第2話:魔法の証拠
自称魔法使いの服装は、ジーパンにTシャツだった。
まさか、魔法使いの服装がこんなラフなものだとは…
「ふむ…確かにこの服装だと威厳も何もあったものではないね」
自称魔法使いは少し考えこむような仕草を取ると、マントをバッと翻した。
と、同時に服装が変化していた…ことは無かった。
そのまま、現代日本のラフな服装だった。なんでだよ…
「いやー、この服装は中々楽でね。着替えるのが惜しいんだよ。別に、このままでも構わないだろう?」
「はあ…まあ、別にいいんですけど…」
別にいいんだが、その前にこの状況はどういうことなのだろうか?
痛まない体の傷。明らかに病院ではないこの部屋。
そして、自称魔法使いのこの人物。男かも女かも判別つかない、不思議な雰囲気を漂わせている。
この状況、明らかに異常だ…
「すまないね。この状況には色々と混乱していると思うけれど、今からきちんと説明はしよう。ちなみに私は男でも女でもない。魔法使いは特別なんでね。」
「…」
ふむ、これは確定だな。
こいつ、俺の心を読んでいる。そうだろう?
「ふふん?」
明確な答えは返してこなかったが、その代わりにウインクを返してきた。
何だこの気障な奴は?ちょっと、いや、かなり貌が美形な分、腹立つな…
などと考えながら俺が自称魔法使いをじっとりと睨んでいると、わざとらしい咳払いを一つ。
「そんなことより、聞きたいことが有るだろう?」
「あぁ…」
俺はベットに腰掛け、この自称魔法使いとやらの話を聞くことにした。
「それと、私は自称ではなく本当に魔法使いなんだが…」
*
「そうだね…君は、車に轢かれてあと少しで完全に死ぬところだった…」
ふむ。そこまでは記憶にある。
俺は確かに、車に轢かれて死ぬところだった、というよりほとんど完全に死んでいたのではないだろうか?
「しかし、そんなときにこの私、〈銀の魔法使い〉が通りかかっ…君を助けるために現れたというわけさ!」
なんて恩着せがましい奴なんだ…
しかし、この話は本当なのだろうか?
パッと見たところ、この部屋には治療器具のような物の一切は見当たらない。
そして、この自称〈時の魔法使い〉は医者ではないと自ら言っていた。
つまりは…
「そう。私の魔法で、君の体を元に戻した」
「…魔法で、ねえ」
そんなこと、いきなり言われて信じられるはずもない。
それなら、病院で寝ていた俺を何らかの理由で誘拐した、という方が納得がいくというものだ。
「君なんか誘拐したところで、何のメリットもないと思うけれど?」
「…ぬう、悔しいが、一理ある」
なんで唐突に俺は傷つけられなければならないんだ…
閉じた傷口がまた開いちゃうだろ。
「いきなり言われても信じられないだろうし…良いだろう、魔法を見せてあげるとしよう」
まあ、そうなるよな。
この、いかにも異常な状況をのみ込むためには、実際に魔法というものを見せてもらわなければならない。
しかし、こんな状況で見せられても、到底信じられるものではないことも、また事実。
「ふむ、君の言う事にも一理あるね…よし、ではこういうのはどうだろう?」
そう言うと、自称魔法使いは、俺の左腕を自身の左手で掴んだ。
同時に、こいつに握られた部分が淡く緑色に輝いていく。
「なっ…!何してんだ…!?」
「ふふん。驚くのはこれからだ」
緑の光が収まると、自称魔法使いは握っていた手を放し、そのまま俺の左腕をピンと指で弾いた。
すると、俺の肘から先がずるりと落ち…
「ぁあぁああ!?!?!?」
「ふふん。驚いたかな?」
「言っ…てる…場合かっ!」
何が!何が起きたんだ!?
一度も目を離していなかったのに、なんでいきなり!?
こいつ、一体何を!?
「痛いかい?」
「そんなの痛いに決まって…!」
…痛くない?
俺の左腕は、鋭い刃物で両断されたかのように綺麗な断面を見せていた。
しかし、全く痛みを感じることは無い。
まじまじと見ていると、人の腕の中身ってこうなっていたのか…なんて感想が浮かんでくる。
いや、今考えるべきはそんなことではない!
「痛くないだろう?人間の体に存在する様々な時間軸を別々に弄ったからね。慣れれば君にもできるようになるさ」
「そんなことより!早く俺の左腕を元に戻してくれ!」
「ふふん。戸惑う表情。焦る表情。愉快愉快」
「だから!言ってる場合かって!」
こうして、俺は初めて魔法というものを目にすることになった。
まさか、初めて見る魔法が人体切断マジックじみたものになるとはな…