検査の準備
「しかしガンコナーを、代理とはいえ商会長にですか」
実質ギードの右腕として商会を管理している土の最上位精霊のコンは顔を顰める。
「うーんと、正確には商会長ではなく、領主かな?」
商会のほうは今まで通りコンが代理でいいだろうとギードは言う。
将来、いずれ商会と国は分けなければならなくなる。
そのため、従業員ではない国民をまとめる者が必要になるのだ。
この国の住人は獣人や妖精が多い。おそらく純粋な人族では務まらない。
「ガンコナーならどちらからも非難はされないと思うよ」
しかも勇者の一族に詳しいし、息子は勇者の血統である。
商才は無くても構わない。ギードが彼に求めるものは統治だ。
「そのためにもヨデヴァスが勇者の血をどれくらい受け継いでいるのか、調べる必要があってね」
明日からその調査が始まるのだと言う。
翌朝、朝食の席で家族会議を行う。
「ユイ、ミキ、今日の予定は変更出来る?」
ふたりは顔を見合わせて頷く。
「大丈夫です」「うん」
「じゃあ、ハクレイさん親子が来てるからフウレン君の面倒を見てて欲しいんだ」
ギードはヨデヴァスの魔力検査のため、高名な魔術師であるハクレイに来てもらっている。
闘技場の件が落ち着いたこともあり、今なら二つ返事で来てくれると思った。
念のためサガンに迎えをお願いしたのだが、フウレンに見つかってしまい、
「商国へ行くのなら連れてってください」
と懇願されたらしい。
サガンはどっちでもいいと答え、ハクレイは渋っていたが、結局一人息子のフウレンには弱かった。
「はあい」
子供たちは喜んで引き受けた。
しかし、昨夜遅かったフウレンはまだ寝ている。
余談であるが、ヨメイア親子とタミリアもまだ夢の中であった。
子供は子供同士ということで館に残し、ギードはハクレイとサガンと共に、森の北東の出入り口へ向かっていた。
商国は周囲をほぼ森に囲まれており、出入り口は南西に一つと、北東の方角に一つある。
南西が正面となり、穀倉地帯の真ん中に他の国々に続く道があり、駅馬車が運行している。
北東は裏口となり、魔獣のいる危険地帯で、国境の壁がある石切り場への道が出来ている。
「ここでやりましょう」
ギードがふたりを案内したのは、魔獣地帯にある兵士の訓練場だった。
サガンたちがこの国に来てから、勇者の本家からサンダナを慕う私兵や使用人たちが次々とやって来た。
「じいがこっちに来たのを知って、追いかけてきたんだろう」
サガンはサンダナを幼い頃から教育していた執事であり、私兵の長でもあった老人を連れて来ている。
本家の執事長であった『じい』が高齢を理由に引退すると聞いて、サガンはすぐに話を持ち掛けたのだ。
勇者の一族の中で、サンダナの中身がガンコナーであることを知っているのは彼だけである。
独身を通して来た老兵には他に行く当てもなく、二つ返事で承諾してくれた。
勇者本家の私兵の中にはサンダナを慕っていた者も多い。
彼らの多くがじいと同じように移動を希望していた。
その話を聞いたギードは、すぐに北東の入り口の近くに兵舎を造り始めた。
そこには既に石切り場で働く囚人たちの収容所があり、他にも従業員用の施設もあった。
今では元勇者本家の私兵たちに石切り場の管理を任せている。
囚人の見張りを兼ね、交代で魔獣を狩ることも出来るので脳筋たちにはすこぶる評判がいい。
「サンダナさま、今日は視察ですかな」
引退したとはいえ、のんびりしているはずはない老兵が顔を見せた。
ギードたちと挨拶を交わす。
現在、兵舎の隣にはサガン一家の屋敷を建築中である。
ギードは、王都にいた頃より生き生きとして若返ったと評判である彼に、屋敷が完成したら再び執事として活躍してもらうつもりだ。
「ヨデヴァスさまは?」
じいはやはりヨデヴァスをひ孫のようにかわいがっている。
「まだ寝ていると思うよ」
サガンがそう言うと「まだまだ教育が足りませんな」とぼそりとつぶやく。
元気なご老人に父親三人は苦笑いだ。
その頃、子供たちは館を抜け出し、北東の入り口に向かっていた。
「フウレン、しっかり歩けよ」
「ううん、まだ眠いですぅー」
ヨデヴァスがフウレンの手を引っ張っている。
ユイリはさっさと行ってしまい、ミキリアはふたりの様子を見ながら少し先を歩いている。
森の中を抜けなければならないため、慣れない子供は足元が危ういのだ。
「ナティは?」
フウレンの言葉に、
「あいつはダメだ。うるさいのが付いてるから置いてきた」
とヨデヴァスが答えた。
「そうなんだ」
フウレンは少し残念そうな顔をした。
「あそこだ」
追いついたミキリアにユイリは木の影に隠れながら指さした。
森の出入り口から国境の壁までの開けた場所、石切り場までの道の脇に訓練場がある。
今はハクレイが魔道具を使い、土地の魔力の測定を行っていた。
「ここは魔獣が出るから危ない」と子供たちは柵から外へ出ることは禁じられている。
「なんて言ってるの?」
ミキリアは父親たちが何の話をしているのかが気になるようだ。
「………」
ユイリはじっと耳を澄ませている。
「ヨデヴァスの魔力検査の話だね。けっとうまほう?」
「?」
ふたりにとっては初めて聞く魔法である。
「けっとう魔法?」
少し息を切らせながらフウレンがユイリの言葉を聞き返す。
新しい魔法と聞くと目が輝くのはやはり魔術師の家系だからか。
「それは何だ?」
脳筋小僧は特に疲れた様子も見せず首を傾げている。
四人の子供たちはもう少し近くへと、出入り口の方へ向かった。
子供たちに気づいた老兵が警護するためにやって来た。
「ヨデヴァスさま、おはようございます」
「うむ。じぃじ、おはよう」
ヨデヴァスは老兵の側へ寄ると、顔を見上げて尋ねた。
「なあ、じぃじ。けっとうまほう、とは何だ?」
「そうですな。一言でいえば、一つの血筋にだけ受け継がれている魔法でございますな」
フウレンが目を輝かせる。
「もしかしたら、それは勇者の一族のことですか!」
聡い子である。じいは少し顔を歪めた。




