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07 ゴブリン退治

 エウレカに半ば引きずられるような形で案内された場所へ辿り着くと、当たり前だが大量のゴブリンがうろうろしていた。

 どうやら周囲にあった木を切って簡易的な小屋を作り生活しているらしい。


「うわぁ、見えるだけでもジェネラルとメイジが複数いるのかよ。よし、帰ろう」

「待ってください。こんなか弱い乙女を置いていく気ですか?」

「待って。待ってエウレカ。腕が千切れるから」


 逃げようとした俺の腕をエウレカが両手で抱え込むように掴んだ。掴まれたはずの俺の腕はエウレカの胸に確かに触れていて、彼女の柔らかな胸が微かに変形しているが、何故か俺の右腕は肩から先の感触を失っていた。


「それで、どうする?」


 使い物にならなくなる前に解放された腕を擦りながら、エウレカに問う。


「うーん、そうですね」


 首を傾げて少し考えるような素振りを見せ、名案が浮かんだと言わんばかりに握った拳を手のひらの上にぽん、と置いたエウレカは、


「正面突破しましょう!」


 と、言い放ってゴブリンの集落に突撃していった。

 その、突撃する前にせめて相談して欲しかったんだが。

 突然の襲撃者に気付いた大量のゴブリンたちがエウレカの方に向かって行く。


「あは、あははははは!」


 エウレカは笑いながら周囲に群がるゴブリンを次々になぎ倒していた。メイスを横に振り払えば十数体近くが纏めて吹き飛び、振り下ろせばゴブリンがひしゃげて肉塊と化す。

 随分ストレスが溜まってたんだな。

 運動不足もあるんだろうが、やっぱり勇者と聖女の一件で鬱憤が溜まっていたのだろう。エウレカにも適度なガス抜きがする必要があるし、邪魔にならない程度に敵の数を減らしていくとしよう。

 あの様子なら、俺が手伝わなくても問題ないだろうし。


「紫電よ、穿て」


 エウレカから少し離れた場所で、詠唱文を唱える。左手に本を持ち、前に突き出した右手の指から一条の光線が放たれた。真っすぐに進む光線は軌道上にいた複数のゴブリンを貫いて消える。

 俺が使ったのは、詠唱文の大半を省略した短節詠唱。詠唱文の全てを唱えて発動する完全詠唱よりも短時間で発動することが可能で、詠唱破棄で使用した魔法よりも多少の火力が出る。何より、消費する魔力効率が詠唱破棄よりも格段にいいので、通常の魔法使いは大抵短節詠唱を使っていた。


「おっと」


 正面から飛んできた土の槍をかわす。

 どうやらゴブリンメイジに気付かれたらしい。


「ゲギャギョギャ!」


 聞くに堪えない声と共に、ゴブリンメイジの背後に五本の土で出来た槍が形成された。その槍は一斉にこちらへ向かって飛んできていた。

 左手に持っている本からアースランスのページを探し、呪文を唱える。


「アースランス」


 ゴブリンメイジと同様に、俺の背後に土の槍が浮かび、飛んできた槍を迎撃していく。


「ゲギャ!」


 自分の魔法が相殺されたことに一瞬驚いた表情を浮かべたゴブリンメイジだったが、それはすぐに苦悶の表情に変わる。ゴブリンメイジの胴体には、俺が放った土の槍が貫通していて、そのまま地面へと倒れ込んだ。

 それからは楽なものだった。

 ゴブリンの数が数なので、適当に魔法を放っても百発百中。早い段階で複数いたゴブリンメイジは倒しておいたので、あとは大量のゴブリンを相手にするだけの作業だ。途中、何匹かはゴブリンの死体を踏みつけながら俺の近くまで辿り着いていたが、禁断魔法である『魔導書コーナーブレイク』で絶命していた。

 そんな感じで一時間ほど虐殺を重ね、戦闘は終わりを告げた。

 辺りを見回してみれば、死屍累々という言葉がよく似合う状況だった。

 一面に広がるゴブリンの死体。

 よし、魔石の回収は諦めよう。うん、数えるのを憚られるくらい死体だらけだし、全部の魔石を回収するのにどれだけ時間がかかるか分からない。

 ゴブリンメイジの魔石と耳だけ回収してしまおう。

 上位種でも素材になるのは魔石だけだが、お小遣い程度にはなるだろう。

 持っていたナイフでゴブリンメイジの胴体を捌き、心臓の近くにある魔石を取り出して麻袋の中に放り込んでおく。ホブゴブリン以上の上位種は耳が討伐証明部位になるわけだが、俺には全て同じように見えたのだが、俺が知らないだけで上位種の耳には何か特徴があるのか?


「わからんな」


 試しに近くのゴブリンから耳を切り取って比べてみたが、俺には違いがさっぱりだった。

 他のゴブリンメイジからも耳と魔石を剥ぎ取って、エウレカが突進していった方向を目指して進んでいく。

 やがて、エウレカの戦闘跡が見える場所まで辿り着くが、そこには俺が倒したゴブリンの死体の海よりも遥かに酷い光景が待ち受けていた。


「これは……酷いな」


 血と臓物の臭いが混じりあった異臭が辺りに漂い、思わず顔を顰める。この場に獣人が居たら発狂するのは間違いないだろう。

 一言で言うなら肉の海、だろうか。

 地面には原型を留めていないゴブリンの死体が大量に転がっていて、ゴブリンの肉片や臓物が周辺に飛び散っていた。

 出来ればゴブリンジェネラルの魔石も回収しておきたかったが、この状況ではどれがジェネラルなのか判別すらつかなかった。


「あ、ジャクリさんの方も終わったんですね」


 この惨状を引き起こした張本人が戻ってきた。


「エウレカ。もう少し綺麗に倒せなかったのか?」

「あは、ちょっと久しぶりに興奮しちゃって……。途中でゴブリンロードを見つけたんですが、私がロードの方に向かうのを邪魔してきたので、無理やり押し通ったらこんなことに」

「そうか。ロードの死体はあるのか?」


 この集落の長はロードだったのか。

 集落の規模的にキングがいるかと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。


「あるにはあるんですけど……」


 言い淀むエウレカにロードの死体がある場所まで案内してもらうと、その理由が分かった。


「本当にロード、だったのか?」


 目の前にあるのは、エウレカ曰くゴブリンロードだったモノ。身体は縦に三分割したかのように地面に投げ出されおり、左右の肩から外の部分はまだ原型を留めていたが、中央部分は頭部から股下にかけてメイスを振り下ろされたのか、肉塊と化して地面にこびりついていた。


「ええ、おそらく、多分、きっと、ロードだったかと」


 幸い、残っていた左側の部分に魔石があったので、これをギルドに提出しておけばいいだろう。

 後は問題の後片付けだが……。


「エウレカ。これは帰ってギルドに手伝って貰った方がよくないか?」


 流石に数が多すぎて、俺たちだけでは手に負えなかった。


「そう、ですね。私たち二人だと死体を纏めるだけでも日が暮れてしまいそうですし」

「今から寝ずに戻れば明日の朝方には街に戻れるだろう。アンデッド化する可能性はあるが、一日程度であれば問題はない、よな?」

「多分、大丈夫だと思います。帰る前に浄化の魔法を使って淀みや瘴気を祓っておくので、数日間は大丈夫だと思います」

「そうか。ありがとうな。じゃあ、街へ戻るか」


 ぽんぽん、とエウレカの頭を軽く叩いてから森を出た。

 夜更けに交代で仮眠を取りながら休憩を挟み、翌日の昼前にはゲーウェルの港町へと戻ってくることが出来た。

 門番に冒険者カードを見せてから街の中へ入ると、近くの食堂で腹ごしらえをしてから冒険者ギルドへと向かう。既に時刻は正午を過ぎていて、ちらほらと依頼の完了報告に来ている冒険者の姿が見える。

 空いているカウンターに並ぶと、すぐに俺たちの順番が来た。


「いらっしゃいませ~。本日は何の御用でしょうか~?」


 カウンターにいたのはおっとりとした雰囲気のお姉さんで、冒険者登録をした時とはまた別の受付嬢だった。


「依頼の完了報告だ」

「ではお二人のギルドカードをお見せください~。えーっと、ゴブリンの討伐ですね~。討伐証明部位の提出をお願いします~」


 言われた通りにギルドカードを提出し、荷物の中からたんまりと魔石が入った麻袋をカウンターの上に置いた。


「え。え? えーっと、え?」

「ゴブリンの魔石が入っている。確認してくれ」

「は、はい。すみません~。随分と数が多いので、少しお待ちいただけますか~?」

「問題ない。なるべく早くしてくれると助かる」


 麻袋の中身を確認した受付嬢は、袋を抱えて奥へと行ってしまった。

 二人で待っていると、先程の受付嬢が戻ってくる。


「すみません、お待たせ致しました~。ゴブリンの魔石ですが、全部で七十二個ありましたので、報酬は銀貨二十四枚になります~」


 渡された報酬に間違いがないことを確認してから、鞄の中にしまい込む。


「初めての依頼でこれだけのゴブリンを狩ってくるなんて、お二人ともお強いんですねぇ~。この調子ならすぐにDランクに上がれると思いますよ~。昇級目指して、何か依頼をお受けになりますか~?」

「アイリス! 副ギルドマスターがそこの二人を呼んできてって言ってたでしょ!」

「あ~。そういえばそうでしたね~」


 このおっとりしたお姉さんの名前はアイリスというらしい。ギルドの奥から出てきた受付嬢が怒った様子で叫んでいるというのに、自分のペースを崩さずのんびりと喋っている。


「すみません~。上司がお話を聞きたいというので、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか~」


 どうせゴブリンの集落の件に関して説明をしないといけないのだ。それなら上の人間に話をした方が面倒なことはないだろう。

 

「ああ、エウレカもいいか?」


 こくり、と小さく頷いたエウレカと一緒に、案内された部屋の中へと入った。


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