表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

06 初めての依頼

 翌日。

 混雑する朝の時間を外してギルドに向かう。

 前日にオークが破壊した床は補修したようで、何事もなかったかのように穴は塞がっている。

 昨日、俺たちの相手をした受付嬢の姿を見つけたので、約束通りにパーティの申請をすると、特に冒険者から絡まれることもなく受領された。


「本日は依頼をお受けになりますか?」


 と、笑顔の受付嬢から謎の圧力を掛けられたので、Eランククエストのゴブリン退治を受注して、ゲーウェルの街から歩いて半日程の距離にある、ゴブリンがよく出没するという森に訪れていた。

 エウレカはわざと音立てながら森の中を歩き、ゴブリンを見つけると次々に握ったメイスを頭部に振り下ろし粉砕していく。

 エウレカが持っているメイスは全ミスリル製で、先端の球形部分には放射状にスパイク取り付けられた殺傷力が高い代物だ。ミスリル製である以上、重量はかなりあるはずだが、エウレカは片手でブンブンとメイスを振り回している。

 楽しそうに笑顔を浮かべてゴブリンを屠るエウレカの姿を眺めつつ、俺はゴブリンの死体から討伐証明部位である魔石を剥ぎ取っていた。

 ゴブリン三体につき、報酬は銀貨一枚。討伐証明となる魔石三つ毎に、依頼の達成判定があるらしい。

 ゴブリン三体で銀貨一枚という報酬は安い。ただでさえ素材にならないのだ。これがウルフであれば多少毛皮や牙が報酬の足しになるだろうが、ゴブリンは魔石しか売れる部位がない。その魔石の買取金額もはした金にしかならないのだ。

 力のある冒険者は報酬のいい依頼を受けるだろう。だからと言って弱い冒険者に回すと、一対一なら何の問題もないだろうが、ゴブリンに囲まれると命を落とすか、それよりも酷い目に合うことになる。

 結果として、ゴブリンの討伐を受ける冒険者は少なく、大量のゴブリンが森で大量に繁殖していた。


「エウレカ! 一旦ゴブリンの死体を処理するから止まってくれ」

「はい! 私が浄化しましょうか?」

「いや、大丈夫だ。ここは俺に任せてくれ」


 血塗れになったメイスを胸の前に抱えながら、とことことこちらへ歩いてくるエウレカ。

 ゴブリンの処理まで任せるのは気が引けたので、エウレカの申し出は断った。

 近くにあった木々のない広場に移動し、ホルスターから本を取り出して、ページを捲っていく。ここが平原なら一か所に纏めて燃やすのだが、森の中で炎を使うと大変なことになる可能性があった。

 いや、逆に森を焼いてゴブリンを一掃した方がいいんじゃないか?


「ジャクリさん、悪いこと考えていませんか?」

「そ、そんなことないぞ」


 エウレカから釘をさされたので、この方法は却下だ。となると、やっぱり穴を掘って埋めるのが一番簡単だな。

 蒐集している土魔法の中に確か地形を弄るものがあったはずだ。ぱらぱらとページを捲って、目当ての本を探す。


「お、あったあった。グランドコントロール」


 探していた呪文を唱え、手に持っていた古びた本の表紙が切り替わったのを確認してから地面に触れる。

 ある程度の広さを取って、深さは……俺二人分くらいでいいか。

 頭の中で想像した通りに地面を操作し、眼前には巨大な穴が出来上がった。


「ふぅ」


 一息ついてから、額に滲んだ汗を拭う。

 適性がない土魔法と詠唱破棄が重なって魔力をごっそりと持っていかれた。体調に支障が出るほどではないが、穴の範囲をもう少し狭くするべきだったか。

 つい、癖で雑に魔法を使ってしまう。


「魔石は回収してるから、死体を集めて穴に落としてくれ」

「わかりました」


 死体の数が数なので、エウレカと二人で手分けして死体を処理していく。

 エウレカは死体を運んでは穴に投げ入れ、俺は一か所に死体を集めてからまとめて投げ入れていた。


「そぉーれっ!」


 数十分近くかけて目に付いた分の死体を穴の中に投げ込んだ後、俺は近くにあった倒木に座って息を整えていた。

 身体が貧弱な魔法使いにとって、森の中を行ったり来たりしながら死体を回収するだけでも重労働だった。普段なら魔法を使う所だが、死体を投げ込んだあと埋めるためもう一度グランドコントロールを使わないといけないので、魔力を温存した結果がこれだ。

 体力バカ――常軌を逸した体力のエウレカは死体を集めに出てから戻って来ていない。


「それにしても、随分とゴブリンの数が多いな」


 穴一杯に詰め込まれたゴブリンの死体。その全てに頭部がなく、惨憺たる光景が出来上がっていた。

 森の中に足を踏み入れてからそんなに時間が経っていないのに、だ。

 これだけゴブリンを屠っても、死体を回収する俺たちにゴブリンは襲い掛かってきていた。群れの数が少なくなり、自らが劣勢だとわかれば即座に逃げる程度の知能は持っているはずだが、それがないということはそれなりの規模の集落があるのかもしれない。

 その推論を裏付けするかのように、エウレカが通常のゴブリンよりも大きな個体を引き摺りながら帰ってきた。もちろん頭部がない状態で、である。


「エウレカ、どうしたんだ、それ」

「これですか? 森の中で襲われたので殴り殺して連れてきました!」


 エウレカは頬に返り血を付けたまま、胸を張って笑顔を浮かべていた。

 穴に投げ込まれた死体の七割はエウレカが投げ入れたのに、エウレカは元気が有り余っているらしい。

 俺は体力が無くなって休憩していたのに。


「多分、ホブゴブリンですよね?」

「確かにホブゴブリンだな。受付嬢は何も言ってなかったが」


 とりあえず、魔石は回収しておこう。確か、ホブゴブリンの討伐証明部位は耳だったはずだが、この死体には耳どころか頭部がない。


「エウレカ。ホブゴブリンと出会った場所の近くに、集落はなかったか?」

「近くにはありませんでしたね」

「だったら少なくとも中規模、下手すると大規模集落が出来ている可能性があるな」


 近くに集落があれば、エウレカの倒したホブゴブリンが長という可能性もあった。

 だが、このホブゴブリンはおそらく斥候だろう。となれば、ホブゴブリンを従えた上位種がいるのは確実だ。

 回収した魔石をギルドに提出して報告した方がいいか。ゴブリンの魔石よりも多少大きいし、討伐証明部位がなくても多分大丈夫だろう。


「エウレ、カ……?」


 報告のために一度ゲーウェルに戻るか。と、声をかけようとした俺の視界にメイスを握って素振りをするエウレカの姿が映って、思わず頭を抱えてしまった。


「あの、エウレカ? 一体何をしているんだ?」

「何って……素振りですけど?」


 ぶんっ! ぶんっ! と、ミスリル製のメイスが空を切る音が響く。


「集落があるならギルドに報告をしないといけないだろ?」


 ぶんっ!

 ぶんっ!


「元々の依頼は達成したわけだし」


 ぶんっ!

 ぶんっ!


「一旦帰るべきだと思うんだが、どうだ?」


 ぶんっ!

 ぶんっ!

 エウレカは無言でメイスを振り続けている。

 あー、もう!


「この森の何処に集落があるかもわからないだろ。闇雲に探して夜になったら面倒だし、ここは一旦帰らないか?」


 俺の言葉を聞いたエウレカは素振りをやめ、待ってましたと言わんばかりに口角を釣り上げた。


「それなら大丈夫です。ちゃんと集落の場所は見つけてきましたから」


 渾身のドヤ顔を見せるエウレカ。

 は? 一体何を言ってるんだ?


「さっきは集落なんて無かったって言ったよな?」

「近くにないとは言いましたが、住処を見つけていないとは一言も言ってませんよ?」


 やられた。

 確かに、言われてみればそうだ。

 エウレカの奴、最初からゴブリンの集落を見つけていやがったのか。帰ってくるのが遅いはずだ。


「はぁ……。本当に行くのか?」


 ゴブリンの集落殲滅なんて面倒なことは遠慮願いたい。

 

「最近は運動不足気味でしたので、この先も冒険者として活動していくなら、身体を鈍らせないようにしないといけないですし」


 運動不足の原因が主に俺にあるせいで、これ以上エウレカに強く言えなくなる。


「こっちですよ、こっち!」


 はいはい。

 わかった。わかったからそんな力一杯腕を引っ張らないでくれ! 

もし少しでも作品が『面白かった』『続きが気になる』と思われましたら、


ブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】をタップもしくはクリックして応援頂けると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ