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ゾンビなJKの異常な日常  作者: 結愛りりす
第四章
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第四章-1

 まなは布団の中に包まっていた。

 自分がふと自然の摂理に反した存在であることに思いを馳せる。

 自然の摂理に反した罪な存在だからこそ、神様は自分にこのような因果応報を準備していたのではないかと思ってしまう。

 昨日の瑠花の言葉が何度も何度も頭の中に響いた。

(私のこと、何も覚えていない……)

 自分が看護師であること、ネクロマンサーであること、『エゾルチスタ』のメンバーであることなどは覚えているらしかった。まなのことは綺麗に切り取られたかのように覚えていない。

「まな、学校遅れるぞ」

「うん……」

 お兄ちゃんにいつものように起こされる。しかしいつもの調子で起きれない。心が重かった。

「大丈夫か?」

「……分かんない」

 いつも仲良くしていた瑠花に起きた異変のことは家族は知っている。昨日泣きながら帰ってきたまなに聞いたから。

 さすがのお兄ちゃんも両親もまなにかける言葉は見つからなかった。

「休みたきゃ休んでもいいだろうけど……」

「行く……」

 朝ご飯のテーブルに着く。こんなに悲しくても、こんなにやり切れなくても食欲だけはあるというこの肉体に嫌気がさす。

「それじゃ、いってきます……」

 暗い気持ちのまま家を出た。外には美鈴が待っている。

「你好」

 そっとまなに寄り添うように歩き出した。

「大丈夫アルか?」

「ん……平気……ではないかな……」

 主とアンデッドの関係は瑠花の霊体がダメージを受けた時点で解消されてしまった。それでも瑠花の目が覚めれば今まで通り瑠花のために何でもしようと考えてもいた。そうすることで主従を超えた何かで繋がれるとも思っていた。それなのに……。

「寂しいな……」

「そうアルな……」

 学校に着いても基本的には陰に籠っていた。かんなと凛も心配してくれたが、二人には大丈夫、としか答えられなかった。

 あっという間に放課後が訪れる。この一日、まなはため息しか吐いていない気がした。

「どうするアルか?」

「ん……」

「お見舞い」

 昨日までの習慣。放課後には必ず訪れていた病院。昨日のショックから立ち直れてはいない。あれは一時的なもので今日行けば記憶が戻っているかもしれないという期待もあるが戻っていないかもしれないという不安もある。

「どうしよかな……」

「行くだけ行くアルよろし」

 ぽんっとまなの頭に手を乗せ、そのまま撫でた。

「うん……」

「一時的なものかもしれないアルし、会っているうちに治るかもしれないアル。ワタシも覚えられてなかったアルからなぁ」

 そう、記憶障害はまなだけに限ったことではなかった。言い換えればまなと知り合って以降のことをほとんど何も覚えていないのだ。だから劉姉妹のことはもちろん、巌柳のこと、少年のグールのことも覚えていなかった。蘭丸のことすら覚えていなかった。下呂のことはおぼろげながら覚えているようだったが、より過去との記憶が混ざっていて不確かだった。

「行こ」

 美鈴に引っ張られるように、帰りとは逆の病院行きの列車に乗る。

 正直会うのが怖い。まなは美鈴の手をきゅっと握りしめた。

「このまま思い出してもらえなかったらどうしよう」

 霊体が斬られたことによるダメージというのは治るものなのだろうか。それすらも分からない。むしろそういうことに詳しいのが当の瑠花かもしれなかった。

「その時はまた一から関係を築くしかないアル」

 美鈴は明快にそう言った。

「でも、今までとは違う関係性になる可能性もあるよね」

「んー……」

 そこまでは確かに美鈴も保証出来ない。もう一度まなのことを理解してもらい、関係性を築き上げていくのがベストなのは分かるが、元の恋人に戻れるかどうかは別問題だ。

 病院までの足取りが重い。しかし重い足取りでもその内辿り着いてしまう。まなはゆっくりと病室へと向かった。

 昨日とは違い、瑠花は笑顔で迎えてくれた。一瞬記憶が戻ったのかと思ったがそういう訳ではなく、昨日の今日で覚えてくれていただけのようだった。

「桜子さんから色々説明は聞いたわ。あなた、私の作り出したゾンビなんだってね」

「はい、そうです。でも、今は契約が切れて状態としてはフリーなんですけど」

 チョーカーを外して首のロープ痕を見せる。それがゾンビである証だから。

「なるほど、ね……。で、そっちの子はキョンシーって訳だ」

「そうアルよ。本当に何も覚えてないアルか?」

 瑠花は俯いて呟くように言った。

「靄がかかったように思い出せないの。覚えてる日付から今まで一か月以上経っていることを考えると、間違いなくその間に築いた関係なんだろうけど……」

「私との関係も覚えてないんですか……?」

 瑠花はため息を吐いた。

「元々主従関係っていうのは理解出来るんだけどね……記憶が無いからぴんと来ないの」

「いえ、そうじゃなくて……」

 それを超えた、もっと深い関係だった。そう言いたかった。しかしそれが瑠花には伝わらない。

「そうじゃなくて?」

 言って良いのかどうか分からない。どう感じ取られるのかが怖かった。だってゾンビと恋人同士なんてどうかしているとしか言いようがない。

「いえ……いいです……」

 まなは項垂れてそう言った。

 代わって美鈴が口を開いた。

「どうして記憶を失ったかは聞いたアルか?」

「ええ、昨日桜子さんから聞いたわ。その……蘭丸だっけ?斬られて霊体にダメージを受けたからと説明されたけど」

「治る方法は無いアルか?」

 傷付けられた霊体を元に戻す方法……。それがあればもしかしたら記憶が戻るかもしれない。しかし瑠花の答えは消極的なものだった。

「私の知っている限りでは聞いたことが無いの……」

 まなの瞳に涙が浮かぶ。もしかしてこのままなの?初めて出会った大事な人との関係がこれで終わっちゃうの?一から築き直すにしても、本当に元に戻れる確証もない。不安な気持ち悲しい気持ちがどんどん溢れて来た。

 しかし、最後は精一杯の笑顔を作って、瑠花を見つめて言った。

「とりあえず、今は体を治すのが先決ですから……早く……早く良くなってくださいね」

 ため息をつきながら二人は病院を後にした。

「治す方法も結局無いのかな」

 そもそも霊体という曖昧な、霊視でもしない限り見えない物を治療すること自体無茶な話な気がした。ゲームの世界ならそういう便利な魔法とかありそうだが、現実には難しそうだった。

 悲しい気持ちのまま、病院の門をくぐった。その瞬間、物凄いスピードでまなの首に目掛けて何かが飛んできた。強力な冷たい霊気も感じる。咄嗟に体を開いてその飛んできた物を躱そうとした。同時に美鈴の素早い蹴りがその軌道を跳ね上げたため、まなへの攻撃は完全に外れてしまった。

「やっぱりカモフラージュ無しの正面攻撃じゃ不意打ちも難しいなぁ」

「ら、蘭丸……っ!」

 蘭丸はぱっと飛び退る。同時に美鈴がまなの前に立って守った。しかし、蘭丸はさっさと刀をしまってしまった。戦意はないよと言う風に両手をあげる。

「当たればラッキーかなと思って攻撃しただけさ。正面切っていって二人も相手に出来る自信はないよ。それに白昼堂々と大立ち回りする訳にいかないだろう?」

 へらへらと笑いながら、蘭丸はそう言った。

「何しに来たアルか?」

「んー、ボクはもう諦めてるんだけどね。うちの主がキミたちのことを欲しがって欲しがって、少々ボクも辟易してるんだよね。特にまな君。キミが欲しいらしいよ」

 蘭丸も困り果てた顔をしていた。どうやら主の命令でここまで来たようだった。

「『ラクシャーシー』の可能性を秘めるキミをどうしても手元に置きたいんだろうけどねー。まぁ、どうせ答えは否だろうから、ちゃっちゃとボクに殺されてくれないかな、とは思うんだけど……」

「……傷付いた霊体を治す方法はないんですか」

 唐突にまながそう聞く。え?という顔を蘭丸はした。

「傷付いた霊体を治す方法です。あなたに斬られた瑠花さんは記憶を無くしました」

「ありゃ、そんな副作用があったとは。それはそれは」

「治す方法もあるんじゃないですか?」

 まなも確信があって聞いた訳ではない。こちら側の人間では誰もその方法が分からない。ならばと藁をもすがる気持ちだった。

「無くはないよ。だって、キミらだって悪霊を倒した後、その悪霊がどうなるか知ってるだろう?」

「……消える?」

「あははは、消えない消えない。これ以上は内緒にしておこうかな。キミがこっちに来れば色々教えてあげるよ。とりあえず今日はこれで退散させてもらう」

「あ、待って……」

 ぱっと身を翻すと、蘭丸は物凄い速さで視界から消えた。


「礼司さん。悪霊って倒したらどうなるんですか?」

「消える」

「ごめんなさい。聞いた相手を間違えました」

「え?ええ?なんで?消えるんじゃねーの?」

 まな達は『食べ放題焼肉・牛鬼』で『エゾルチスタ』メンバーの到着を待っていた。とりあえず今日のことを報告しようと思ってまなの呼びかけで緊急招集をかけてもらったのである。

「成仏する、ですよ」

 沙樹が呆れたように答えた。

「成仏……ってどういうことですか?」

 言葉では一般的に「死ぬ」という意味に使われる。しかし既に死んでいる悪霊に対しては別の意味になるだろう。

「そりゃー、字の如く、仏になる、じゃないです?」

 どうやらこういう話になってくると巌柳あたりに聞いた方が良さそうだ。

「何で急にそんなことを?」

「そこに、瑠花さんを元に戻すヒントがあるみたいなので」

「成仏、にか」

 礼司も語感だけではぴんと来ないようだった。

 しばらく待つと、そこへ隼人がやって来た。

「おや、意外に集まり悪いね。亜衣ちゃんとリーダーと美蘭ちゃんがまだか」

 巌柳も呼んでいるが、隼人にはそこまで意識が届いてないようだった。

 そんな隼人に、まなは来るなり質問をぶつけてみた。

「隼人さん、悪霊って倒したらどうなるんですか?」

「ん?成仏する」

「おー、さすが」

 まるで何かの確認テストのようだ。

「んー?それ以外の答えあるの?」

「いえいえ、大丈夫、正解ですよー」

 その後にやってきた亜衣は別の答えだった。

「浄化される」

「新しい答えですね」

 違うの?って顔で亜衣は沙樹の顔を見た。

「みんな成仏するって」

「あぁ、なるほど。うち神道やから。ごめんな、他意は無いんやけど、神道では死んだ人は不浄なものとして扱われるねんなー。ただ浄化も成仏も根底の意味は変わらんと思うけどな」

 悪霊の悪の部分が浄化されて普通の霊になる。悪霊が成仏して普通の霊になる。何か共通点は無いか考え込んでしまう。

「で、何でそんなこと気にしてんの?」

「瑠花さんを治すヒントが隠されてるらしい」

 浄化という言葉にも何かヒントが隠されているのだろうか。浄化と成仏の間の共通点。それが一つのヒントのような気がした。

 そうこうしているうちに、リーダー、美蘭、巌柳が次々にやってきて、全員揃った。まなが率先して集めた会だからまなから話さないといけない。しかし考え事の方が多くて考えがまとまらず、どこから話していいのか少し迷う。仕方なく起こった事実から話すことにした。

「今日また蘭丸からの接触がありました」

 不意打ちをしてきたがそれは躱したこと。そしてその一撃だけで攻撃をやめてしまったこと。再度勧誘を受けたこと。そして瑠花を治すヒントだけ語ったこと。

「それだけ話して去って行きました。報告としてはこれだけですけど」

「命を狙うと言っている割にはおしゃべりの好きな奴だな」

 礼司が鼻で笑いながらそう言った。確かに襲撃よりも話す事の方が多い気がする。今日も襲撃を受けたと言えば受けたが、あまり本気ではなさそうだったし、それらしい襲撃は瑠花が負傷したあの襲撃以外にはない。

「それは多分主の意向を忖度した結果じゃないかな。現に本人はもう諦めていると言っていた訳だし」

 隼人の言葉には一理ある。アンデッドは主の命令には背けない。主の命令が曖昧な場合はその本音の方を優先してしまう。つまり彼の主は積極的にまなを殺したい訳ではないのだろう。

「あっちの立場に立って言うなら、月丘さんのことはさっさと殺した方が話は早い。だけど彼の主は出来れば仲間にしたい、だからどうしても殺すという選択肢は二の次になってしまう。そんなところかしらね」

 桜子のまとめにみんなが頷く。

「同時に美鈴の睨みも効いてると思うあるけどなぁ」

 美蘭が呟くように主張したが、あながちそれも間違いではなさそうだった。

 最近の美蘭も元気はない。瑠花が負傷しただけでなく、自分のことも忘れ去られてしまったから無理もない。

「相乗効果はあると思います。二人がかりは骨が折れるとか、何とか……とにかく積極的に攻撃しにくいという意味のことを言っていましたし……」

 もし彼の主が本気で殺せと命じれば、なりふり構わず来るだろうが、そうでない上に強力な助っ人がいるとなると攻めあぐねているのだろう。

「後、瑠花さんの霊体を治すヒントですが……全てのことは仲間になれば教えてやると言われました……」

 これには美蘭も体を乗り出した。

「どういうことあるか?」

「傷付いた霊体を治す方法があるらしいです。それが悪霊を祓った時に起こる現象にヒントがあるみたいなんです……ただ、全てを知りたければ仲間になれということらしいですけど……」

 まなは厳柳の方を見た。

「厳柳さん。悪霊って祓ったら、どうなるんですか?成仏するっていうのは分かったんですが……」

 悪霊を倒す、即ち霊体を傷付ける行為である。

 礼司なら炎式霊斬刀でダイレクトに斬っているし、美蘭もあの仏具である剣で断ち切っている。美鈴もかぎ爪で切り裂くし、他のメンバーもそれぞれ聖儀式を受けた武器で霊体を攻撃出来る。

 しかし断ち切られた霊体は断ち切られたままではない。成仏ないし浄化され、普通の霊体として死後の世界へ旅立って行く。その時には霊体としては元に戻っているはずなのである。

「霊として位階を一つ押し上げていると言っても良いかもしれぬな」

「前に瑠花さんが言っていたゾンビとワイトの関係みたいな話ですね」

 霊的にクラスが一つ上。普通の人間が死ぬとゾンビになるが、霊的修行を修めた人間が死ぬとワイトになるという理屈。

「仏教では菩薩五十二位という考え方がある。それと似たようなものかもしれぬ」

 菩薩とは仏教で言う修行段階を示す言葉である。その段階が五十二段階あり、十信、十住、十行、十廻向、十地の五十段階を経た後、等覚、妙覚で完成する。最終段階の妙覚という位までいけば如来と同じと目される。

 もちろんそれは仏教的な考え方ではあるが、それを参考に考えるなら、成仏とは位階を一つ押し上げる行為に準ずると考えられる。

「と言うことは、瑠花ちゃんの霊的な位階を一つ押し上げてやれば、元に戻る可能性があるってことかい?」

 隼人のまとめに厳柳は頷いた。

「可能性はある、と言うことだろうな」

 問題はその方法である。悪霊なら倒すことで何とかなるのだが、悪霊でもない瑠花の場合は祓っても効果は薄いだろう。下手すればさらに霊体を傷付ける可能性だってある。

 仏門に入って修行してもらうというのが一番現実的か……。

「そこで提案なんですが」

 まなが挙手して言った。

「仲間に、なろうかな……と思います」

 全員が驚いた顔でまなを見る。

「な、仲間になるって、やつらのアルか?」

「うん……」

「そんなアホなこと……」

 皆がざわめく中、桜子が口を開いた。

「何か勝算はあるの?」

「彼らは彼らで瑠花さんを元に戻す方法を知っているのかもしれません。それを聞き出します」

「まなちゃんはどうするんだ?」

 礼司が腕組みしながら眉をひそめて聞いた。聞き出したところでそれをこちらに伝えないことには意味がない。それにあっちの仲間になるという時点でこちらとの接点は断たれることを意味している。

「私は今フリーの状態なので、恐らくあちらの主と主従関係を結ぶことになると思います。きっと、みんなと戦う側に属しちゃうし、もしかしたら誰かを傷付けちゃうかもしれません。……でも、信じてます」

 まなはにこっと笑った。作り笑いじゃなく、太陽の木漏れ日のような笑顔だった。

「きっと、みなさんが私のこと、助けてくれるって」

 しばし沈黙が流れた。数分の後、隼人が口を開く。

「もし彼らが思わせぶりなだけで、本当は治療の仕方など知らなかった場合は?」

「その時はまた一から瑠花さんと向き合おうと思います。いずれにしても、助けてもらう前提ですけどね」

 再び沈黙が流れる。沈黙を破ったのは礼司だった。

「しょーがねーな。まなちゃんに良いところ見せるとするか」

 隼人も頷く。

「危険は承知の上だし、仕方ないかねぇ」

 亜衣は和紙を数えながら呟いた。

「式神何体いるんやろな」

 美蘭はまなに拳を突き出して言った。

「必ず助けるあるよ。競争相手がいないと、盛り上がらないあるからな」

 桜子も頷いて言った。

「じゃあ、蘭丸とその主に対し、『エゾルチスタ』は討って出るでいいわね。潜入は月丘さん。その救助は美蘭さん、美鈴さん、結城さん、私の四人。対蘭丸は華山院厳柳さん、寺沢さん、杉原さんの三人。西野さんはオペレーターとして全体の指揮をお願いするわ。作戦決行は……みんなの都合を合わせるから、追って連絡かしらね」

「じゃあその方向で」

 作戦は決まった。

 しかし美鈴の気持ちは複雑だった。作戦としては悪くない。でもまなを危険に晒すのは気が引けた。そして何より瑠花のために自分の身を危険に晒すという瑠花への思いにも嫉妬めいた気持ちが湧いた。

 帰りは例によって桜子の車で送ってもらった。

「ねえ、まなちゃん」

 美鈴はまなの手をそっと握った。

「……ん?」

 そっと握り返しながら美鈴の顔を見る。

「今日、まなちゃんの家に泊まっていいアルか?」

「うん、いいよ?お母さんに連絡しとくね」

 そっと手を解いて素早くラインを打ち込む。二つ返事でOKが出た。

「もうすぐ、警護は終わりになっちゃうね」

「そうアルな。だから少し一緒にいたいアル……」


 深夜。まなはベッドの上、美鈴は床に布団を敷いて寝転んでいた。

 美鈴は寝付けないでいた。アンデッドのくせに寝付けないことがあるんだと不思議な感覚を覚える。

 そっと時計を見る。午前一時過ぎを指していた。おやすみ、を言い合って二時間ぐらい経ったことになる。

「……まなちゃん、寝たアルか?」

 そっと起き上がってまなを見る。まなは向こうを向いていて起きているかどうかは分からない。すると声だけが返って来た。

「んーん……起きてる」

 ゆっくりとまなが振り返った。その瞳は涙で濡れていた。

「まなちゃん……泣いてるアルか?大丈夫アルか?」

「ん……」

 慌てて涙を拭いて何事もなかったように笑顔を作る。もう涙目を見てしまっているのだから取り繕っても無駄なのだが、それでも空元気を見せようとしていた。

「うん、大丈夫」

「……そう」

 美鈴は起き上がって、ベッド脇に座って、まなの顔を覗き込んだ。

「怖いアルか……?」

 まなの髪をゆっくり撫でる。さらさらの髪は上質の絹のようで、今更ながら綺麗な髪をしていることに気付く。

「うん……でも、いつかは相手にしなきゃならない相手だし……瑠花さんのことも考えたら今の作戦が一番マシなんじゃないかなって思うから」

「そうアルけど……無謀な作戦を思いついたアルな」

 ベターな選択かもしれないが、ベストかどうかは分からない。もっといい方法があったのではないか、という疑問が美鈴の頭に湧いて来る。しかしそれに代わる案というのはどうしても湧いて来なかった。

 まなもゆっくりと上半身だけ起こし、美鈴の隣に座った。

「確かに、何をされるのか分からないし、あっちの主と契約したら、それこそみんなと戦わされるんじゃないかって思っちゃう……。そう考えると、怖いよ……」

 不安な面持ちのまなの肩に美鈴は腕を回して抱き寄せた。『エゾルチスタ』で一番小さく、一番年下で、一番戦いに慣れていないまなが敵陣奥深くに潜入するのだ。怖く無い訳がない。出来ることなら変わってやりたかった。しかしあちら側はまなを所望している。

「あっちに行って欲しくないアルよ……」

「うん……」

 それはまなも同感だった。出来ることならみんなと一緒に並んでいたかった。同じ側に立っていたかった。

 屍人の集まりとはどういうものなんだろう。蘭丸がどんな陣営の中にいるのか想像も出来ない。

「でも、助けてくれるって信じてる」

 まなは美鈴の顔をじっと見つめた。助けてくれることに対しては絶対の信頼を寄せる眼差しだった。美鈴はまなの細い体をぎゅっと抱き締めた。

「当たり前アルよ。それは約束するアル」

「……嬉しい」

 ふと顔を付き合わせる。ほんの数センチの距離で目が合った。視線が甘く絡み合い、まなの胸がきゅんと締め付けられた。

「……抵抗、するアルか?」

 悪戯っぽく、美鈴が聞く。彼女の指先がまなの頰から顎をなぞり、唇へと伝った。

「……抵抗、した方がいい?」

 美鈴の気持ちは知っている。もしうまく行かなければ、全て終わり。二度と美鈴にも会えないかもしれない。だから、今夜だけは許してあげたい。

 瑠花さんも許してくれるよね……ダメかな?

「今夜のことは、二人だけの内緒アルな」

 二人でくすくすと笑う。

 まなはそっと目を閉じた。美鈴の唇が近づく。あと一センチ。そして柔らかな感触を唇に感じた。僅かに開いた唇の隙間に、美鈴の舌がゆっくりと割って入って来た。

「ん……」

 美鈴はまなを抱きすくめた。まなも美鈴の背に腕を回し、熱い口付けを受け入れる。

「我愛你」

 外国語が分からないまなでもその言葉ぐらいは知っている。愛の告白だ。まなの胸はときめいた。しかしそのまま同じ言葉を返すことが出来ない。それがもどかしい。

「ありがと。私も好きだよ」

 そう答えてあげるのが精一杯だった。

もうすぐ佳境なのにネタ切れになりそうでそろそろやばいです。

こんばんは、りりすです。

みなさんいかがお過ごしですか。

まなちゃんっていじめられっ子なので押しが弱いんですね。

悪い男に騙されそう。

そして望まない修羅場に巻き込まれそう。

それでもまなちゃんは一生懸命なのです。応援よろしくお願いします。

評価、感想いただけると上がります。

けなされると凹みます。

こんな私も応援よろしくお願いします。

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