオンをワープ地点に登録……っと。)


 そう思った次の瞬間、またあの機械音声が石から聞こえてきた。


「リベラシオンヲ登録シマス。」


「おお……! 本当だ、思ったらできた……。」


 これは便利だな、と俺は手を開いて石を見た。見た目は完全にただの石なのに、わからないものだ。


「凄いなこれ。ところでこの石はなんて商品名なんだ?」


 コリエンテのあの店では、ワープできるっぽい石と適当に書かれていたこの石。ワープできるどころかかなり便利な設計のこの石にも、龍の牙みたいなかっこいい名前があるだろう。

 そう思って少年に聞くと、少年はどこか得意げになりながら俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「ワープできるっぽい石だよ!」


 名付けた奴のセンスを疑った瞬間だった。


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