第5話:ダイブ!
「2つ…確認したいことがある。まず、あんな化け物が居る世界で俺が生き残れる自信はない。また死ぬ可能性の方が高いし、逃げ出す可能性すらある。次に、あなたは既にその本を一冊所持してる…まだ必要なのか?」
俺の質問した事は、特におかしなところがないとは思う。
そもそも、魔法使いが、あんな戦闘を俺に見せた理由も分からない。あんなものを見せる必要は最初からなかったはずだ。
俺が魔法使いだったら、何も言わずにさっさとあの異世界に投げ入れておしまいだ。
その方が、俺にわざわざ考えさせる事もなく、楽だからな。
「うーん、あの世界で生き抜くことに関しては、特に心配する必要はない。私に任せておけば良い」
と、魔法使いはさもなんでもないように宣った。
その表情は、特に笑っているという訳でもなく、無表情で、ただ淡々と説明しているだけのようだった。
「まさか…魔法使い様から直々に魔法でも教えてくれるのか?」
「あぁ…私は君に、回復魔法の真髄を見せてあげよう、と思っているからね」
答えのようで答えではないが…
察するに、俺に回復魔法でも教えようと言うことか?
なんでそんな微妙な魔法を…
「悪いね。こちらにも事情があるんだ。…それと、乖離聖典に関しては…君には分からないことだからね。諦めたまえ」
そのように、魔法使いは話を一方的に打ち切ってしまった。
「まあ….話は分かった」
「おっ、そうかい!」
と、魔法使いは楽しげに言った。
だが、こっちだってそれ相応の…心の準備のようなものが必要だ。
なので、少し考えようと思ったのだが、魔法使いはてんで人の話を聞かずに勝手に進めている。
「じゃあ、宜しく頼むとしよう…時堂零一くん?」
「…え?なんで俺のー」
「俺の名前を知っている?」と聞こうとしたが、その疑問が魔法使いに届く事はなかった。
気がつけば奴は目の前におらず。
そして俺は、何故か空中にいた。
目には青い空が写っている。清々しい程の快晴だった。
そして、そのまま、重力に引かれるがまま、数秒後には水の上に叩きつけられていた。