第二章-3
学校を一日サボって旅行に行く、というのはなかなかエキサイティングな経験である。特にいい子で通って来たまなにとって、サボるという行為には罪悪感がつきまとう。
両親は自殺後から非常に甘い。もうちょっと厳しくてもいいのに、とまな自身が思うことがある。そんな両親でもさすがに月曜日サボるということには首を縦に振らなかった。
「そんなお友達、大丈夫なの?」
ごもっともな意見である。なので仕方なくある程度本当のことを話した。
友達が社会人で休みを合わせづらいこと、今の自分が元気でいられるのはその友達のおかげだということに加え、学校の成績も絶対落とさないという約束までした。
可愛い娘の願いに最初に折れたのはお父さんである。
「まぁ、一日ぐらいだし、まなも勉強頑張ると言っているし、いいんじゃないかな」
生前のまなの学校成績はそこまで良くはない。科目にもよるが、平均して中の下ぐらいだ。しかしゾンビになってからやたらと記憶しやすくなった気がする。勉強の理解もはかどっていた。
瑠花に言わせると、霊体に直接記憶していくから記憶へのリミッターが少ないのだとか。良く分からない理論だが脳に記憶するより早いのだそうだ。
だから勉強には以前より自信があった。もうすぐ行われる実力テストも今まで以上に良い成績が取れる自信みたいなのもあった。
お父さんが折れたのを受け、お母さんも渋々承知した。ただし条件付きだ。
「その代わり、その一緒に行くお友達をお父さんとお母さんに紹介なさい」
「えーと、看護師さんだよ。ほら、私がお世話になった……」
そうは言っても二人の中にICUの看護師さんの記憶まではないようだった。まぁ、状況が状況だけに無理もないが。
結局、瑠花を両親に紹介すること、それが交換条件となった。
『おー、いよいよそちらのご両親にご挨拶かぁ』
電話向こうの瑠花は冗談混じりにそう言った。
「ご挨拶って……ただの友達紹介ですからねっ」
受話器向こうで呑気に笑う瑠花がちょっと憎らしい。いつか本当のことを言わなきゃいけないのかなって思っているだけに、瑠花と両親を引き合わせるのはかなりの緊張感を伴う。
「瑠花さんなら大丈夫だと思いますけど、あまり派手な格好して来ないでくださいね」
仕事中の瑠花は控え目だが、私服に戻るとギャルに戻る。比較的派手な格好が多い。
『分かってるって。ちゃーんとお菓子も持って行くよー。土曜日、深夜勤で夜から仕事だから、土曜日の午前中に伺うねー』
「分かりました。そう伝えておきます」
恋人を両親に紹介するのもこれぐらい緊張するのかな、とちょっと思ってみたりする。瑠花を自分の恋人として紹介出来たらどんなに嬉しいだろう。しかしきっとそういう日は来ない。自分はあくまで彼女のアンデッドであり従者なのだから。いわば愛玩ペットのようなものだ。だからと言って私のご主人様です、なんて紹介したらどういう嗜好しているのか疑われてしまうだろう。
(まぁ、その時に考えたらいいよね……)
とりあえず先のことを考えるのはやめておくことにした。
土曜日の午前十時、瑠花がまなのご両親に挨拶しにやってきた。宣言通り菓子折りを下げて、しかもギャルファッション、ギャルメイクを封印し、コンサバなお嬢様スタイルでやって来たのである。
「誰かと思った……」
あまりにも雰囲気が変わりすぎて、玄関まで出迎えに出たまなも驚きを隠せなかった。
「あたしだってこれぐらいの格好はできるわよー」
そうは言われてもこんな落ち着いた瑠花をみたことがないので仕方がない。
リビングに瑠花を通す。両親とお兄ちゃん、月丘家勢揃いだ。
「どうもこんにちは。この度はお招きいただきありがとうございます」
お父さんの方は見ても覚えていなかったが、お母さんとお兄ちゃんの方はおぼろげに覚えていた。
「あぁ、確かにICUにおられましたね。お名前はごめんなさい、失念しましたけど」
「七瀬瑠花と申します。まなちゃんとは普段から仲良くさせていただいおります」
面談は型通りなもので、その節はお世話になったこと、仲良くしてもらってまなも元気になってきて感謝していることなどなど。
やはり生死に関わった出来事の後だから、一方的に感謝していることを告げることしかできないわけで、元より瑠花に有利な面談となった。
「まなちゃんもかなり元気になって来ていますけど、やっぱり少し思い出すこともありますし、少し気分転換に一緒に旅行に行こうかなと思っておりまして……本来なら休みの日だけで行くのがいいのですけれど、わたしの休みがなかなか取りづらい状況でしたので、苦肉の策で日、月と行かせてもらおうかなと。まなちゃんには無理をしないようにとは言ったのですけど、どうしても一緒に行きたいと言うので……」
旅行に連れ出す文言も恐らくリハーサル済み。すらすらと有る事無い事を並べて両親を説得していく。そして気がついたらお母さんの方から「まなも少し気分転換してらっしゃい」などと言い出す始末だった。
頼むから霊感商法とかに引っかからないでね、お母さん。
結局面談はお昼ご飯を一緒にするまで進み、近くのレストランでご馳走することとなった。
両親とも瑠花の人当たりの良さを気に入ったらしく、いつでも遊びに来てくださいなんてことまで言っていた。がさつなお兄ちゃんですら瑠花には人一倍の気遣いを見せていた。いや、もっと正確に言えば鼻の下を伸ばしていたというべきか。少しは妹にもその気遣いをくれればいいのに。
まるで本当に恋人を紹介するような乗りで進んだ面談は午後二時頃に解散となった。
「私、瑠花さん送ってくるねー」
まなはそう言って瑠花と二人になった。
「ごめんね、瑠花さん。夜お仕事なのにお昼まで付き合ってもらっちゃって」
「んーん。深夜勤に向けて寝るのはだいたい二時ぐらいからだから、ちょうどいいぐらいよ」
まなは瑠花の腕に自分の腕を絡めた。瑠花も気にする事なく、まるで恋人のように寄り添いながら歩いていく。
「まなちゃんとこの家族はみんな良い人で良かったわ」
「あはは。私、友達とかいなかったから……多分張り切ったんだと思うけど」
「まなちゃんのことが心配なのよ」
あだしの病院が見えて来た。瑠花のアパートまであと少しだった。この二人でくっ付いている時間が間も無く終わってしまうのが寂しい。
「明日はお仕事だけど、早く終わればゆっくりできるわねー」
「そうですね」
明日はお仕事を兼ねた温泉旅行。瑠花とゆっくりできる時間が楽しみだった。
「じゃあ、あたしはここで。また明日ね」
「はい、またです」
瑠花がアパートの中に消えるまで見送ると、踵を返して帰路につこうとした。
その時、ふと頭の中をあの姉妹のことが過ぎる。
「ちょっとあのお店が気になるなー」
あのお店とは『台湾紅玉飯店』のことだ。あのバトルから三日が経過しているが美蘭の音沙汰なく、また店にも行っていなかったのでどうしているのか分からない。
「……少し行ってみよっかな」
少し涼しくなってきたにも関わらず行列が出来ていた。しかしかき氷ののぼりはなく、今はタピオカののぼりに変わっていた。
「かき氷終わったのかなー」
列の前の方を見てみると、美蘭がいた。相変わらず列を整理している。
「なんだ、元気そう」
少し心配したのだが、どうやら彼女には無用だったらしい。
帰ろうとした時、美蘭と目が合った。ヅカヅカとこちらへ向かって来る。
「你好」
「に、にーはお」
戦意が無いのはイービルスピリットが震えないことで分かるが、あまり急速にこっちに向かってくるとやっぱり何かありそうでちょっと身構えてしまう。
「今日はあなたのご主人様、いないあるか?」
「え……あ、うん……お仕事だし」
「そっかぁ」
ちょっとつまらなそうに言ったが、すぐに気を取り直してまなに向き直った。
「ま、いいある。あなたにお願いするあるよ」
「うん?」
美蘭はいたずらっ子のように意味深に笑いながら言った。
「わたし、あなた達のグループに入りたいね。是非、リーダーに取り次いでもらいたいあるよ」
美蘭はまなにメモを渡した。そこには連絡先が書いてあった。
「グループに入りたい……?」
あまりにも急な展開に頭がついていかない。
問題児と言われていた美蘭が『エゾルチスタ』に入りたい?
「そう、あなた達のグループね」
「何で突然……?」
「わたし、目が醒めたね。わたしの死霊術、まだまだ未熟ある。あなたの主、七瀬瑠花さんの弟子になりたいある」
「は、はぁ……」
美蘭は目をきらきらさせて言った。
「もう、わたしは瑠花さんの虜ある♡あんなに強く、美しく、優雅なお方は見たことが無いね♡もっとお近付きになりたいあるよ♡」
「え?ええ?えええええっ?」
まるで恋する乙女のように、美蘭は頰を赤らめながら恥ずかしいことをすらすらと述べた。
「だ、だ、だめですよっ!瑠花さんには私がいるんですからっ!」
思わぬライバル出現に、思わず本心を口走ってしまう。瑠花と主従関係にある以上、彼女を誰かに取られるという心配なんてしたことがなかった。しかし美蘭はやすやすと瑠花とまなの間に割って入ろうとしている。
「ゾンビが何言ってるあるか。屍人と生者が一緒になれるわけないあるよ」
「え……」
雷に打たれたような衝撃が走った。
いや、心のどこかではその間の壁を感じないことはなかった。でもいざそれを他者から指摘されると、まなの心の奥深くに何かが突き刺さった。
すると、美蘭は妖しく笑い、まなの耳元に囁きかけた。
「ネクロマンサーにとって、ゾンビはただの実験体あるよ。わたしみたいに血の繋がった妹という特別な思い入れがあるのとはまた別ある。せいぜいあなたは、綺麗にできた良い実験体ぐらいにしか思われてないはずあるよ」
「そ、そんなことないもんっ!」
「さぁ、どうだか?」
美蘭はくすくすと笑ってまなの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「ま、それはともかく、入会の話は通しておいて欲しいあるよ。変な小細工は考えない方がいいあるよ。あなたからお願いするのが一番平和な方法ある」
「……と、とりあえず、リーダーに話してみます……」
「よろしくお願いするあるっ♡」
心にずっしりと重たい何かが乗っかったような、そんな気持ちを引きずりながら、美蘭から離れた。
美蘭と別れたあと、リーダーに電話を入れる。黙っておくという方法もないわけではないが、その辺りは元々の性格のせいで律儀にこなしてしまう。それに、それが一番平和な方法だとも言っていた。美蘭が何をしでかすか分かったものではない。
桜子に電話するのは初めてだ。ちょっと緊張する。
『もしもし』
「あ、もしもし。まな……メーゼですけど」
魔術結社にしては魔法名をあまり使わないが、顔の見えない電話だけはせめて最初だけでも魔法名を名乗る習慣にしている。これがまなには少し慣れない。
『イル・ソーレよ。どうしたの、月丘さん』
「はい……実は少しお話がありまして」
まなは美蘭が瑠花に弟子入りしたがっていること、それと合わせて『エゾルチスタ』に入会したがっていることを伝えた。
『そうねぇ。即決するには難しい話ね。ちょっと相談しましょうか。今夜牛鬼まで来れる?』
「はい……えっと、牛鬼の住所教えてもらっていいですか?」
いつも瑠花に車で連れて行ってもらっているので、実は場所がよく分かっていない。
住所を教えてもらい、それをスマホで検索した。
「……大丈夫です。それでは六時頃に伺います」
『じゃあ、また後で』
電話を切った後、一旦家に帰った。
色んなことが一日の中で起こるな、と思うと何だか疲れてしまった。
「お腹空いたな……」
自室に閉じこもり、ベッドにごろっと寝転ぶ。抱き枕をぎゅーっと抱きしめた。
美蘭の言葉が刺さって抜けない。
(死者と生者は一緒になれない、か……)
対等な関係は確かに不可能だ。となると恋人関係になることも不可能。あくまで主人と従者もしくは奴隷。つまり、どんなに瑠花を敬愛してもそれを超えることは出来ないし、どんなに嫌気がさしてもそれを解消することも出来ない。
何だか自分の立場が悲しいものに思えてきた。
人生のやり直しのチャンスって言われたけど、そんな簡単なものじゃない。人生とは全く異なる、パラレルな何かだ。
ふと心の中に声が響く。
(だから言っただろう。お前はもうモンスターなんだ)
イービルスピリットが語りかけて来る。
「分かってるよ。人間じゃないことぐらい」
(さっさと人間らしさなんて捨てちまいな。あの娘も言っていたじゃないか。お前はただの実験体なんだよ。どんな姿になったって、あの女の研究材料には変わりやしないさ)
「……そうなのかな」
(そうさ。手始めに面倒なやつから喰っちまえ。お前が大嫌いな、ほら、あのいじめてた女。あいつから喰っちまえよ)
「……やっぱりだめ。綺麗なままでいて欲しいって、瑠花さんは言ってたもの」
(そりゃ、綺麗な実験体は珍しいからな)
「……実験体か」
(やっちまえ。お前を馬鹿にしている連中から喰らい尽くせ)
「……うるさいっ!」
ぺしっと自分の頰を叩く。
(ふん。後悔することになるぜ)
その言葉を最後に、イービルスピリットの声は遠のいた。
気がついたら眠っていた。慌てて時計を見る。六時を指そうとしていた。
「あー……遅刻だ」
慌てて準備をし、家を飛び出す。
眠い目を擦りながら、電車に揺られて『食べ放題焼肉・牛鬼』に向かった。車だと十五分ぐらいなのに、電車だと駅までの歩行時間や乗り継ぎ時間もあるので四十分ぐらいかかる。
「あー、もう、最低……」
今日の会合に瑠花はいない。しかし瑠花がいたら何て言うだろう。喜んで迎え入れるだろうか。それとも反対するだろうか。
美蘭の本心は分からないが、表向きは瑠花を慕っている。自分を慕って来るのだから評価は甘くなるのだろうか。
(あー……泣けてきちゃう)
まなはもう到着まで考えることをやめることにした。考えれば考えるほど悲しくなるし、何より自分の存在価値が薄れていく気がしたからだ。
電車を降り、スマホの地図を頼りに『食べ放題焼肉・牛鬼』を探す。十分ほど歩くとようやく見慣れた景色のところまで来ることが出来た。
「すみません、遅くなりました」
店に入ると瑠花はもちろんのこと、亜衣も欠席していた。前もって連絡された会合ではないから他のお客もいる。だから礼司もいるにはいるが、接客に大変そうで、適当に話しておいて、とだけ言い残して厨房とテーブルを往復していた。
桜子、隼人、沙樹、まなの四人で話を始めることになった。
「さて、さすがに急遽だから全員集合とはいかないけど、仕方ないわね」
桜子はゆるゆると話を始めた。
「劉美蘭さんがうちに入りたいと言って来たそうよ。それで、みんなの意見を聞こうと思ってね」
三人がまなの顔を見る。美蘭から直接話を聞いたということもあるし、一番遺恨があるのもまなだからだろう。最初に意見を求められた。
「私にはそんなに意見ってないです。みなさんの、引いては主である瑠花さんの意見に賛成する立場なので……」
すると隼人がうんうん、と頷いた。
「うん、分かっている。君は彼女と一心同体なところがあるから瑠花くんの意見に全面賛同することも分かっているよ。ただ美蘭くんと実際に戦ったことがあるのは君だけだしね。『エゾルチスタ』に加入する場合としない場合のメリット、デメリットは僕らよりは客観的に考えられるんじゃないかな」
そう言われるとまなは考えざるを得なくなった。賛成とか反対とかではなく、『エゾルチスタ』への影響を考えろというわけだ。
「うーん……単純に戦闘力のアップじゃないでしょうか。正直あの姉妹は私なんかよりずっと強いですし」
「デメリットは?」
沙樹がノートパソコンにまなの言葉を書き留めながら聞いた。
「何を考えているか分からないところでしょうか」
もっと正確に言うなら、何をしでかすか分からない。これまで退魔師のナワバリを無視して荒らして回ったり、世の中のネクロマンサーに喧嘩を売ったりと問題行動の多かった彼女のことだ。そんな一匹狼でやってきた彼女が突然集団行動になった途端、どういう化学反応を起こすか予想もつかなかった。
「やっぱりそうなるよなぁ」
隼人が呟くように言った。
「『エゾルチスタ』の名前を貶めるような行為だけは控えてもらわないといけないですしね」
沙樹も悩ましげに言った。
「西野さんはどう考えるかしら?」
沙樹は書記の手を止め、少し考えてから口を開いた。
「私はどっちかって言うと賛成ですね。冷静に見て最近の戦力バランス的にみんなの負担が大きくなっていることが挙げられます。先日の少年のグールぐらいならまだいいのですが、その前の怨霊退治の時は全員の疲労度が高かったです。瑠花さんがアンデッドを犠牲にしてくれたから何とかなったようなものですし……」
まなが加入する前、瑠花がどう戦ってたのかは知らない。しかし自分と同じようにアンデッドがいたのは確かなようだった。
「結城さんはどうかしら?」
「僕はそんなに乗り気じゃないですねぇ。まなちゃんが言うように何を考えているか分からないところがあります。ただメリットはもう一つ別にあるとは思いますけどね」
そこで隼人は少しお茶を飲んだ。沙樹のパソコンを打ち込む音と周りの客の喧騒だけが響く。そして言葉を続けた。
「他の退魔師に迷惑をかけるような跳ねっ返りのじゃじゃ馬を自分たちの手元で管理することが出来る、ということです。もちろん彼女が僕らのルールを守ってくれるという前提ではありますけどね。そうすれば多少なりとも周りの同業者の安心材料にはなるんじゃないかってことですよ」
「なるほどね」
桜子もその意見に頷いた。
「もちろん、マイナスもありえます。高野聖たちを除けば、うちはこの業界の中では大きい方です。関西の華山院一派や関東の東雲一派に引けを取らない。それがさらに強化されるということは周囲の中小同業者が警戒するかもしれない。長い目で見ると廃業する人も出て来るかもしれない。そうなると結局仕事の負担が増える恐れもありますね」
ま、杞憂だと思いますけどね、と付け加えた。
「いっその事、こっちから出向いてみるのはどうですか?」
まながそう言った。
「というと?」
「加入するにしろしないにしろ、一番大事なのは彼女自身に聞いてみることだと思うんです。でもまだメンバーに迎え入れるかどうか決めていない人にこのお店で集会していることを教える訳にはいかないと思うので……」
確かにね、と沙樹が頷いた。
みんなが桜子の方を見る。しかし彼女は頷かず、他のことを考えているようだった。
「何か別の考えでも?」
沙樹の問いに、桜子は苦笑いして答えた。
「んーん。それも一つかな、とは思うけど、もう一つの方法としてね。今度の下呂での仕事に同行させるのはどうかなって思っただけよ」
「え……」
まなが固まる。
「いきなりですか」
隼人も頭をかいている。
「次の仕事まで待っていたらいつになるか分からない訳だし、それなら早いうちに仕事を一緒にしてみて連携が取れる人なのかどうかとかその辺りを見極めたいかな、と思ってね。私は基本的には加入には賛成なのよね。戦闘力アップはいいんだけど、問題児を私たちが預かって管理することの方がメリットとして大きい気がするのよね」
隼人が頷いた。
「このまま放置しても結局他の業者の仕事を荒らして回ったりするだろうしね。彼女の仕事も含めて管理した方が秩序は保たれるわよね」
「まぁ、それも一理かな。僕と沙樹さんはお留守番だし、その辺りはリーダーに見極めてもらうとしますか」
沙樹が軽く挙手した。
「あとは瑠花さんと亜衣さんの意見も一応聞いた方がいいでしょう。瑠花さんは深夜勤だから難しいにしても、亜衣さんは残業らしいから、とりあえず今晩中に聞いてみますね」
まなは反対したかったが、話の流れが完全にそっちに流れてしまっており、しかも有効な反論も持ち合わせていなかったので、仕方なく賛成するしかなかった。