エピローグ
天正十年六月二日。
燃え上がる本能寺で、その男は自害しようとしていた。
蘭丸はその男の元へと急いだ。
天下統一まであと少し。ここで散るべきお方ではないと信じていた。
「殿。お迎えに上がりました……」
男は蘭丸の様子を見て既にこの世のものではないことを見抜いた。
「人を捨てたか」
「屍人となれば滅ぶこともありませぬ。さあ、我らとともに……」
男は眉をひそめた。
「我ら?他にも人を捨てた愚か者がいると申すか」
「帰蝶様にござります」
「お濃か。哀れな女よ」
男は焼け落ちる寺の中で舞を舞った。
「人間五十年……」
下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり、一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。
「生者には生者の天命がある。ここで生き長らえて人を捨てるぐらいならば、死して第六天魔王とならん」
「殿……帰蝶様は殿のお帰りを今か今かとお待ちになっておりまする。どうか帰蝶様の御心も汲んで下さいっ!」
「諄い!お濃に伝えよ!良き人生であったわ、と!」
男は哄笑し、散った。享年四十九であった。
帰蝶を倒してから、『退魔師』は通常運転に戻った。
厳柳は逃げた蘭丸を追って、また旅に出て行った。
「ほんっと、こっちは大変だったっていうのに……」
『食べ放題焼肉・牛鬼』で、まなは親に怒られたことでボヤいていた。
「まぁ、心配なのよ」
まなを抱き寄せながら、瑠花はそう言った。
「そりゃ分かりますけどぉ……」
瑠花にぴとっと引っ付いて甘える。
「そういえば、大分安定してきたね」
「そうですね」
霊視するとオーラも金色めいてきている。もう少しで安定だった。
「やっぱり性欲も満たしたからかしら」
「ぶ……み、満たしてませんっ!」
「え、そぉ?帰蝶さんと随分楽しそうだったけどぉ?」
「い、意地悪ぅ……」
瑠花はくすくすと笑ってまなの唇にちゅっとキスした。
「大丈夫。今度はちゃんとあたしが性欲満たしてあげるから」
顔が急に火照るような気がした。
「だ、だめですよ……まだ未成年なんですから……」
「それじゃ、ずーっと未成年じゃない」
「ぅ……まぁ、そうですけど……せめてあと二年は待ってくださいっ」
「えー。待てないー」
「ダメあるよっ!瑠花さんと初体験するのはわたしあるねっ!」
「まなちゃんをいただくのはワタシアルっ!」
「あのー、食事中に生々しい話するのやめてくれないかなぁ……」
隼人の言葉でみんなしゅんっと落ち着く。
「じゃあ、今回の仕事だけど……」
桜子が口を開いた。
ごく簡単なポルターガイストの依頼。
「いや、そのー……やっぱそういうの苦手なんですけどぉ……」
「何言ってるの。まなちゃんが霊視しないとポルターガイストなんて把握出来ないんだから。頑張って」
まなは剣自体は美蘭に返していた。『ラクシャーシー』になるのが怖いから、元の持ち主である美蘭が持っていた方がいいということだった。それだけにまなの役割は霊視が全てであった。
「わかってるけど、怖いものは怖いーっ」
気がつくとまなの日常は異常なのが通常となっていたのだった。
と言うわけで、一旦完結です。
また続きは書くかもしれないし、書かないかもしれない。
スピンオフは考えてはいるんですが、なんとも。
とりあえず文庫本一冊分?ぐらい?書いたので満足ということで。




