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ゾンビなJKの異常な日常  作者: 結愛りりす
第一章
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第一章-3

「お前、番長になったんだって?」

 朝食を食べている時、不意にお兄ちゃんに言われ、ぶっと吹いた。何か口に入れている時でなくてよかったと思う。

「な、なってないわよ!」

「いや、後輩からライン来て、お前が番長のなんつったかな。本田?とか言う奴を半殺しにしたって噂だぜ」

 全く、自殺した直後は泣き腫らしていたくせに、今ではすっかり通常モードの意地悪なお兄ちゃんに戻っている。にやにやとしながらコーヒーをすすっていた。

 遺書の件は結局今まで誰も触れないが、絶対みんな読んでいる。その中に「大好き」なんて書いちゃったものだから、弱みを握られているようなものだ。

「デマよ、デマ!そりゃ、言いがかりに対して言い返しはしたけど……」

 すると急にお兄ちゃんが真顔になった。

「何もされなかったか?」

 やっぱりいじめに対しては敏感になっている。不良と絡んだということだけでも本当は心配なのだろう。意地悪なくせに妹思いなのだ。ちょっと嬉しかった。

「うん、何もー」

 心配かけないように即答しておいた。

「ならいいけど。もし何かされそうだったら、今度はちゃんと言えよ」

 何だろう、今まで気付かなかったけど、こういう時のお兄ちゃんは本当に頼り甲斐がある感じだ。ちょっとかっこよく見えてしまうのが悔しい。

「わ、分かってるってば!」

 照れ隠しにわざとぶっきらぼうに答えた。お兄ちゃんの優しさという別の一面を見つけると、やっぱり生き返って良かったのかなと思えた。

 しかし、問題は噂の方だ。

 お兄ちゃんまで知っているとなると学校ではどうなっているのだろう。噂というやつは尾ひれはひれが付き物だが、仕舞いには翼までついて飛んでいくことがある。

 変なことになってなきゃいいけど……。そう願わざるをえない。

 その疑問は登校とともに知れた。

「おはよう」「おはよ」「おはよう、月丘さん」

 やたらと声をかけられる。

 上履きも無くなってないし、画鋲も入っていない。

 机の落書きは相変わらずだが、増えた様子はない。むしろ誰かが消したのか多少減っている気がする。

(……みんな現金だなー……)

 思わず苦笑いしてしまう。ちょっと背中がくすぐったい感じがする。

 あの本田啓太を半殺しにはして無いけど、保健室送りにしたのは確かだ。元はと言えばいじめにいじめを重ねて来た絵里子が悪いわけだし、その絵里子に乗っかって甘い汁を吸おうとした啓太が悪いのだが。まぁ、最後のビンタはやり過ぎだったかもしれないので、あとで謝りに行こうかな、と思った。

 絵里子は完全にこちらを無視している。構おうともしない。絵里子の最後のプライドなのかなとも思ったが、そうでも無さそうだ。ちらちらとこっちの様子を伺っている。

 明らかに怯えていた。

(何だかな……)

 突然友達も増えた。絵里子の取り巻き連中でも愛想を振って来る人までいる始末だ。たった一日でここまで勢力図が塗り変わるとなると、返って気持ち悪い。

「何だか……まなちゃん、凄いね」

 かんなと凛も昨日啓太に物申したというところで、おこぼれ的に一目置かれている。たった一日早く味方しただけなのだが、その気持ち悪さを体感する側にいた。

「まぁ、今だけだよ、きっと」

 まなはそう言って苦笑いした。

「私はいじめに仕返ししようとかそんな気持ちないしね。そんなことより、本田先輩に少し謝りに行こうかと思って」

「何で?」

 凛が怪訝そうに尋ねた。そりゃあそうだろう。言ってみれば絵里子のいじめにおける自信の裏付けは啓太がいたからだ。言ってしまえばいじめを助長させた要因の一人である。それに謝りに行く道理なんてない。

「んー……まぁ、色々やりすぎたかなぁって」

 かんなが驚いた顔になる。

「やりすぎるぐらいやったの……?」

 凛も同じような顔になっていた。

「半殺しにしたって噂だったけど、まさか……」

「ち、ちがうってば!色々事情があったのよ!」

 逆にまなの武勇伝になりそうだったので、とりあえず話はそこで止めておいた。

 まなの学校生活を穏やかに過ごしたいというささやかな望みはしばらく叶えられそうになかった。実際、啓太に謝りに行ったが彼は学校をサボっていて会えなかったという事実が捻じ曲げられ、まなが追い打ちにカチコミに行ったが啓太が逃げたという噂になってしまった。それをまなが知るのは後日の話である。

 とにかく居心地の悪い一日を過ごし、逆に気疲れしてしまった。

「今日は大人しく、瑠花さんに会いに行こうっかな」

 今日は休みと言っていたから会えるはずと思い、ラインにメッセージを打ち込んだ。最後の送信をタップする直前、ふと昨日の別れ際の妙な感情の芽生えが思い出された。恋愛感情のような、妙なときめき。イービルスピリットの性質上、心拍数は上がらないのだが、ときめきは自覚できた。

(キス……か)

 思えばしたことない。キスを経験することなく、死を選んだ。我ながら思いっきりの良過ぎることをした。そしてゾンビになってしまった。超人的能力があるのは便利だが、何か自分らしくない気がして、やっぱり人間に戻りたいと願ってしまう。もちろん無理なのだけど。

(瑠花さんになら、初キスあげてもいいな……)

 でも、ゾンビとキスしたがる人なんていないよなぁ……からかわれただけだよね、と思うと悲しくなった。


 学校が終わり、下校する。帰路にはつかず、ラインで瑠花に「今から行きます」とだけ伝えて家に向かった。

 もしかするとゾンビにとって、主人に会うことは嬉しいことなのかもしれないな、と勝手に想像する。まだ会うようになってここ数日なのだが、瑠花と一緒にいる時が何となく落ち着くのだ。

 あの角を曲がれば瑠花さんのアパートが見える。そこまで辿り着いた時、一瞬イービルスピリットが震えた気がした。人間で言えば、ぞわっとした感覚に近い。

 はっとして周囲を見回した。すると、そこには托鉢椀を持った大柄なお坊さんがいた。背は高く、肩幅もがっしりしていて、一つ間違えればプロレスラーのような体型だった。

「そこの少女」

 しゃらん、と宝棒を鳴らす。

「はい?私……ですか?」

「左様。拙僧は華山院厳柳と申す。少女よ、この世の者ではないな」

 イービルスピリットが危険を知らせている。びりびりとした感覚が体を震わせた。

「なぜ、ですか?」

「拙僧は修行を重ね、多少ではあるがこの世でない者が見える」

 じり、じりっとにじり寄って来た。

「外法により屍人から黄泉返りしたか。見捨ててはおけぬ。外法の元を打ち砕き、汝に真の安寧を与えようぞ」

 厳柳の言っていることの後半は理解できた。瑠花の術を解くというのだ。

 イービルスピリットが離れるとどうなるかは分からないが、想像はできた。瑠花の話からすれば霊体と肉体はまた離れ離れだ。つまり本当に死ぬ。

「え……やだ……」

 せっかくお母さん、お父さん、お兄ちゃんにもう一度会えた。友達も出来、いじめもなくなりつつある。瑠花という心をときめかせるに値する人も見つけた。これから、ようやく、本当に送りたかった女子高生生活が待っているというのに……。

 そんなまなの気持ちを踏みにじるかのように、厳柳は印を組み、真言を唱え始めた。イービルスピリットが悲鳴をあげ始める。ぎりぎりぎりと凄まじい頭痛がまなを襲った。

「やだ!やだ!やめて!まだ、まだ生きたい!」

「だめだ!外法により黄泉返りし人は人にあらず!汝は黄泉の者ぞ!黄泉に帰れ!」

 真言を唱え始めるまでに攻撃をしかけるべきであったが、もう時はすでに遅かった。戦うという観念がもともと備わっていないまなにはそれができなかった。

 頭痛から今度は体中が軋み始める。イービルスピリットが霊体から引き剥がされる感覚が分かった。

「終わりだ……」

 最後の印を組もうとした時、まなは起死回生の逆転を思いつく。JKならではの最終奥義が残っていた!

 胸元をあえて肌蹴させ、その場にしゃがみこんで、ありったけの声で叫ぶ!

「きゃああああああああぁぁぁぁぁーーーっ!!痴漢ーーーーーっ!!」

「なっ!?」

 もちろん叫ぶだけでも衆目を集めることができる。

 それに加え、痴漢と聞いて放っておかない者達がいる。桜の代紋である。

「何をしている!その子から離れんかぁっ!」

「いや、ちがっ!拙僧はっ!」

「言い訳無用っ!僧侶になりすますとは不逞の輩め!」

 警察官が厳柳に向かって走って来た。まなは泣くふりをして内心舌を出した。

「ぬぬぬ……小癪な真似を!」

「うっさい!これは歴とした合法技だ!」

 こうして厳柳は痴漢の現行犯となったのである。


「華山院厳柳か」

「知ってるんですか?」

 警察の事情聴取から解放され、遅れること小一時間、ようやく瑠花の家に辿り着いたところだった。瑠花自身もなかなか来ないことに心配して周囲を探していたらしいが入れ違いにならなくて良かったねと言い合っていたところだった。

「んー、名前だけは。でも、あたしが聞いたことあるのは関西の方をナワバリにしている拝み屋さんってことぐらいだけど」

 新幹線に乗ればここから一時間ぐらい。そんなに遠くはないからいても不思議というわけではないが、こんなところをウロついているのには違和感がある。

「イービルスピリットが不安定な状態のゾンビと拝み屋さんは相性悪いからねー。安定しちゃえばちょっとやそっとではやられないけど。不安定な時にそれをやられると、せっかく安定しかけてたのに、またやり直しになっちゃう」

 つまり何日分かは分からないが、安定しかけていた分も不安定に逆戻りしたということだった。

「ま、それはともかく……」

 瑠花はふわっとまなを抱きしめた。

「無事で良かった」

 瑠花の温かい感触、柔らかな胸の感触が心地いい。ゾンビの習性なのか、自分の気持ちの問題なのかは分からないが、やはり瑠花と一緒にいるのが落ち着く。

「……うん……」

 まなも瑠花の背に腕を回し、そっと抱きついた。

「まぁ、でも、こうなって来たら、仲間を頼るしかないわね」

「……仲間?」

 瑠花も仕事をしているし、当のまなも高校一年生だ。無防備状態になることが多い。そういう意味では仲間がいるのはありがたいのだが、そんな四六時中警戒してくれる人なんているわけがない。

「ん、例えばだけど……目の前に殺したいほど憎い敵が無防備状態でいるのに殺せないってどういう状況に起こりうる?」

 瑠花の胸の間に頰を押し当てながら、まなはうーんと考えた。

「その人を殺したら、自分にも相応の復讐が待っている時、かな」

「そうね。つまり強大な力がその敵のバックに付いている時、でしょ」

 なるほど、それが仲間というわけか。

「まぁ、あたしの魔術師仲間。魔術結社のメンバーよ。その筋じゃ名前は通ってるんだから。ちょっと連絡取ってみるわ」

 魔術結社と聞くといかにも秘密結社という感じで、非常におどろおどろしい印象があるが、実際はクラブかサークルみたいなものだと瑠花は言った。

 連絡はあっさりついた。夕飯がてらに会うことを誘われたため、まなも家に友達と食べてくると連絡を入れた。友達という存在がいないことを心配していた両親だから、案外あっさりと了承を得られた。

「どういう人たちなんですか?」

 瑠花の仲間だから信用は出来るのだろうが、それでも初対面でしかもいきなり助けを求めるわけだから不安がないわけではない。

 しかし瑠花は笑って言った。

「気のいい人たちばかりよ。まぁ、気難しい人もいないわけじゃないけど、みんな頼りになるわ」

 瑠花の車に乗って、指定された目的地へ向かう。十五分ぐらい走っただろうか。その場所に辿り着いた。

「着いたわよ」

 見ると、小さなお店だった。しかし小さなお店の割には大きめの看板があり、黒々とした文字で「食べ放題焼肉・牛鬼」と書いてある。まなはピンときた。

「あ、昨日言ってた知り合いのお店ですか?」

「そーそー」

 店の玄関には「貸切」の文字が書いてあった。

 自動ドアを開けると四、五人が座れるテーブルが四つほどしかない小さなお店であるが、各席の幅はそれなりにとってあって「食べ放題」と言う割にはちょっと高級感を感じる内装である。

「いらっしゃい!」

 すでに五人ばかりの人がいた。

「おぉ、来たか、ソロール・プルトーネ」

「やほ、フラター・マルテ」

 まなが小首を傾げる。そろーる?ふらたー?ぷるとーね?まるて?

「あぁ、魔法名よ。ここにいるみんなが魔術師だから。ソロール、フラターは言うなら『同志』ぐらいの意味で、ソロールは女性に、フラターは男性につけるの。プルトーネはあたしの魔法名。マルテは彼の魔法名よ。本名は寺沢礼司さんだけどね」

 何だかよく分からないが、ハンドルネームみたいなものかな、と理解した。

「その子が例の?」

「そ。ゾン子」

 変なあだ名付けないでください。

「めちゃくちゃ可愛いじゃん」

 フラター・マルテこと礼司は珍しそうにまなの顔をじろじろと見る。

「だめよー、この子はあたしのだからー」

 まなを大きなぬいぐるみのように後ろからぎゅーっと抱きしめた。ちょうどまなの後頭部に瑠花の豊かな乳房が押し付けられる形になり、ちょっと恥ずかしい。

「あ、あの……瑠花さん」

「なぁに?」

 むぎゅむぎゅっと抱きしめられたまま、まなは瑠花の顔を振り返る。

「この人たちが……?」

「そう。魔術結社『エゾルチスタ』。あたしの魔術師仲間達よ」

 みんながそれぞれ本名と魔法名を持っていて、瑠花と同じように表向きには普通の仕事をしている。みんながそれぞれ自己紹介(瑠花の解説付き)をしてくれた。

 リーダーは篠崎桜子という。魔法名ソロール・イル・ソーレ。年齢は四十三歳ということだが、完全な美魔女系でどう見ても三十代前半ぐらいにしか見えない。大人の色気を醸し出している。普段は某アパレル会社の女社長をしているらしい。夜な夜な若い男の血を吸っているから若さを保っているというもっぱらの噂らしい。

 そしてそのまま年齢順に行くと、結城隼人がナンバー二になる。魔法名はフラター・メルクリオで年齢三十八歳。普段は弁護士をしている。眼鏡がダンディな長身の男だ。弁護士という仕事をしているので、この結社の活動の規範を作っていると言っても過言ではないらしい。いくら魔術結社でも違法なことはしちゃだめだからね、と瑠花は言った。

 西野沙樹は二十八歳の主婦。魔法名はソロール・ヴェーネレ。二児のシングルマザーらしい。リーダーの秘書、マネージャーをやっている。この結社の事務的なことは彼女が一手に引き受けている。彼女がいなければこの結社の運営が回らないとも。

 そして最初に声をかけてきた寺沢礼司。魔法名フラター・マルテ。二十七歳でこの焼き肉屋を経営している。腕に刺青を彫っているのでやんちゃな男に思われがちだが、本当はファッションではなく魔法陣の一つらしい。趣味でバンドをやっているから変には思われないそうだ。魔力も力も頼りにはなるが、可愛い女の子には目がないから気をつけること、と言われた。

 魔法名ソロール・ウラーノは二十三歳。本名は杉原亜衣。おしとやかな大和撫子だが、実家が神社をやっていて巫女としても働いていて、陰陽術にも長けているとのことであった。若きエースと言っても良いぐらいの力を持っているらしい。仕事はリーダーのアパレルブランドで売り子をしているとのことだった。

 そして七瀬瑠花はさっき言ったようにソロール・プルトーネと呼ばれている。二十二歳、最年少だが、唯一のネクロマンサー。茶髪で白ギャル。かつてはやんちゃしてましたと言わんばかりのルックス。でもやんちゃしてないよー、と自分で自分を解説していた。

「えっと、月丘まなです……。豊南高校一年生で、ゾンビやってます」

 我ながらどういう自己紹介だと思わないでもないが、事実だから仕方ない。

 いじめを苦に自殺をしたこと、たまたま?担当看護師だった七瀬瑠花の死霊術によってゾンビとして復活したことを話した。その上で、今日、華山院厳柳なる僧侶に襲われたことも話した。

「今日みんなに集まってもらったのは、このゾン子ちゃんを『エゾルチスタ』に入ってもらおうって思ってね」

 みんなが顔を見合わせる。中でも一番驚いた顔をしているのはまなだった。

「えええええ?そういう話でしたっけ?」

「まなちゃんを守る以上はそういうことになるでしょうに」

「うー……」

 確かに。

 この『エゾルチスタ』なる結社が何をする結社なのかは知らないが、その名前で守ってもらう以上、そのファミリーには入らないといけない。そしてその一員である瑠花には絶対服従である。ということはこの結社のために働くことになる。もしこの結社が世界征服を企むような組織だったとしても、まなは従って働くしかない。

 するとフラター・メルクリオこと、隼人が口を開いた。

「要するに、外法の術で蘇っている月丘まなさんを無条件に敵視する華山院厳柳から我々に守ってほしい。その代わりに彼女を『エゾルチスタ』に入れる、そういうことだね」

「そーそー、そういうことです。話が早くて助かります」

 すると亜衣が口を開いた。

「ネクロマンサーにとってゾンビは手足みたいなもんやからなー。それを守らなあかんのは理解出来るけど……わざわざ『エゾルチスタ』に入れる意味はあるんかな?」

 沙樹がそれに答える。

「まぁ、何を考えてるか分かんないスケルトンとかなら入れる意味ないかもしれないけど、さっきから見ている限り極めて知性を維持した状態のゾンビだし、入れてもこの際問題じゃないのでは」

 礼司は少し困ったような顔をしていた。

「俺も別に入れること自体は構いやしねーけど……瑠花ちゃんは大丈夫なのか?随分入れ込んでるようだが」

「どういうこと?」

 瑠花が怪訝な顔をする。

 その言葉を受け止めるようにリーダーが口を開いた。

「七瀬さん。私も別に異存はないのだけれど。この結社に入ってもらうとなると、その子にも我々の活動を理解し、参加してもらうということになるわよ。そして前のようなことが起こる危険性もある。あなたはそれでもいいのかしら」

 みんなの視線が瑠花に集まった。まなには何のことか分からなかったが、何か過去にあったらしいということは理解出来た。

 瑠花はこくりと頷き、そっとまなの肩を抱き寄せた。

「あたしはこの子と一蓮托生のつもりです。前のようなことはさせません」

「そう」

 リーダーは小さく微笑んで、頷いた。

「私もさっきから見ている限り、寺沢さんの言うように七瀬さんがそのゾンビちゃんにぞっこんのようだから心配したのよ。でもそれだけの覚悟があるというのならいいわ。信じましょう。それでいいわね?寺沢さん」

 礼司は両手を挙げて異議無しの意思を示した。

「ま、俺たちも仲間だからな。全力でその子を守りはするよ」

「ありがとうございます」

 瑠花はぺこりと頭を下げた。

 そこにまなが小さく挙手した。

「あの……私は、どうすればいいんですか……?」

 まなは今ひとつ話が飲み込めていない。だからとりあえず差し当たって今すべきことを聞いた。

 リーダーはにこりと微笑んで言った。

「そうね。それはあとでご飯でも食べながら話しましょう。それより先にあなたにも魔法名をつけないと」

 結社の一員になるのなら、魔法名は必須だと言う。みんなの魔法名は星の名から取っている。リーダーはまなの顔を見つめて言った。

「お名前に月の字があるし、またあなたの存在も惑星に寄り添う月のようだから、あなたの魔法名はメーゼにしましょう」

 ソロール・メーゼ。それがまなのこの結社における通り名となった。

 その後は新メンバーの歓迎会の様相となり、焼き肉パーティーが始まった。

 せっかく安定して来たイービルスピリットを引き剥がされかけて不安定に逆戻りしてしまっているためか、まなの空腹はピークになっていた。

「わーい♡おにくー♡おにくー♡」

「はぁ、この無邪気な子がゾンビとは誰も思えへんやろなぁ」

 亜衣が笑いながらせっせと焼き始め、そして絶妙の焼き具合で配り始める。

「俺の店だし、俺が焼くぜ?」

「ええのええの。うちに焼かせて」

 世話焼きというより奉行なのかもしれない。

「しかし、華山院厳柳か……本人だとしたらちょっと厄介だな」

 隼人が真面目な弁護士らしく物事の分析を始める。

 亜衣もこくりと頷く。

「俺はよく知らないんだが、そんなにすげー奴なのか?」

 礼司は関東の人なので、関西の情勢には疎い。華山院一派も噂程度しか知らなかった。

「高野聖の流れの人やね」

 亜衣が言った。

 和歌山県高野山に拠点を置く高野聖は退魔師としては日本有数の実力を持っている。その中でも急先鋒を行く華山院一派は総本山とは独立して活動している。その一派の者はいずれも法術が強く、悪鬼・怨霊の類をその真言でもって退散せしめているという。

「基本的にはうちらと同じような活動してるわけやし、敵対する相手やないんやけど……」

 ただ、ゾンビと退魔師は相容れない存在である。目を付けられてしまった以上、何らかの対策が必要だ。

「まぁ、普通に考えれば話し合いした方がいいんでしょうけど」

 沙樹がサラダを突つきながら言った。

「ぅー……問答無用って感じでした……」

 カルビをもふもふ頬張りながらまなが答えた。

 そう、何を弁解しようと「外法・即・滅」という感じだった。しばらくは痴漢容疑で出て来ないかもしれないが、疑いが晴れればすぐに出てくるだろう。

「とりあえず、私から話をつけてみるわ」

 リーダーである桜子がそう言った。

「とりあえずイービルスピリットが安定してしまえば、厳柳と言えども簡単には払えない。それまで時間を稼がなくては」

「安定にはなんぼほどの時間かかりそうなん?」

 瑠花は頭をかいた。

「術をかけてから二十日ほど経ってたけど、多分今日の一件で振り出しにもどったかも。だとしたら長くて丸々三ヶ月かな」

 今が九月だから冬までかかるというわけだ。

「それまで厳柳を凌ぐのは至難の業ね。やっぱり『エゾルチスタ』代表として話をつけるしかなさそうだわ」

 みんなは一斉に頷いた。

整理でき次第、続き投稿いたします

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