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あーん、に夢を

「だから今日は鍛冶ができて武器を売ってて、俺たちと一緒に戦っ……。聞いてるか、おまえら。」


 宿に併設されていたレストランで朝食をとりつつ、今日すべきことの確認をしている俺たち。いや、正確には俺。俺だけが真面目に話しながら朝食を食べている。

 他の奴らは俺の話を受け流しつつ、次何を取りに行くだのアレが美味しかっただの、それはそれはもう朝食ビュッフェというものに夢中だった。

 確かにここのビュッフェは種類がとても豊富で、見たこともないようなものがズラッと並んでいる。それらはどれも美味しそうで、一度は食べてみたいと思わせるようなものばかりだ。夢中になるのもわからなくもない。

 だが忘れないでほしい。俺たちはここに旅行にきたわけではないということを。早くあれこれ見つけて拠点に、リベラシオンに帰らないといけないということを。

 そんなこちらの気持ちなど知りませんと言った様子でとにかく食べることに夢中な仲間たち。こいつらは危機感とか使命感とかをどこかに忘れてきたのだろうか、と疑いたくもなる。


(多分神経が図太いんだろうな……)


 どうしたものか、と思いながら俺も取ってきたサラダを口にしていると、今まで黙々と食べていたリーナが急に話し出した。


「あの道具屋の子みたいにうろうろしてる鍛冶屋なんているかしら。ねえこれすっごい美味しい! もう一回取ってくるわ!」


「シンティアも行く! それすごい気になってたやつ!」


 リーナとシンティアはそう言って再びベリーが乗った赤いケーキを取りに行った。先ほどより大きい皿を手に取って、他の食べていないスイーツもあれこれ取っている様子が見える。

 すでに五皿分ひたすら甘いものだけを平らげているというのに、一体どれだけ甘いものを食べれば気が済むのか。スイーツは別腹、の域をこえている食べっぷりはいっそ清々しかった。

 とりあえずあの二人はおいといて、大人組であるソフィアとルキなら少しは話せるだろう、と二人の方を見る。すると視線に気づいたルキが料理からこちらへ意識を向けてくれた。


「どうした、フィン。そんなにこれが気になるのか? この焼き魚マジで最高だぜ! 良ければ一口食うか?」


「いや、遠慮しておくよ。」


「そうか……。オレ食いモンの中で何が一番好きかってさ、焼き魚なんだよな。みんなでキャンプしたときのも美味かったけど、ここのは流石にいろんな調味料使ってるっぽくてマジで最高だわ……。オレも取りに行ってくる。」


 そう語るだけ語ってルキは焼き魚コーナーへと歩いて行った。あいつも勘違いでなければかなり食べているはずなのに、まだ余裕と言った感じで足取りが軽く見えた。

 そんなルキから視線を外し、ソフィアなら俺の気持ちをわかってくれるだろうと期待を込めてそちらを見る。だがソフィアはジッと目の前にあるステーキを見つめており、こちらに見向きもしなかった。

 一体そのステーキの何が気になるのか、と俺もステーキを見てみるが、特に変なところは見当たらない。強いて言えば焼き加減がレアよりなので、きちんと火を通した方が好きな人にはキツイかもしれない。

 あまりに身動きせずひたすら見ているソフィアに、食わないのかと聞けば、ソフィアはフォークでステーキを刺しながら話し出した。


「お姉さんね、実はお肉の脂身がダメなのよ〜……。グニャッとしているでしょう? それがどうも苦手で〜。でもステーキ食べたかったから取ってきちゃったんだけど、ここの脂身どうしようかなって〜……。」


 そう言いながらステーキの脂身の部分をツンツンするソフィア。確かにブヨブヨとした部分が見えるが、別に食べられないほどではなさそうだ。

 代わりにそこだけ食おうか、と言いたいところだが、朝からステーキはキツイものがある。なんでこの人はいけるのかわからないが、俺としては朝からガッツリは少しお腹が厳しい。

 だがこのまま悩んでいるソフィアを見続けるのもアレなので、俺の胃が死にませんようにと祈りながらソフィアに取り皿を渡した。


「俺が代わりにそこだけ食うから、ここに食えない部分乗せろよ。」


 俺がそう言えばソフィアはわかりやすく顔を明るくさせ、脂身の部分をフォークで突き刺してこちらに差し出した。


「はい、あ〜ん。」


「え。」


 取り皿に置かれると思ったそれは、取り皿を無視して俺の目の前に差し出されている。まさかここで恋人がいちゃつきながらやるという、あーんというものをやる機会がくるとは思わず、自然と顔が赤くなっていくのを感じる。

 俺のイメージではもっとこう、パフェとかそういう可愛いものでやるものだったので、まさかの初あーんが肉、しかも脂身という色気のカケラもない事実に動揺も隠せなかった。


「あのな、こういうのはうぐぅっ!」


「お姉さんがあ〜んってしてるんだから素直に食べればいいのよ〜。」


 無理矢理突っ込まれた脂身を食べながら、現実と理想は相違があるものなんだということを俺は実感していた。

 肉は脂身といえど美味しく、夜だったらガッツリと食べられそうなくらい好みの味付けだった。さすがに朝からこれ以上脂っこいものは食べられないので取りには行かない。

 まだ少し赤みが引かない顔を他の人に見られないように、俺はどうでもいいことを考えながら下を向いた。

 そんなことをしているうちに、大量のケーキをお皿に乗せたリーナとシンティアが、これまた大量の焼き魚を皿に乗せたルキとともに帰ってきた。その量は見ているだけでお腹がいっぱいになりそうなくらいある。

 本当にそんなに食えるのか、と思わずリーナを見ると、リーナはフイッと顔を思い切り逸らした。


「なんだよ。」


「別に。あ〜んは楽しかったかしらと思っただけよ。」


「はあ? まぁ、初めてだったし多少は……。」


 その俺の答えに納得したのかしていないのか、リーナは何も言わずにケーキにフォークをぶっ刺した。完全に殺意がある勢いの刺し方に少しビビったのは秘密だ。

 リーナはそのままケーキが刺さったフォークをこちらに突き出しながらジト目でこちらを見つめてきた。


「あーん。」


「は?」


「あーんって言ってんの! さっさと口あけなさいよ!」


「いやなんでだよ。別に俺はされたいわけじゃないし、リーナが食いたくて持ってきたんだからリーナが食えって!」


 必死になんとか回避しようとするものの、何を意地になっているのかリーナは手をおろそうとしない。これはどうしたら、と助けを求めてルキたちを見てもニヤニヤしているだけで助けてもらえそうになさそうだ。

 別にあーんが嫌なわけではないが、やはりどこか恥ずかしい。それに俺にとっての一番の問題はフォークの先についている物体、ケーキだ。甘いものが苦手な俺にとって、ケーキは拷問と言っても過言ではなかった。

 そんなことを思っている間にもリーナは一切手を引っ込めずにあーんをしている。先ほどまで怒っているような表情だったが、今は泣きそうになっていて、さすがに少し焦った。


「おいおい、なんで泣きそうになってんだよ……。」


「私のあーんは嫌だって言うの? ソフィアからは食べたのに。」


「いや別にあーんが嫌なんじゃなくてだな。」


 そう言っている間にもどんどんリーナの瞳に涙が溜まっていく。これは俺が泣かせているのだろうか。嫌いな物を食わされそうになっている俺だって泣きたい気持ちでいっぱいだというのに。

 だがこのまま本格的に泣き出す前になんとかしないと、余計面倒なことになるのはわかりきっていた。


「リーナ落ち着け。俺はただ甘いものが嫌いなだけで、おまえからのその、あーんが嫌なわけでは……。」


「あーん。」


「いや俺の話聞いてるか? 今日おまえ一回も俺の話聞いてなんぐうっ!」


 言い訳は聞かないということか、話している途中で俺は無理矢理口にケーキを押し込められた。ソフィアといい何故話している途中で強行突破してくるのか。

 俺の彼女ができたらやってほしいことランキングでも上位だったそれは、口の中に残る苦手な甘味と無理矢理というシチュエーションにつらい思い出として塗り替えられていった。

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