プロローグ 『幼女成分不足病~現れた三人の幼女~』
「いや~これは重病だねぇ」
病院の診療室にて。
俺執印 玖呂高校二年生は重々しい口調で目の前の医者にそう告げられた。
嘘だ……そんな、俺が……。
「このままだと――」
「最悪死に至るケースも視野に入れなくてはならない」
「じゃあ俺は――!」
「慌てるでない。このままだと死に至るだけであって、治療法もあるにはあるが……」
俺が今かかっている病気、その名も『幼女成分不足病』。
二次元幼女という画面越しでの存在に段々と物足りなさを覚えることにより引き起こされる精神的苦痛から引き起こされる心臓の病気の一種。
主に十代以上の男性によくみられる病気だが、ここまで深刻なのは俺が初めてみたいで、目の前の医者も焦っているのが見て分かる。
「どんな治療法ですか!俺、死にたくないです!」
必死に医者に問い詰める。
このまま死ぬのは嫌だ。
こんな病気で死ぬのは嫌だ。
「リアル幼女と同居……」
「……はい?」
目の前の医者が何を言っているのか理解できなかった俺は再度聞き返す。
「リアル幼女と同居して不足した幼女成分を補給し続けるしか現時点では治療法はない」
「ですがそんな子は――!」
「いないことはない」
「え……」
そんな子いるの……?
「玖呂君が重病者一人目ということで被検体になってもらう。そのために用意しておいた子たちがいる」
「……え。その子と同居を?」
「厳密にはその子たちだが。おーい、こっち来てくれたまえ」
医者は後ろを振り向いてドアの向こうに声をかけた。
すると、お揃いの小学校の制服を着た三人のかわいらしい幼女が医者の後ろに並んだ。
「この子たちは名門○○大学初等部の生徒さんだ」
医者の説明ののち、その中の一人がまず黒髪ポニーテールを躍らせながら俺の目の前に現れる。
「はいはーい!私の名前は朝倉 ちなつ小学五年生でーす!玖呂君よろしくお願いしまーす!」
アイドルさながら元気よく挨拶をして最後に勢いよくお辞儀をしてくれた朝倉さんは、顔を上げると満面の笑みを俺に向けてくる。
……あ、あかんこれ。
何これ、可愛すぎんか?
「……あ、よろしくお願いします」
あまりの可愛さに見惚れていた俺は遅ればせながらそう返した。
クルっと朝倉さんは後ろを向き、そのまま他の二人が並んでいる位置に戻った。
左右に揺れるポニーテールに見惚れていると、今度は緊張しているのか人見知りなのか分からないが、委縮している様子で俯きながらゆっくりとこちら側に歩いてくる小さな女の子。
「……あ、あえ……う……忽那 千尋ちーちゃんと同い年です……。よろ……しくおねがいします」
前髪はぱっつんで真っ白な髪の毛は全体的に短い忽那さんは、途切れ途切れながらもしっかり挨拶をして、ぺこりとお辞儀をしたらそそくさと戻ってしまった。
「よろしくね忽那さん」
そう俺が言った時には忽那さんは朝倉さんの後ろに隠れ、俺の様子を窺っていた。
人見知りの猫みたいでこちらもまた可愛い。
最後の一人はもうすでに目の前にいて……って近っ!
俺は座っているので少し見上げる形で彼女の顔を見るが、その距離なんと十センチほど。
俺がどぎまぎしているのはつゆ知らず、赤髪ツインテールを携えた彼女は品定めするように険しい顔で俺を見つめる。
そして数秒ののち、彼女は胸に手を当てて自己紹介をする。
「名前は神崎 紅奈と言うわ。歳は二人と一緒。せいぜい治るといいわね。あと、私は選ばれただけであって決して自ら推薦してここに来たわけではないから。そこんところ勘違いしないで頂戴」
別にしてないんだけどなぁ……。
すると、
「あれー?紅奈ちゃん真っ先に手上げてなかったっけ?」
「ちょっ!ちな――!」
まさかのカミングアウトに、神崎さんは真っ赤な顔で俺を見る。
「ちっ……違うんだからはなね!ちなの言葉を鵜呑みにすると痛い目見るわよ!」
神崎さんの様子を見るに朝倉さんの言葉は本当みたいだ。
つまり神崎さんは典型的なツンデレちゃんと言ったところか。
これもまた不足した幼女成分を補給していくために欠かせない要素。
かわいい。最高すぎる。
「ふんっ!」と鼻を鳴らし元の位置に神崎さんが戻ると、早速朝倉さんとさっきのことについて言い合いをし始めた。
医者はそんな後ろで言い合いをしている二人を気にせず、「というわけなんだが――」と話を続ける。
「玖呂君にはこれからこの子たちと同居して不足された幼女成分を補ってもらう。被検体一号ということで同居するマンションや食費などの生活費はすべて上が保障してくれるから安心してくれ」
「でも親には……」
「こちらからうまく言っておこう。気にせず生活してくれ。期間は様子を見て最低一年くらいはこの子たちと生活してもらう」
「分かりました」
そんな感じで俺は、三人の幼女と同居することになった。