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領主への準備


 とりあえず一旦ギードの館に戻ることになった。


森の中をサガンと手をつないで歩くヨデヴァスは、誇らしげに父親を見上げていた。


「父さま、すごい!」を繰り返している。


「さっきからそればっかりだな。うるさいぞ」


苦笑いのサガンはまんざらでも無さげだった。


「あれが血統魔法ですかー」


ハクレイとフウレンの魔術師親子はしきりに唸っている。


ヨデヴァスの修行のために詳しいことは口には出来ないが、ハクレイは興味を示している息子と議論したくてうずうずしているようだ。





「ギドちゃん。ヨディは勇者なの?」


ユイリがギードの側に来て、ぽつりとそんなことを言い出す。


「勇者かどうかはまだ判断出来ないね。これからその血統にふさわしい男になれるかどうかだろう」


ヨデヴァスはまだ幼い。それに血統魔法だけが勇者を名乗れる要因ではない。


「サンダナは誰からも好かれる男性だったよ」


確かに強さは桁外けたはずれだった。でもそれ以上に、彼には親しみやすさがあった。


だからこそ、私兵たちも彼に付いてきたのだ。


「ヨディにもそういう男性になって欲しいね」


ギードは懐かしそうにサガンの姿を見ている。中身は違っていても、姿はあの頃のままである。


「ふぅん」


ユイリは少し不満気にうつむいて歩いていた。




 館に戻ると皆でお茶にする。


同行した勇者本家の元執事長は、ギード家の執事であるロキッドの師匠でもある。


ロキッドはお茶を入れながら、その老人の厳しい目に緊張しているのが見て取れた。


 ギードは置いて行かれたと騒ぐナティリアの機嫌を取りながら、広い接待用の部屋に全員を集めて今後の打ち合わせをしっかり行う。


ヨデヴァスとヨメイアだけでは不安だったからだ。


「絶対、ひとりでは行かないようにね」


ヨデヴァスはギードの言葉に「うん」と答えて、老人の視線に慌てて「はい」と言い直す。


「大丈夫です。私が必ず北東の門で見ておりますから」


じぃがそう請け負ってくれたので、ギードは少し安心した。




「私はわからないのですけど、『血が解読する』ってどんな感じなんでしょうか」


フウレンが身を乗り出してサガンに尋ねている。


血統魔法はその一族の中でも継承に値する者だけが発現するといわれている。


「うーん、感覚的なものだからねえ」


サガンは困った顔で、


「こう、なんというか、その時が来たら自然に『解る』んだよ」


と言う。それが『血が目覚めた』状態なのだそうだ。


「だが、その時はいつになるのか、誰にもわからない」




 実をいうと、ギードはサンダナが亡くなった時に、彼の『目覚めた血』を採取している。


いざという時はこれを使い、ヨデヴァスか、または血筋の中で優秀な者がいれば、その者を目覚めさせることにしている。


そのことはすでにサガンやじぃも承知していることだった。


その血をギードは地下の研究室に厳重に保管していた。すでに今回のため一度封印を解いて、サガンと共に中身を確認している。


「血統魔法かー、どんな魔法なのでしょう。わくわくしますね」


フウレンが無邪気にハクレイと話をしている。




 気が付くとミキリアがギードをじっと見ていた。


「なに?」


と聞くとミキリアはギードの側にやって来た。


「うちには無いの?、その魔法」


タミリアの実家は老舗の服飾商会だが、母親、ミキリアにとっては祖母になる女性は魔術師の一族出身であった。


それを知っている双子は、自分たちにも何か特別な魔法があるのでは、と期待しているようだ。




「いや、それはー」


ギードは「ない」と言いかけて、途中で止めてしまった。


「そうねー。うちの家系にはなかったと思うけど」


その様子を見たタミリアが代わりに答える。


「エルフ族なら、案外、何かあるかも知れないわね」


孤児で両親の顔も知らないギードには、否定も肯定も出来ない話だ。


ギードは曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。


ミキリアはそれでも満足したのか、笑って頷いた。




 ヨデヴァスの修行の日程は、ギードが大神との交渉から戻ってからと決まった。


それまでは自由にしていて構わないという。


何年かかるかわからない、曖昧な計画である。


子供が闇雲に結界の場所に籠っても時間の無駄だと、サガンからは他の勉強も申し付けられている。


「それで、なんで私まで?」


翌朝、ヨメイアが客室で大声を出しているので廊下まで聞こえている。


夫であるサガンにくってかかっていた。


「ヨディの付き添いでしょ?」


ヨメイアにもついでに商会の接客講座や、礼儀作法の勉強時間が設けられたのだ。


「私たちばっかり!。じゃあガンちゃんは何をするのよ」


ふたりだけの時はヨメイアはサガンを『ガンちゃん』と呼ぶことがあった。




 サガンはヨメイアの腰をするりと抱き寄せ、大声を封じる。


「あの北東の入り口の館が完成したら、俺はこの町の領主になるんだそうだ」


ギードは、サガンならこの商国だけでなく周辺の小さな国々もまとめて面倒見てくれると思っている。


そのためサガンはギードが帰るまで、友人で領主であるシャルネの所で指導を受けることになった。


ヨメイアもヨデヴァスも唖然とした。


「なにそれ……、また戻るの?」


でもふたりにはそうしなければならない心当たりがあった。


ドラゴンの住処でのヨディの失態で、勇者一家はギードの申し出を断れない状態なのだ。


サガンはこれから煩雑な国のまつりごとを覚えるため忙しくなる。


「だからお前たちもがんばれ。領主の家族に相応しいようにな」


にやりと笑うガンコナーに、脳筋親子は背筋が寒くなった。




 その頃、ユイリはギードにヨデヴァスのお守りを言いつけられていた。


ヨデヴァスが獣人の子供たちと一緒にいる間、他の子に影響を与えないように見張るのだ。


「なんで僕がー」


文句を垂れ流しながら、朝食のパンケーキを突ついている。


ギードは薬草茶を入れたカップを持ち、一口すする。


「ユイはヨディのこと、嫌いか?」


言葉では表さないが、ぷうと頰を膨らませるところは素直である。


ふふっと笑ってはいるが、商会長でもあるギードは子供相手でも容赦はない。


「ユイは報告書にいっぱい反省を書いてたよね」


「あ」


ユイリはこれが自分に与えられた罰なのだと理解した。



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