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ゾンビなJKの異常な日常  作者: 結愛りりす
第四章
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第四章-4

 決戦地、金華山。

 こちらから討って出たことは気付いているのかどうかは分からないが、麓に辿り着くまでに妨害に遭うことはなかった。もし気付いているとしたら迎え撃つつもりなのかもしれなかった。

「不気味なぐらい静かですね」

 午後三時。日は少し西に傾いたぐらいでまだまだ太陽は出ている。

「夜戦うよりはいいんじゃないかな」

 そうは言っても相手は地下にいるのだから、太陽の有無は関係はないだろう。要は気分の問題である。

「あ、そうだ」

 まなはラインで全員に蘭丸から聞いた瑠花の記憶を取り戻す方法を打ち込んで回した。

「これは?」

「万が一私があっちの陣営に行っちゃっても、大丈夫なように送っておきます」

 もちろんあっちの陣営に回る気はさらさら無いが、何がどうなるか分からない。まなは覚悟を決めていた。

 瑠花がまなをきゅっと抱き締める。

「ありがと。でも大丈夫。まなちゃんのことは私が守ってあげるから」

 まなはきゅんと胸が高鳴る。こくんっと腕の中で頷いた。

 例の入り口に辿り着いた。先頭切ってまなが入って行く。それに瑠花、桜子、隼人、厳柳、亜衣、美蘭と続き、最後尾に礼司がついた。背後を警戒するためである。

 しばらく進むと、例の廊下に出た。両側の襖からは霊気は漏れてこない。前回でグールは全滅してしまったからだろう。

 そのまま真っ直ぐ進む。するとあの広間の襖が見えて来た。その前に人影が二つあった。

「やあ、待ってたよ」

 蘭丸と美鈴であった。

「帰蝶さまがお待ちアル」

「美鈴っ!」

 美蘭が駆け寄ろうとする。それをまなは止めた。

「今はまだダメだよ。帰蝶さんに操られている」

「っく……」

 二人は同時に襖を左右に開いた。正面に御簾が見え、その前に帰蝶が立っていた。

「また来たかぇ」

 蘭丸と美鈴がさっと中に入り、そのまま帰蝶の前に立ちはだかった。

「今度は美鈴を取り返しに来ました」

 桜子が抜刀の構えを見せた。

「ふふ……まぁ、構わぬ。しかしわざわざ月丘殿まで届けてくれるとは親切な者たちじゃのう」

 帰蝶はまなに手招きした。

 帰蝶の左手には羅刹の宝剣が握られていた。

 ふわっと甘い香りがまなの鼻腔をくすぐる。あの甘い香りと甘い声に心が蕩けそうになった。

「我が愛しい月丘殿、妾と今一度契りを交そうぞ……」

「帰蝶……さま……」

 まなはふらふらとその甘い誘惑の声に乗る。甘美な時間が思い起こされ、またその官能に酔いしれたくなった。

「っく、いかんっ!」

 隼人と桜子が前に進み出ると、蘭丸と美鈴が前に立ちはだかった。

「邪魔はさせないよ」

「ワタシ達が相手するネ」

 蘭丸の刀が桜子の刀と打ち合う。同時に美鈴のかぎ爪が隼人の警棒と交わった。

 まなは胸のときめきを隠せないでいた。ふわっと抱き寄せられると、またあの愛しい気持ちが湧いて来た。

 だめだ、と思っても後から後から噴き出して来るのである。

 帰蝶の妖艶な唇がまなの唇を容易に奪う。舌が絡み合い、抵抗しきれない。

「ふふ……そちの剣もここにある……愛しい月丘殿……あの者達を倒すのじゃ……」

 再び口付けようとした時、ぽおっと蕩けたまなの心に響く声が聞こえた。

「まなちゃんっ!」

 瑠花の声だ。瑠花が自分に呼びかけている。

「そっちへ行ってはだめっ!」

 瑠花が呼んでいる。

「まなちゃんっ!」

 瑠花さん……愛しい瑠花さん……。

「うあああああああぁぁぁぁっ!」

 まなは帰蝶を突き飛ばすと、その左手目掛けて木刀を振り下ろした。ばしぃっと確かな手応えとともに、剣が畳の上に落ちた。

「何っ!」

 己の術に自信のあった帰蝶は、まさかそれがまなに破られるとは思っていなかった。

「この愚か者めが……」

 まなは畳の上に落ちた剣を拾いに行こうとしたが、帰蝶の影から現れた黒い手によってそれを阻まれた。

「月岡まな……そちも妾を見捨て、生者にこだわるか……あの男のようにっ!」

 剣は再び帰蝶の手に戻る。

「私には、死者も生者も関係ないっ!」

「ならば何にこだわるというのかっ!」

 まなは木刀を構えながら、ちらっと瑠花を見た。

「私は、大好きな人と、一緒に楽しい時間を過ごすことにこだわりたいだけっ!」

 まなが帰蝶の左手に攻撃を仕掛ける。剣術の心得もないまなはただ振り回すだけだが、それでも当たれば相当なダメージなる。まなの木刀の先が帰蝶の左手に迫った。すると畳に広がった帰蝶の影から何かが飛び出して来た。いつもの腕ではなく、まるで帰蝶の影で作られたような黒い槍だ。その一本が、まなの体を貫いた。

「くぅっ……!」

 衝撃で瑠花の前まで跳ね飛ばされた。まなの腹には一つ穴が空いていたが、それも時間とともに閉じていく。

「まなちゃんっ!」

「大丈夫……まだいけますっ!」

「まなちゃん、一対一は分が悪いぜ。俺も行く!」

「拙僧も加勢致す!」

 礼司と厳柳がまなの横に並んだ。

「狙いはとにかくあの剣を取り返すことやな」

 亜衣がそれをサポートするように後ろに立つ。

「にしても、あの影がやべぇ」

 すると瑠花が言った。

「あれは死霊術の一つよ。死霊を具現化し、自在に操っているのだけれど……」

 しかし物理攻撃が可能となるまで具現化するとは。瑠花は不死の王と名乗る怪物の力をまざまざと見せつけられた気分だった。

「なるほど。死霊であったか。なら拙僧らの得意分野ではないか」

「体が傷付くからどんな魔術かと思ったけど、それなら大丈夫や」

 亜衣が式神を放つ。それは帰蝶の周りを囲むように五角形に並んだ。

「場を浄化する。あの変な影を封じたるっ」

「攻撃目標はあの左手。いくぜっ」

「はいっ!」

 三人一斉にかかる。と同時に帰蝶の周りに結界が生じた。

 死霊の手は出て来ない。場が浄化され、死霊を出すことが出来なくなっているのだ。

「小癪な真似を……」

「喰らえっ!炎式斬霊刀っ!」

「吽っ!」

「てやぁぁっ!」

 帰蝶は左手の剣をぶんっと振り回した。すると三人が一斉に吹き飛ばされた。特に礼司は一番踏み込んでいたため、その攻撃をまともに受け、壁に叩きつけられた。

「ぐはっ!」

 余裕の表情で帰蝶はその結界の中で哄笑した。

「愚かじゃのぅ……死霊を封じれば勝機があるとでも思うたか……そちらの攻撃なぞ、妾にとっては蚊のようなものじゃ……」

 まなは思い出していた。前に瑠花に言われたことを。ノーライフキングの力は人間を股から引き裂くことが出来るほどの力を持っている、と。つまり死霊術を封じたところで、単純な腕力でも敵いはしないのだ。

「どうすれば……」

 人間である礼司や厳柳ではいくら鍛えていても限界がある。必然的にまな自身が戦う必要があった。

 他のみんなは蘭丸と美鈴の相手で手いっぱいだ。

 桜子は蘭丸と互角に打ち合っている。いや、疲労度という意味ではやや桜子が押されているが、技術面でそこをカバーして負けてはいなかった。

 隼人は美蘭と共に美鈴を相手にしていた。二対一だけにまだ互角に渡り合っていると言ってもいい。

「亜衣ちゃん……あの結界、解いて」

 瑠花が前に進み出る。

「何する気や」

「死霊術で対抗する」

「本気かいな。無茶やで、あんな化け物」

「無茶かどうかはやってみないと分かんないでしょ。それにうまくいけばあの剣を奪えるかもしれない」

 瑠花は羊皮紙に魔法陣を描いた。

「あの結界があったらあたしの死霊術も彼女に届かない。お願い」

「分かった。あんたに賭けるでっ!」

 亜衣は結界を解く。

「ふん、何の真似じゃ。封じたり解いたり、忙しいのう」

 瑠花はすぐに呪文の詠唱に移る。帰蝶は影を広げ始めた。

「瑠花殿を守れっ!」

 厳柳、礼司がその援護に回る。影から無数の手が瑠花を襲おうと伸ばして来た。

「ふんっ!」

 礼司が炎式斬霊刀でその腕を焼き払う。厳柳も宝棒で薙ぎ倒した。

「どうする気や」

 亜衣もいつでも浄化できるように式神をスタンバイさせる。

 瑠花は周りに流されることなく呪文を唱え続け、トランス状態に入って行った。

「くそっ!数が多すぎるっ!」

 礼司が焼き払いながらも次々襲いかかってくる黒い手の波状攻撃に耐えながらも音を上げ始めた。

 まなは木刀を構えて待った。瑠花と打ち合わせした訳ではない。しかし何故か彼女の意図が何となく分かった。まなは瑠花の合図を待つだけでいい。合図が来たら、あの左手を攻撃しに行けばいい。

「今だっ!」

 瑠花が叫んだ。まなは人間には追いつけないスピードで猛ダッシュした。

 その狙いが左手であることを分かっている帰蝶は、その左手を振り上げた。

 次の瞬間、黒い手の一つが槍の形になり、帰蝶の左手を貫いた。

「何っ!」

「やああぁぁっ!」

 まなの無茶苦茶に振った木刀が、その左手にヒットする。ばしぃっ!と弾く音がして、剣が畳の上に落ちた。今度はそれを素早く拾い上げることに成功した。

「よしっ!上手くいった!」

「な、何したん?」

「相手の死霊の中に自分の操る死霊を忍ばせただけよ。同じ術で」

 青白い炎が瞬く間にまなを包み始めた。

「もう、迷わないっ!私は、瑠花さんのために戦うっ!」

 マスターのため、愛する人のため、まなは『羅刹』と化した。

「てやあああぁっ!!」

 まなはさらにスピードを上げて、帰蝶に斬りかかる。

「おのれぇっ!小細工をっ!」

「式神っ!」

 すかさず亜衣が帰蝶の死霊術を封じた。

 ずばっ!と帰蝶を左右に一刀両断にした。

「よしっ!……やった……か?」

 すると帰蝶の体がぐにゃりと変形する。

「くっ、ふふふっ、ふふふふふ……」

 帰蝶の顔が笑う。

「効いてないっ?」

 まなは瑠花のいるところまで引いた。

「蘭丸、美鈴、こちらに戻れ」

「はっ」「はいなっ」

 帰蝶の両断された体は左右別の生き物のように動き、文字通り元に戻って行った。服はさすがに切れたため、帰蝶はその美しい裸体を晒すことになったが、その体には刀傷一つ付いていなかった。

「なっ!」

「こ、これがノーライフキング……」

 瑠花もそのデタラメな再生能力を呆然と見るしかなかった。

「月丘殿、良い一撃であった。しかし、妾には届かぬ」

「いやぁ、色んな化け物見て来たつもりだったけど、これは別格だなぁ」

 ようやく蘭丸、美鈴との膠着状態を抜けた桜子と隼人、美蘭が集まって来た。

「瑠花さん、大丈夫あるか?」

「ええ、大丈夫」

 桜子が素早く指示を出した。

「美蘭さん。一人で美鈴さんの相手は出来るかしら?」

「これがあれば大丈夫ある」

 ヌンチャクを構えて見せて頷いた。

 そこへ厳柳が進み出た。

「蘭丸は拙僧が相手しよう。奴とは因縁深き故」

「わかりました。お願いします」

「あたしも蘭丸に当たります」

 瑠花がそう言った。帰蝶の死霊術を封じた方が戦いやすいのは間違いない。そうなると瑠花も死霊術を帰蝶に対して使えなくなる。それならば蘭丸に狙いを定めた方が戦力的には良いという判断だった。

 桜子は頷いた。

「それじゃ、七瀬さんは蘭丸と美鈴さんの遊撃をお願いするわ」

「らじゃー」

「残りの全員で帰蝶に当たりましょう」

 しかし弱点らしい弱点は見出せそうに無かった。

「ノーライフキングのイービルスピリットは心臓の位置にある」

 瑠花がそう言った。まなもそれは以前かすかに聞いた覚えがある。だから吸血鬼退治には心臓に杭を打ち込むのだ。

「それが分かってても、出来ないのが辛いところだなぁ」

「他に弱点が無いんやろか」

 亜衣が嘆くように言うと、まなが首を振った。

「いや、あると思います」

 みんなの目がまなに集まる。

「さっき一刀両断した時、わざわざ蘭丸さんと美鈴さんを呼び戻しました。あれは私達に追加攻撃されないようにするためだったのでは無いでしょうか。となると、あの時あっちは状況的に不利だったのでは」

「つまり、心臓をいきなり狙わなくても」

「もう一度同じ状況を作ることが出来れば勝機はあるってことか」

 全員が戦闘態勢に入る。

 ただもう一度一刀両断するような状況になるのかが甚だ疑問ではあった。

「とにかく、杉原さんは式神で死霊術を封じて下さい」

「あいよ」

 亜衣が式神の使役を始める。

「させないよっ!」

 そこへ蘭丸が飛び込んで来た。それを予想していた厳柳が宝棒で受け止める。

「おぬしの相手は拙僧だ」

「くっ……」

 そこへ美鈴が今度は飛び込んで来た。それを美蘭が受け止める。

「醒来(目を覚ませ)!美鈴!」

 姉妹は壮絶な打ち合いを始めた。

「よしっ!結界やっ!」

 亜衣の結界術が起動した。しかし帰蝶は余裕の表情で結界を眺めている。

「妾に小細工を労したところで、そちらに勝ち目は無いぞ?」

「そんなこたぁ、やってみなきゃ分かんねーだろーがよっ!」

「死霊術を封じられた今、貴女は力持ちのおねーさんってだけだからねぇ」

 ま、その力が半端ないんだけどね、と隼人は自分で言っておいて苦笑した。

「勝負は一瞬」

 桜子がそう言って、抜刀の構えになった。

「行くぜっ!」

 先鋒に礼司が走った。その後に隼人が続く。

「どりゃああっ!」

 出刃包丁に斬霊刀を被せ、突撃した。それを躱すことなく受け止める。どんっ!とぶつかり刺さるがもちろんそれは致命傷にならない。ぶんっ!と帰蝶が腕を振り回すとそれが礼司の左腕に当たった。

「危ないっ!」

 ばきっと腕の骨が折れる音がして、礼司は吹き飛ばされた。

「ぐはぁっ!」

 刺さった出刃包丁を引き抜き捨てる。その動作の間に隼人が滑り込んで足に警棒を打ち込んだ。一瞬、帰蝶の上体が揺らいだが、すぐに鋭い蹴りが繰り出され、隼人も吹き飛んだ。

 そこに桜子の白刃が帰蝶の胴目掛けて飛んで来た。それに対応しようとした時、その上からまなが飛んだ。

「たあああぁぁぁっ!」

 再び頭から股まで一刀両断に成功する。まなはさらに構えて追い打ちをかけようとした。

「蘭丸ぅっ!」

 帰蝶が叫ぶ。

「はっ!」

 蘭丸が厳柳との戦いを放棄して追い打ちをかけようとするまなに襲いかかろうとした。

「させぬっ!」

 その後頭部に目掛けて宝棒を投げ放った。

「ちぃっ!」

 その気配に気付き、振り返りざまに宝棒を薙ぎ払った。凄まじいスピードで弾かれた宝棒は瑠花に向かって飛んで行き、その目の前に突き立った。

 瑠花はその宝棒を引き抜いた。

 その時である。宝棒が淡い青白い光を帯び始めた。

「なっ!?」

 厳柳も驚きを隠せないでいた。

 宝棒が瑠花と共鳴しているのだ。そして瑠花を白い光が包む。

「何事じゃ……」

 周りで戦っていた者が思わず手を止めるぐらい強烈で、暖かい光だった。

「これは……」

 厳柳ははっとして真言を唱える。

「オン、ベイシラマナヤ、ソワカっ!」

 瑠花を包み込んだ光がぱんっとスパークした。それが蘭丸、そして美鈴をも壁まで吹き飛ばした。

 光の中に憤怒の表情の神が見えた。蘭丸が驚いて呟く。

「毘沙門天……」

 光が瑠花の中へと吸い込まれて行く。

「瑠花さん……?」

「まなちゃん、思い出した。全部……」

「思い出した?」

「記憶が……戻ったっ!」

 何が起こったのかみながわからない中、吹き飛ばされた蘭丸だけが理解した。

「なんだよ。毘沙門天呼び出すなんて反則じゃないか……」

 毘沙門天は羅刹を眷属とするいわばそのマスターである。厳柳は毘沙門天の真言を唱え、その加護を瑠花にかけたのだ。

 それが毘沙門天そのものを呼び出すことになろうとは。

 もっと焦っているのは帰蝶だった。帰蝶は真っ二つになったまま、心臓を露出させていた。ゆっくりと再生していく体。しかしそれを守る二人は吹き飛ばされて十分な隙が出来ていた。

「なんじゃ…何が起こった……毘沙門天なんぞ聞いておらぬっ!」

「帰蝶っ!覚悟っ!」

 まなと瑠花がそれぞれの宝剣、宝棒を持って無防備となった帰蝶の左胸へと攻撃を繰り出す。

「喰らえぇっ!」

 まなの剣が帰蝶の心臓に吸い込まれた。続いて瑠花の持った宝棒も心臓にどすっと突き立てられる。

「っくあああああぁぁぁぁっ!」

 断末魔の叫びが響いた。

 凄まじい地鳴りがし、帰蝶がよろめく

「なぜじゃ……なぜ、生者に味方する……生者の愛など偽りに過ぎぬのに……」

「嘘偽りじゃないと信じてこその愛だから。偽りばかりは愛とは言わない」

「おのれおのれおのれぇっ!」

 なおも立ち上がる帰蝶の胸に、もう一本、刀が突き立てられた。

 桜子の一閃だった。

「もう、いい加減、眠れっ!」

「この帰蝶……必ず……必ず蘇ってみせようぞ……」

 帰蝶はみるみる灰になった。そして真っ赤なルビーのような宝石がその灰の中から現れた。

「あれは……」

「イービルスピリットの結晶!あれを破壊しないと!」

 まなが慌ててそのルビーを壊しにかかる。しかし、それをさっと奪う者がいた。蘭丸だった。

「やれやれ。ボクもこのままお暇しようかなっとー」

 素早くルビーを懐に入れ、奥の襖の前に立った。

「待てっ!」

「キミ達とやり合うのは楽しかった。残念だけど、帰蝶さまのお姿が無くなった今、ボクはこれ以上戦う理由がない。待てと言われても待たないよ」

 そう言い残すと、蘭丸は奥へと消えた。追いかけたが見つからず、他の通路があるのだけが分かった。

 美鈴は命令する者が消えたため、フリーズしていた。美蘭が霊符を書いて額に貼る。

「あれ……姉さん……」

「後で書き換えあるな」

 左腕の骨を折った礼司が呟く。

「勝った……のか?」

 隼人が頷いた。

「あぁ……もうこんな仕事はごめんだけどね」


 瑠花の記憶はどういう訳か戻っていた。

 厳柳は宝棒を瑠花が握った瞬間共鳴して光ったことに何か理由がありそうだと言ったが、当のまなや瑠花にはどうでも良く、素直に治ったことに喜んだ。

「やっぱ、『羅刹』の主人だから『毘沙門天』のなんか関係者になるんじゃないの?」

 隼人が適当にそう言っていたが、案外そうかもしれぬ、と厳柳は呟いた。

 美鈴は再度美蘭を主人にして戻った。礼司が骨折して焼肉屋の仕事が難しいため、美鈴がバイト代わりに助っ人として働いてくれることになった。

 亜衣と沙樹はまるで何事も無かったかのように通常モードに戻っていた。沙樹に言わせると、帰ってくるのは信じていたので、ということだった。

「まあ、寺沢さんは大変でしたけど、みんな無事でよかったです」

 桜子はそう言って、自分のポケットマネーからみんなに二十万円ずつ支給してくれた。これだけで申し訳ないけど、と言っていたが、誰も文句は言わなかった。

 まなは親にこっぴどく怒られた。この土日、家に帰らず、また連絡もしなかったからだ。いくら甘い親でもこればかりはさすがに怒った。良い言い訳が思いつかず、遊んでいたら連絡するの忘れたと言ったら余計怒られた。お兄ちゃんまで心配していたのが何か申し訳なかった。

フルチ監督の「サンゲリア」を手に入れて喜んでいるりりすです。

こんばんは。

バトル展開になったのはいいけれど、バトル書く難しさを痛感しました。

もっと上手に描けるように精進します。

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