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ゾンビなJKの異常な日常  作者: 結愛りりす
第二章
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第二章-1

 シルバーウィークの月曜日は敬老の日でお休みになっている。

 朝の九時だというのに、まなは起き上がれずにいた。

 お休みでだらけているというのも理由の一つではある。ただそれ以上に昨日のことが思い出されてまだ悶々としているということもあった。

 勢いに流されてというか雰囲気に飲まれてというか、生まれて初めてキスした。キスってあんなに柔らかいものだったんだと改めて思う。

 唇をそっと撫でてみる。昨日の感触がまだ残っている気がした。

「はぁ……瑠花さん……」

 高校一年生にもなればキスの次の段階に何をするかも分かっているつもり。それを想像すると体が熱くなる気がした。

 そういえば瑠花さんも言っていたな、と思い出す。食欲、睡眠欲、そして性欲を満たすと安定化が早いって。性欲は満たしにくいから、もっぱら食欲と睡眠欲のみを満たし続けていた。でも今自分のイービルスピリットは性欲も満たして欲しいと訴えかけて来ている。

「そんなこと訴えられたって、順番があるんだから……」

 好きになっただけではダメ。好きで好きで、お互いがどうしようもなく好きになって、初めて体を一つに結びつけたいと望んでからじゃないと……。

 そこにはキス以上の高いハードルがある気がした。

 そんな妄想を巡らして堪らなくなる。抱き枕をぎゅーっと抱きしめた。

 突然とんとん、と扉をノックする音がして、思わず抱き枕を離した。

「まな?いつまで寝てるの!朝ご飯冷めてるわよー!」

 お母さんだ。時計は九時十五分を指している。

「うんー……」

 くぐもった声で返答すると、扉ががちゃっと開いた。

「もう、起きなさい。いつまで寝てるの!」

「はぁぃ……」

 瑠花のことを想い慕う甘酸っぱい時間は終わり。朝ご飯を食べに一階のダイニングに降りた。

「お、ねぼすけ、やっと起きたか」

 ダイニングには自分の分の朝ご飯だけ。みんな食べ終わっていた。お父さんはリビングでテレビを観ていて、お兄ちゃんはコーヒーを飲みながらスマホを弄っていた。

「休みの日なんだからいいじゃんー」

「そうやってだらけていると、生活にメリハリがつかなくなるでしょ。早く朝ご飯食べなさい。洗い物も片付かないんだから」

 最近、お母さんもまなの食欲を理解しているせいか、みんなよりちょっと多めだ。瑠花によるとイービルスピリットの安定化にはあまり栄養バランスは関係なくて、カロリー量が関係しているらしい。つまりハイカロリーなものを食べ続ける方が有意義ってことだ。健康的なバランスの取れた食事よりジャンクフードの方が実は良かったりする。

 しかしお母さんは気を使ってバランスよく出してくれている。ゾンビって知らないんだから仕方ないといえば仕方ないのだが。でも同じカロリーでもバランス良い方が何か好影響をもたらすとかないんだろうか?とちょっと期待もしてしまう。

「まな、今日は暇してんのか?」

「うん、一応」

 『エゾルチスタ』の仕事はそう頻繁には入らない。瑠花によると月に一〜二回ぐらいとのことだった。だから昨日行って今日またすぐということは滅多にない。

「じゃあ、ちょっと付き合ってくんね?」

「いいけど、何?」

「いや、映画観に行きたいんだけど、誰も一緒にいく人いねーから」

 しょうがないなぁ、と呟く。

「カノジョとかいないの?」

「いたらお前に声かけねーよ」

 そういえばゾンビになってから一回も一緒に映画行ってない。生前はよく行っていた。多い時だと毎週行ってたっけ。よく喧嘩もするけど、こればっかりは共通の趣味だ。それが分かっているからお兄ちゃんも一人で行くより二人で行こうとする。

「で、何の映画?」

「ゾンビ映画」

 よりによってのゾンビ映画。そういえばなんか生前にCMで観た気もするけど。

「ホラー映画かー……お兄ちゃんも好きだね」

「ゾンビ映画はロメロ監督が生み出した永遠のホラージャンルだぜ?」

 そのゾンビが目の前にいるんですけどー、とトーストをもふもふ食べながら内心呟く。

「嫌なら無理しなくていいんだぜ?」

「いいよ、いくー」

 自分がゾンビになってから少し見直したいと思っていたところではあった。

 今日は兄妹デートの日になった。


 映画のゾンビは怖がらせるために作られている。怖がらせるために、人間を襲い、人肉を喰らい、喰らわれた人間はゾンビ化する。特に最近のゾンビはCG技術もあるから変な意味でリアルだ。そして設定も感染とかそういう擬似科学なものが多い。

 とは言うものの、どういう設定のゾンビであれ、そういうステレオタイプなゾンビがまなは怖い。まぁ、ゾンビに限らずホラー映画は全般的に怖いのだが。

「うぅ……」

 お兄ちゃんの腕にしがみつきながら画面を見つめる。

 ゾンビを怖がるゾンビってのも何だかな、と思わないでもないが、怖いものは怖いのだ。

 人間が食われるシーンも強烈だが、人間がゾンビを倒すのに頭を破壊するシーンも正視に耐えないものである。お兄ちゃんはこういうのを平気で見れるのだが、まなはどうしてもダメだ。どうして男の人ってこういうバイオレンスなシーンを平気で見られるのだろうと本気で思う。

 お兄ちゃんの腕にしがみついていると、頭をぽふぽふと撫でられる。完全に子供扱いだが、こればっかりは甘んじて受けるしかない。

「まなは本当にダメだなー」

 そう言って映画終了後にからからと笑うお兄ちゃんが本気で憎らしい。

「うっさい!怖いものは怖いの!大体、ゾンビが何であんなに人間襲うのよっ!」

「そりゃー、ゾンビだからだろ?」

 そりゃそうだけど。本当のゾンビはそんなに敵対的じゃないやい、と言いたいのをぐっと堪える。

「それに、ゾンビの数が多すぎるよっ!」

「そりゃ簡単に増えるんだから仕方なくね?」

「あんなにいっぱいなる訳ないじゃんっ!」

「何にキレてるんだよ……」

 まぁ、怖かったんだなーとお兄ちゃんはまなの頭をなでなでした。 

「まぁ、今回付き合ってくれたし、アイス奢ってやるよ」

「う?やったぁ♡」

「……急に元気になりやがった。というか、狙ってたな、お前」

「細かいこと気にしない!さー、いこー♡」

 アイスを求めて二人で商店街を歩く。無意識に歩いているとよく目にするのに、探すとなると意外に見付からないものである。

「あれー、この辺にあったよーな気がするんだけどなぁ」

「あれはアイスじゃなくてタピオカ屋だろ」

 勘違いを重ねてなかなか辿り着けない。

「無けりゃ奢り無しな」

「えーっ!意地悪っ!」

 こうなると意地でも探し出さねば、と周りを見回す。

 すると見慣れない中華風の看板が目に入った。『台湾紅玉飯店』と書いてあり、のぼりに『台湾かき氷』の文字が踊っている。

「はわわわっ、お兄ちゃん、台湾かき氷だってっ!」

「……あぁ、そう書いてあるな」

 以前はあんなお店は無かった。多分新しく出来たのだろう。

「あれで手を打ってあげようっ!」

「アイスじゃねーじゃん」

「冷たいことには変わりないっ!」

「しょうがねーなー。いいよ、いこーぜ」

 まなの強引な妥協に押され、そのお店のかき氷を食べることにした。

 お店にはそこそこの行列が出来ていた。ふわふわの食感が特徴の台湾かき氷は残暑のせいでまだまだシーズンのようだった。

「すげー行列」

「美味しいんだろーなー。期待できるよー、これは♡」

 まなはお兄ちゃんの腕を引っ張って列に並ぶ。前には十数人の先客がいた。

 中華風の店構え。台湾かき氷が名物ののぼりが立ってはいるが、そもそもは台湾料理の店らしかった。店の前にはチャイナドレスを着た店員が一人出ていて、列を整理していた。

「飯もうまいのかな」

「美味しいかもね。今度お父さんたちにも言って来てみようよ」

「んだな」

 その時、小さくイービルスピリットが震える。

 以前にもこの感覚には覚えがある。

 華山院厳柳。彼と対峙した時、この感覚に襲われた。だがそれよりは弱い。彼と対峙した時はもっとびりびりとした震えた感じがあったが、今は一瞬そわっとした感じだった。それが逆に気持ち悪い。

「どーした?」

 怪訝な顔をしているまなの顔を覗き込む。慌てて首を横に振った。

「ん……んーん、何でもない」

 きょろきょろと周りを見回すが華山院厳柳はもちろん、それに類するような霊験のありそうな人物は見当たらなかった。

 徐々に自分の前の人たちが減り、お店に近づく。すると、そわっとした感じが徐々に強くなってきた。

(イービルスピリットが警戒している……?)

 店に近付けば近付くほど警戒度が増している気がする。

 あの時、厳柳は明からさまな敵意を示した。それに対してイービルスピリットも危険信号を出していたのが分かった。でも今回はちょっと違う。敵意があるかどうかを測りかねている、そんな感じ。

「你好」

 店員の女の子が笑顔でメニューを渡してきた。少し鋭い目をした可愛らしい女の子だった。

「このメニュー見て選んでおくあるね」

 その女の子とまなが目が合う。ほんの少し強くそわっとイービルスピリットが震えた。

「ね、お兄ちゃん」

「んー?」

 イービルスピリットのお告げには従う方が賢明な気がした。

「テイクアウトでいいよね?」

「あぁ、うん、そうだな」

 少しでも店から、むしろこの女の子から離れた方がいい。そんな気がした。

「じゃあ、私、マンゴーでいいから買って来てよ。あたしちょっと並び疲れちゃった」

「あぁ、いいよ。そこのベンチ座ってな」

 あの女の子は怪しい。怪しいが確証が得られなかった。店の向かいにあるベンチに座り、呼吸を整えてゆっくり霊視しながらもう一度周りを見てみた。

 普通にしている霊は確かに数人いるが、彼らではない。彼らは敵意もなければこちらへの興味もなさそうな浮遊霊だ。彼らにイービルスピリットが鋭敏に反応することはない。

 やはりあの女の子?

 またぞわっと小さな震えとともに、視線を感じた。列を整理しているあのチャイナドレスの女の子がこっちをじぃっと見ている。間違いなさそう。あの子には何かある……。

「お待たせ」

 その視線を遮るように、お兄ちゃんが前に立った。

「ほれ、お前のマンゴーかき氷」

「あ、うん、ありがとー」

 お兄ちゃんが隣に座り、あの女の子の姿をまた捉える。しかし女の子は視線をすでにこっちに向けておらず、背を向けて列整理をしていた。

「チャイナドレスって可愛いよなー」

「へー、あーゆーのが好きなんだ」

 バイトの子だろうか。でも日本語は変に訛っていた。お店の看板娘みたいな子かもしれないな、と思った。

「でもお前みたいに色気ないのが着てもしょうがないだろうけどな」

「分かんないよー。案外いけるかもしんないじゃん」

「俺はおっぱいも大きい方が好みなんだよ」

「がさつなお兄ちゃんにあんな可愛い子が振り返ってくれると思ったら大間違い」

 しばらく二人で無言でかき氷を頬張る。イービルスピリットは相変わらずそわそわしているが、敵意とは違いそうだし、ましてやこんなに人通りの多いところで事を構えるとも思いにくい。

「そう言えばさ」

 お兄ちゃんが思い出したように言う。

「んー?」

「お前、今学校どうなの」

「どうって……」

 お兄ちゃんはキウイのかき氷を食べている。しばらく無言でしゃくしゃくと食べていたが、意を決したように言った。

「お前の遺書にさ、いじめのこと書いてあったじゃん。どういう経緯かわかんねーけど、本田とかいう元凶を説得したんだろ。それ以来何にもないのかなって」

 茶化している感じではないので、真面目に答えた。

「うん。今のところ友達も増えてきてるし、いじめもなくなってるし、順調だと思うよ」

 しかしお兄ちゃんはまだ何か納得行かない感じだった。

「どうしたの?」

「いや、この前から気になってるんだけど、後輩に聞けば聞くほど本田ってヤバい奴みたいじゃん。それをどうやって説得したんだ?」

「ぅ……それは……」

 ゾンビパワーで捩じ伏せましたとはとても言えない。自分の妹がそんな化け物だっただなんて知ったら、お兄ちゃんはどう受け止めるだろう。それを考えるだけでも怖い。

 でも、どこかのタイミングできっとバレる。ゾンビである以上、今から年を取らないわけだし、瑠花さんが主である以上、瑠花さんの存在も家族にいつか知れる。

「お前、何か隠してない?」

 背中がすーっと寒くなる。いくらゾンビのことを話すにしてもタイミングは今じゃない気がした。

「か、隠してないよ……」

 そう答えるのが精一杯だった。

「いや、隠してる。顔が嘘ついてる顔だからな」

 お兄ちゃんには隠し事をしてもすぐにバレてしまうらしい。今は正面のチャイナドレス娘よりお兄ちゃんの方が強敵に思えた。

「俺が当ててやろう。そうだなー……彼氏がいる、違うか?」

「……へ?」

「本田の説得ってのはその彼氏にやってもらったとかだろ」

 お兄ちゃんの仮説では本田啓太より強い彼氏がまなにできて、その彼氏の力で奴を封じたというわけだ。

 なるほど、そう考えるか……。

「んー、残念だけどいないよ」

「本当か?」

 まなの顔をじーっと見たが、まなも負けじとじーっと見返す。

「いるわけないじゃん。友達と束になって説得に行っただけだってば」

 一応かんなと凛が説得しようとしてくれた。友達と束になって説得したのは嘘じゃない。

「なーんだ。てっきりいるのかと思ったぜー。お父さんには内緒にしといてやるって思ったんだけどな」

「あはは、またそうやって人にたかろうとして。残念でしたー。そもそもいたらこうやってお兄ちゃんとデートするわけないでしょ」

「それもそうか」

 なんだかんだ言って、まな自身もお兄ちゃんとデートすることに抵抗はない。

 でもお兄ちゃんのことを男として意識したことない、と言えば嘘になる。  

 ずっと寄り添って来ただけに、良いところも悪いところも知り尽くしている。

 言い合いになったらすぐお兄ちゃんのことをもてないとか言っているが、実際のところは知らない。むしろ本当はもてるんじゃないかと思っている。一四五センチの自分より三十センチぐらい背は高いし、スポーツもできるし、頭も悪くない。顔も贔屓目に見なくてもそこそこ良い。

 でも彼女が彼氏を見るような視点ではない、と思う。あくまで妹視点だ。付き合う前提じゃないからこそ分かる長所短所があると思っている。

「お兄ちゃんの方こそ彼女いないの?」

「いねーよ」

 こっちはたった一言で終わった。

 かき氷を食べ終える頃、気がつくとイービルスピリットは落ち着きを取り戻していた。同時のあのチャイナドレスの女の子もどこかへ行ってしまって、そこにはいなかった。


「……っていうことがありました」

 その夜、仕事終わりの瑠花に電話で報告する。

 自然にイービルスピリットが反応するような出来事は起こりえない。何か不自然なことがあるから反応する。その点は人間と異なり、はっきりしている。あのチャイナドレスの女の子と目が合うとそわそわした。間違いなく彼女には何かある。

『そっか。アンデッド?』

 電話向こうから瑠花がそう言った。

「いえ、アンデッドではないです。霊験のある人なのかな。前の厳柳さんみたいな」

『わかった。明日みんなに会う予定だから話通しておこうかしらね』

「え、明日何かあるんですか?」

 『エゾルチスタ』の集まりがあるなんて聞いてない。

『あれ?聞いてない?あ、そっか。まだラインのルームに招待してなかったわね』

「私もメンバーなら入れてくださいよぉ……」

『ごめんごめん。招待しておく。でもほとんど隠語だらけだから、解読には慣れが要るわよ』

 情報漏洩対策に暗号のような会話になっているとのことらしい。それでも入れてもらえないと寂しいものがある。

「また教えてください」

『OK。明日は来られそう?朝の十時からだけど』

「大丈夫です」

 秋分の日でお休みだから空いてはいる。問題は起きれるかどうかだが。

「目覚ましかけておきます」

『じゃあ、また明日ね』

 静かに電話を切った。時計を見るともう日付が変わっていた。

「ふぁ……そろそろ寝ようかな……」

 ベッドにころん、と寝転ぶ。この瞬間が至福の時なのは生前も死後も変わらない。

 その時、そわっとイービルスピリットがざわついた。

「……ん?」

 窓から外を伺う。そわそわっとイービルスピリットがさらに警戒を強めた。すかさず霊視してみる。浮遊霊が数体の他に何か同類がいる。

「どこから……」

 一人で対応するべきではないのは分かっている。でも家の近くにアンデッドが出現していることは気持ちのいい話ではない。

 部屋を出て、玄関からそっと抜け出す。外の様子を慎重に伺いながら家の前の通りに出た。

 次の瞬間、背中にどんっという強い衝撃を受け、まなは地面に倒れ込んだ。

「きゃっ!ぅぅ……な、何よっ!」

 起き上がって振り返ろうとしたところをさらに追撃で二撃目を首に、三撃目を腹に食らわされる。今までにない強い衝撃で、完全に跳ね飛ばされた。しかしゾンビの体力である。普通の攻撃なのだろう。ダメージとしての蓄積はほとんどない。

 まなは跳ね起きて相手を見た。

「さすが屍人、丈夫あるな」

 二人の人影がそこにはあった。一人は中華服に身を包んだ人間だ。どこかで見覚えのある顔だった。

「あっ!『台湾紅玉飯店』のっ!」

「ご明察。お昼はご来店ありがとうね」

 しゃらん、と鈴を鳴らす。するともう一人が身構えた。

 陰陽の紋が入った中華服に身を包み、額には『勅令随身保命』と書かれてある。明らかに同類。アンデッドだ。

「も、もしかして……キョンシー……?」

 映画とかで見るキョンシーと違って、額に直接護符のような文字が書かれているが、どう見てもキョンシーである。

「そうアルよ」

 キョンシー自身が答える。

「うわっ!キョンシーのくせに喋ったっ!」

「喋るゾンビに言われたくないネ」

 二人はまなを挟むように立つ。二人とも中国拳法の構えをして、まなに対して臨戦態勢を見せた。

「ちょ、ちょっと待ってっ!なんで私をそんなに攻撃するんですかっ!?」

「屍人だから」

 人間の方が答えた。

「え……?」

「屍人だから。私は劉美蘭、この子は劉美鈴。私たち姉妹はあなたのような屍人を狩ってきたね」

 それに呼応してキョンシー、美鈴も口を開く。

「特に不浄な屍人を狩るネ。アナタみたいな制御されていない屍人が一番危険アル」

「え……ちょ、ちょっと待って!私にはちゃんと主が……」

「問答無用!」

 美鈴は体を低くして足払いをかけてきた。まなは避けきれず見事に引っかかって転んだ。

「覚悟!」

 美蘭の鋭い蹴りが頭を狙う。思わず両腕で頭を防御。どんっと両腕に強い衝撃が来た。

(頭を潰しに来てる……)

 そう思うとぞっとした。

「人間の生活に混じり、人間になりすまし、悪魂を安定化させ、高位のアンデッドへと変貌する輩は後々危険な存在アル。今のうちに刈り取らなければ駄目アルよ」

「そ、そんなんじゃ、ないのに……」

「昼に一緒にいた男、どう見てもお前の主人じゃないある。お兄ちゃんと呼んでいた。つまり兄。家族に戻り、庇護を得ようとしたか」

 二人は冷たい目でまなを見下ろしていた。

「そういう知恵を使うアンデッドは特に危険ある」

「違うって言ってるのにぃっ!」

 まなは跳ね起きると、美蘭に突進した。

「はぁっ!」

 美蘭はさっと躱すと、横から腹に膝蹴りを放った。内臓がひっくり返りそうな衝撃が走る。しかし、まなはそれを我慢した。

 頭以外への攻撃なら、蓄積されない。衝撃は最初だけ。

 つまり我慢して、ゾンビの本気の力でその足をキャッチしに行けば、必ず捉えらえる!

「つーかーまーえーたーっ!」

「な、なにっ!」

 振りほどこうと抵抗するが、ゾンビの本気の力だ。人間の力では簡単には振りほどけない。まなはぶんっ!と美蘭をデタラメに振り回す。その背中が塀に打ち付けられた。

「あぅっ!げほっげほっ!」

「姉さんっ!」

 美鈴はまなに攻撃を加えようとしたが、その動きが止まった。抵抗の弱まった美蘭の体をまなの腕が締め上げ始めたからだ。

「抵抗をやめろっ!このまま背骨折っちゃうぞっ!」

 もちろんまなにそんな勇気はない。はったりのつもりだった。

 しかし戦闘モードに火が点いたイービルスピリットがどろりと頭をもたげてきた。

(っく……こんな時に……)

 殺せ、殺せ、殺せ、その体を喰らえっ!

 イービルスピリットの声がまなの知性を侵食していく。早く頰を叩いて止めないと……。早く離さないと……本当にこの人を殺してしまう……。

 美蘭の背中がみしみしと軋む。

「くあぁっ!こ、この化け物ぉっ!」

「うあああぁぁっ!」

 まなはぽいっと投げ捨てるように、美鈴に向かって美蘭を投げ捨てた。そして自分の頰をぱしんっと叩く。

「も、もう、関わらないでっ。次は手加減、出来ないよ……」

 強がるのが精一杯だが、相手への脅しには十分だった。

「っく……今の装備では狩りきれないネ……絶対次は狩るネ」

 美鈴は美蘭を背負うと、ばっと逃げて行った。

 まなはへなっと両膝をつく。パジャマに地面の埃がついてどろどろだ。

(何なの、一体……)

 もはや体へのダメージは無くなっていたが、精神的には疲れ切っていた。厳柳とは異なる非常に危険な存在と認識せざるを得なかった。

(劉美蘭と劉美鈴か……)

 キョンシーもアンデッドの一種。それを扱うとなるとネクロマンサーと言っていい。もしかしたらネクロマンサー同士で瑠花が何か知っているかもしれない。明日聞いてみよう、と思った。

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