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回復魔法は禁忌指定です  作者: 鳴座
第1章 回復魔法は如何ですか?
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第4話:簡単なお仕事です

「とある世界に行って…その本を取ってきて欲しい…と」


「そう。簡単なお仕事だろう?」


 魔法使いの笑い方は、どことなく胡散臭く、信じるに信じきれない。

 さらにこの話に関しては、慎重にならざるを得ない。

 というか前提として、前提としてである…


「うん。君を向こうの世界…つまり、君が元居た世界に返すのは、お仕事が終わってからだね」


「つまり、ここは俺の元いた世界ではない、とでも?」


「ふふん。ファンタジー小説の王道だろう?元の世界に帰るために努力する…楽しいねぇ」


 なんて喜色を浮かべる魔法使いに対して、俺は苦笑することしかできない。


「ここが、俺が元居た世界ではない、という証拠は?」


「ふふん。まあ、そう来るよねぇ。よろしい、その証拠も見せてあげよう」


 魔法使いは不敵に笑いながら、両手を二度叩いた。

 瞬き一つ。

 その間に、俺はどこか見知らぬ土地に立っていた。

 見渡す限りの土色。砂利が広がる荒野の地。


「なっ…はぁ?これも、魔法…なのか?」


「ふふん。そう良いリアクションをしてくれると、こちらも嬉しいねぇ」


 確かに、左腕が切られた時の次くらいには驚いた。

 こんなにも驚く事が続くなんて…人生死んでからが本番ってか?笑えないな…


「証拠はこちらだ、付いてきたまえ」


 魔法使いは、勝手知ったる場所であるかのように歩き出した。

 とにかく、今はこいつについて行くしかないだろう。

 俺も魔法使いの後を追う。


 後ろを振り返ってみたが、さっきまで居た小屋が、テレビ番組のセットよろしく転がっていたりはしなかった。

 後ろを見ても前を見ても、右を見ても左を見ても、荒野が広がるばかり。

 こんなところに証拠なんてあるのだろうか?


 しかし、5分ほど歩いたところで、その疑問の答えは出ることになった。


「そろそろだ…君、何か音が聞こえてこないかい?」


「音…?」


 言われて、意識を耳に集中してみる。

 すると、確かに金属同士がぶつかり合うような音が、さらには何かが爆ぜるような音が聞こえてきた。


 こんな荒野で、こんな激しい音。

 さらには、魔法使いの存在。

 中学の頃に読んだファンタジー小説のあるシーンが、嫌でも思い出される。


「まさか…」


「そう、先ほどから私たちが居た世界は、こんな世界なんだよ。これなら、少なくとも『君が元居た世界ではない』という証拠になるのではないかな?」


 途中から、魔法使いの声は耳に入ってはいなかった。

 目の前で繰り広げられるその光景に、俺は見入ってしまっていた。




「ーーーーー!!!」


 大柄な男が何かを叫んでいる。

 その直後、砂煙があたり一帯に巻き起こった。

 その原因は、ちょうど今、大柄な男の仲間であろう女を吹き飛ばした、巨大な腕である。

 巨大な腕。つまり、本体も巨大。

 即ち、彼らが相対している存在は巨人。

 全長15メートルほどの巨人である。


「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 巨人が吠える。

 それだけで、周囲に風が吹き荒れる。

 その隙に、先程吹き飛ばされた女が仲間に回収されていく。

 その女を入れても数は10人ほどしかいない。


 巨人の目が、リーダー格であろう大柄な男を捉えた。しかし同時に、巨人の目の前に火柱が立ち上がり、その視界を塞いでいく。

 大柄な男が剣を構え、巨人の足に向かって駆ける。


 俺は呆然とその光景を眺めていた。

 あまりに非現実的な光景を前にして、理解が追いつかない。


「おい、魔法使い…これは一体…」


 横に立っていた魔法使いは、やはり爛々と瞳を輝かせながら一連の光景を眺めている。

 今も眼前では、決死の戦いが繰り広げられている。

 不意に、魔法使いが俺の方に向き直った。


「どうだい?ここが、この世界が、これからの君の職場になる訳だけれど」


「……冗談だろ?」


 本当に、冗談じゃない。

 未だに思考が追いつかないのに、新しい情報をこうもポンポンと出してこないで欲しい。


「ふふん。この世界はね、君が元居た世界よりも少しタフなんだよ。しかもあの子達が戦争しているし、あんなデカイ仔も居るし。全く、なんだってこんなところで探し物なんて…」


 などとぶつぶつ言っている魔法使いは、また徐に手を二度叩いた。


 気づいた時には、俺は再びベットの上に腰掛けていた。

 あの土埃の匂いが、まだ鼻にこびりついている。

 魔法使いは壁に背を預けて不敵に笑っている。

 その笑い方は、馬鹿にされているようで、試されているようで、ひどく気に入らない。


「あの世界は、君が元居た世界と地続きになっている世界だ。君から見たら異世界、とでも言うのかな?」


「…つまり、あの巨人みたいなのがうろつく世界で、あなたが亡くした本を探して欲しい、と?…マジかよ」


「マジだよ。大マジだ。確かにあの世界では、あの巨人ような怪物や、魔法の原理が息づいているが、本を探すだけならそこまで手間でもない」


 魔法使いの瞳はどこまでも澄んでいた。しかし、腹の内を見透かす事はできそうもない。

 こちらの腹の内は見透かされていると言うのに、なんて理不尽な…


「まあ、君に拒否権はないけどね。」


 魔法使いの言う通りだ。

 俺は元の世界で死にかけたところを、この魔法使いに助けられた恩がある。その上、元の世界に帰る手段はこいつしかないときた。

 しかし、未だに解せない点が一つ。


「なんで俺なんだ?あなたが無理なら、向こうの世界の強いヤツにでも頼めば良かったんじゃないのか?」


 例えば、さっきの大柄な男とか。

 強そうだったし。


「君みたいは子だから良いんだよ。それに君は、既に答えを言っているようなものだ」


 ニヤリと、魔法使いの美しい貌が歪む。

 歪な笑みは、それでも元の魔法使いの美しさを損なう事はない。

 そんな貌を、俺は真顔でじっと見つめるが、言い返す事はできそうにない。


「君は聞かなかったね。()()()()()()()()()()と。確認しなかったね?」


 あぁ…心の底を見抜かれているとはこんなにも気分が悪いものなのか。

 心底、呆れる。誰にかは分からないが。


 きっと俺は、見ていられないような顔をしている事だろう。


「……俺を、狙っていたのか?」


「まさか。たまたま君が私の近くで死にかけた。そして、君に素質を感じた。それだけさ」


「素質?なんの?」


「決まっているだろう?」


 魔法使いは薄い笑みを浮かべながら、言った。


「私を手伝ってくれそうな、さ。本当に、それだけだよ」


 やはり、こいつの言葉はどこか胡散臭かった。



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